2011年12月下旬・気温1℃@雪面
スノーシューで山歩き中、遅い昼食を取ろうと大雪で埋もれかけた東屋に入りました。
壁は無いものの屋根はしっかりしているので、ベンチの置かれた中央部までは雪が吹き込みません。
ふと見渡すと、軒下に浅く積もった雪に蝶が埋もれていました。
翅を摘んでそっと取り出してみると、生きたアカタテハ(Vanessa indica)でした。
力無く羽ばたいて逃げようとしますが、低い気温のせいで飛べません。
アカタテハは成虫で越冬します。
雪の中で遭難したのでしょうか?
それまで埋もれていた雪が黄色い液体で汚れているのは蝶の排泄物かな?
ところが蝶をよく見ると、頭部が無いことに気づいてギョッとしました。
一頭目の無頭アカタテハa |
しばらくして反対側の軒下で別の行き倒れを発見。
これまた首無しアカタテハで、脳を欠いても翅や脚を動かすことができます。
雪の穴が自らの体液?(排泄物)で黄色く汚れているのも同じ。
穴に半ば埋もれているのは、陽が射したときに黒っぽい翅の輻射熱で周囲の雪が徐々に溶けたと思われます。
二頭目の無頭アカタテハb |
このような生きた首無し蝶を野外で見るのは初めてです。
一頭だけならまだしも、続けざまに二頭見つけたことがなんとも不気味です。(連続猟奇事件!)
自分なりにこのミステリーを推理してみました。
まず初めは事故で頭部を失った可能性です。
(1)野鳥などの捕食者につつかれて頭部を失いながらも命からがら東屋まで逃げてきた?(天敵説)
しかし、雪面に蝶が暴れた形跡や捕食者の足跡は見当たりませんでした。
2頭とも翅に損傷は無く胴体は食べられていないのが不思議です。
もしかするとアカタテハは強烈に不味いのでしょうか?
(頭部を味見しただけで諦めた?)
ある種の蝶が幼虫時代に蓄積した毒(アルカロイド)で身を守るという話を思い出しました。
しかし、アカタテハ幼虫の食草はイラクサ、カラムシ、ヤブマオなどのイラクサ科植物であり、有毒という話は聞いたことがありません。
(2)雪の中で眠ってしまった蝶の頭部だけが雪に凍りつき、私が摘み上げた際に首が千切れてしまった?(凍結ギロチン説)
しかし乾雪でさらさらしており、アカタテハをそっと救出した際も特に手応えを感じませんでした。
念のために、取れた頭部が残っていないか雪の中を注意深く探ってみるべきでしたね。
ちなみに以前、越冬中のテングチョウを雪面から拾い上げた際は頭部が取れたりしませんでした。
関連記事→「雪上のテングチョウ」次は生まれつきの奇形である可能性です。
(3)発達異常の個体?(突然変異説)
幼虫や蛹の時期から育ててアカタテハを羽化させた経験はありませんが、もしかすると無頭の奇形は頻度の高い(結構よくある)変異体なのかもしれません。
あるいは蛹の時期に内部寄生者が成虫原基の頭部だけを齧った…とかは考えにくいか。
この点は飼育経験者に話を聞いてみたいものです。
(4)福島原発事故に由来する放射能が蓄積した影響で奇形を生じた?(放射能による奇形説)
他の可能性もありますから、センセーショナルな憶測に性急に飛びつくのは禁物です。
しかし隣県に住む者として、潜在的な恐怖心がどうしても頭をよぎります。
しかし無頭が先天的な異常(奇形)だとすると、以下の疑問が生じます。
無頭の個体が蛹から羽化できるのか?
口吻が無いのに栄養も取らずにどうやってこれまで生き延びられたのか?
複眼も単眼も無いので天敵の接近を察知して逃げることも出来ません。
悪天候の雪山で道に迷った登山者一行が山小屋に避難してみると、中には先客が居た。
と思いきや首無しの死体が二体も転がっていて周囲の雪面に足跡などは残されていない。
死体が埋まった雪に残された謎の液体はダイイングメッセージか?
吹雪で閉じ込められた山小屋の中で死体を囲む登山者メンバーの間に疑心暗鬼が広がり、夜が明けると次の犠牲者が…。
―――なんていう設定はいかにもミステリでありがちな導入部ですね。
どなたか謎解きのアイデアがある方は是非コメントして下さい。
有り合わせの紙で即席の三角紙を折り、無頭のアカタテハ2頭を採集しました。
家に持ち帰ると、ときどき翅を弱々しく動かしながらその後3日間も室内で生き長らえました。
(口吻が無いので当然飲まず食わず。)
室温ではなく冷蔵庫に保管すれば更に長生きしたかもしれません。
えー、アカタテハの冬山猟奇事件とかけまして、ブラックコーヒーと解きます。
その心は、無糖/無頭です。
しぐまっちです♪(ドヤ顔)
お後がよろしいようで。
【追記】
≪参考文献≫
Hiyama, Atsuki, et al. "The biological impacts of the Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly." Scientific reports 2 (2012): 570. PDFチョウの羽や目に異常=被ばくで遺伝子に傷か-琉球大(ヤマトシジミを用いた研究)
【追記2】
福田晴夫、高橋真弓『蝶の生態と観察』によると、
越冬中の成虫発見例をタテハチョウ科でひろうと、(中略)アカタテハを崖から掘り出した、アカタテハが家のひさしにもぐりこんでいたなど、断片的な観察例が多い。(p177-178より引用)
ようつべ、いつも興味深く見ています。
返信削除奇麗に頭がないですね。蛹になってどろどろに溶けて、再構築するときに温度変化でもあったのでしょうか?
放射能冷鉱泉でも年換算で結構高い数字を出す所もありますから、関係ないと思いますよ。
yosiwarasyougunさん初めまして。
返信削除コメントありがとうございます。
変態時の温度変化でこのような異常を来すかどうか、飼育してみれば検証できますね。
無頭というインパクトの強い(ショッキングな)奇形だったので、放射能汚染説は同行者が真っ先に口にした懸念でした。
ガイガーカウンターを買って辺りを線量測定してみたら、実は隠れたホットスポットかもしれませんし…。
私は「他の可能性もあるよ」と思いつくままに列挙してみたのです。
無頭の異常個体が近くで二頭見つかった事実を一番無理なく説明できそうなのはギロチン説かなーと思っています。