ページ

2010/12/11

オオスズメバチの共食い




2010年9月中旬

里山で砂利道を下っているとオオスズメバチVespa mandarinia japonica)のワーカー♀が飛来。
路上の汚物を目がけて着陸し、先客のハエを追い散らしました。
謎の黒い物体はタール状なので一瞬獣糞かと思いましたが、どうやら車に轢かれた虫の内蔵みたいです。
肉団子を作りかけウロウロしていた蜂は、近くに瀕死のオオスズメバチが転がっていることに気づきました。
先程の腹わたはこの被害者のもののようです。
既に先客のアリが獲物に群がり巣に運んでいます。
二匹のオオスズメバチは同じぐらいの体長ですが、同じ巣の仲間なのか不明です。
驚いたことに、いきなり死骸の首に噛みついて力任せに引きずり、ねじ切るように断頭しました。
その場で食肉処理(咀嚼)することなく生首を巣に持ち去りました。
スズメバチの共食い行動は初めて見ました。
まさか切腹状態でもがき苦しみつつ蟻に攻撃される同胞を哀れんで介錯してやったのだろうか。
首無しの死骸をよく見ると未だ生きており、虫の息で脚が痙攣していました。
腹端近くに損傷があり、腹部側面が縦に裂けています。
虫同士の喧嘩ではあり得ない致命的な外傷です。
検死の第一歩として被害者の性別を知りたくても、肝心の触角の形状をもはや見れません(首実検)。
しかし毒針が無く腹部の体節が7つあるので♂です※。
交尾後の♂なのだろうか。
ミツバチとは違い、確かスズメバチは交尾に成功した♂も腹部が破裂して絶命することはないはずです。
オオスズメバチの交尾は巣のすぐ近くで行われるそうです。
近くに黒いタール状の内臓が地面に残されています。
ここが轢き逃げ(ロードキル)の現場で、動けなくなった被害者をアリが寄って集って引きずって来たのだろうと推理しました。
しかし元気な蜂なら車が通っても逃げるはずですから、元々弱って行き倒れていたのだろう(寿命?)。


死骸を運搬中の蟻はクロヤマアリのようです。
死骸のぱっくり開いた腹端に重点的に齧り付いています。
翅を咥えて引っ張ろうとする働き蟻もいます。


現場検証中に再びオオスズメバチ♀が低空飛行でやって来ました。
目の前で誰何するようにホバリングされ焦りましたが、身を固くしてやり過ごしました。
殺人犯(ホシ)はなぜか現場に戻って来ると言いますが、先程頭部を持ち去った♀と同一個体かどうか不明です。
さきほど生首を咥えて飛び去った際に場所を覚えるための定位飛行は行わなかったので、もう戻ってこないだろうと油断していました。
オオスズメバチ♀は死骸を少しだけ引きずるも、すぐに餌として興味を失い飛び去りました。
更に10分ほど現場で待ちましたが、もう蜂は戻って来ませんでした。
なかなか興味深い猟奇的な事件でした。


※腹部体節の数え方にあまり自信なかったのですが、蜂屋さんに見てもらって♂とのお墨付きを頂きました。

【追記】
『スズメバチの科学』p119-121によれば、

(オオスズメバチは繁殖期に巣口付近で新女王蜂と雄蜂が交尾する時間帯になると)働き蜂の外役活動は減り、飛び交う雄蜂に対して攻撃的になる。弱い雄蜂は、働き蜂に捕まり翅を噛み切られたり、毒針で刺し殺されるほどである。殺された雄蜂は肉だんごにされ、巣内の幼虫の餌となる。



0 件のコメント:

コメントを投稿