2019/01/03

シャグマユリの花から離着陸を繰り返して縄張り占有するアキアカネ成熟♂【HD動画&ハイスピード動画】



2018年9月下旬

農村部の物置小屋の前に咲いたトリトマ(別名シャグマユリ)の花穂の天辺にアキアカネSympetrum frequens)成熟♂が止まっていました。
腹部が赤く色づいて「赤とんぼ」になっているのは性的に成熟した証です。
花穂からときどき飛び立っても、またすぐに舞い戻って来ます。
見晴らしの良いここを縄張りの拠点として、交尾相手の♀や獲物が飛来するのを待ち構えているようです。


(アキアカネの)成熟♂は朝方に草地や樹上で探雌飛翔するほか、日中は水辺の植物や地面に止まって縄張り占有し、♀を見つけると捕えて交尾する。(『日本のトンボ』p389より引用)

止まったまま時間が経っても、翅を深く下げた休息姿勢になりません。
翅を水平よりやや持ち上げた姿勢のままで、いつでも飛び立てる臨戦状態を保っています。
大きな複眼のある頭部がときどきグリグリと動き、辺りを油断なく見張っています。

ちなみに、ときどきバーン!と聞こえるのは、銃声ではなく近くの田んぼに設置されたスズメ追いの爆裂音です。

▼関連記事
収穫前の田んぼからスズメ(野鳥)を追い払う爆音機♪
この爆裂音が鳴ってもアキアカネ♂は驚いて逃げたりしませんでした。
もうすっかり慣れてしまって気にならないのか、それともトンボは聴覚があまり発達していないのでしょうか。

アキアカネ♂の離着陸や飛翔シーンを240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:11〜)
離陸シーンでは、前方に飛び出すだけでなく、いきなり急上昇することも斜め後方に飛び上がることもありました。
縄張りを軽く一回りした後、シャグマユリの花穂に近づいてホバリング(停空飛翔)しながら畳んでいた脚を広げて着陸します。
花穂に止まる向きが決まっているせいか、着陸時はいつも同じ方向からアプローチしています。
戻ってきたアキアカネ♂をよく見ても、獲物は何も捕らえていません。

渡辺守『トンボの生態学』によると、

ノシメトンボの採餌飛翔の経路は、静止場所の上空を通過しようとする小昆虫に向かってほぼ一直線に飛翔し、捕獲成功の有無にかかわらず空中で反転し、もとの静止場所に戻ってくるという8の字型である。(p48より引用)

今回のアキアカネ♂の行動も採餌飛翔(捕獲失敗)の繰り返しなのかもしれませんが、もう少し引きの絵で撮らないと飛翔経路が8の字型になっているかどうか分かりませんね。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。

余談ですが、この園芸植物の「トリトマ」という呼称は旧属名から来ているらしいので、そのうち使われなくなりそうです。
現在の分類体系ではユリ科Tritoma属ではなくツルボラン科Kniphofia属とのこと。


アキアカネ成熟♂@シャグマユリ花序天辺+縄張り占有
アキアカネ成熟♂@シャグマユリ花序天辺+縄張り占有
アキアカネ成熟♂@シャグマユリ花序天辺+縄張り占有

2019/01/02

鼻息を荒げ蹄を踏み鳴らして威嚇するニホンカモシカ



2018年9月下旬
▼前回の記事
スギ林の急斜面を下りながら眼下腺マーキングするニホンカモシカ

山林の獣道から車道に下りてきたニホンカモシカCapricornis crispus)は私に気づき、じっと凝視しています。
カモシカは目が悪い(近視)らしいのですが、濡れた鼻をヒクヒクさせて私の匂いを嗅ごうとしています。
角や耳介には個体識別の特徴となるような欠損などは見当たりません。

実はカモシカとの遭遇に備えて、車道に立っていた私はそっと姿勢を低くして片膝立ちになって待ち構えていました。
警戒心の強い野生ニホンカモシカにどうしたらより近づいて撮れるか、という私なりの試行錯誤のひとつです。
カモシカが見ている前で姿勢を低くしてもあまり効果が無いことが分かっています。


▼関連記事(4年前の撮影)
ニホンカモシカ(左角欠け)の鼻息威嚇♪と逃走

やがてニホンカモシカは、いつものようにフシュ、フシュ♪と鼻息を鋭く吐いて私に威嚇し始めました。
濡れた鼻から鼻水が垂れています。
騒ぎを聞きつけた野次馬のカケスが近くの樹上でけしかけるようにジャージャー♪と警戒声を発し始めました。
私がじっと動画を撮り続けていると、ニホンカモシカは意を決したように舗装された車道に出て来ました。

鼻息威嚇に効果が無いことに業を煮やしたカモシカが数歩ずつ前進して近づいて来るようになりました。

見慣れない無礼な侵入者を縄張りから追い出そうとしているのでしょう。
揃えた前脚を高く跳ね上げてから振り下ろし、左右の蹄を舗装路に同時に打ち付けてカッ♪と鳴らします。
突進する素振りはただのブラフだろうと分かっている私は、落ち着いて撮影を続けます。
カモシカが居丈高に蹄を踏み鳴らす威嚇の示威行動を実際に見るのは初めてで、内心とても興奮しました。

路上でしゃがんで片膝立ちをしていた私の足が痺れてきたので、撮りながらゆっくり体勢を変え、両膝立ちになりました。 
現場は勾配のある峠道で、私の方がカモシカよりも少し高い位置に居ます。
両膝立ちでも見かけの身長はカモシカより低く保っています。
今回の個体が強気で私を恐れず威勢が良いのは、おそらく私が姿勢を低くしているからだと思います。

尻尾を左右に振っているのは、体に集る吸血性の昆虫を払っているのでしょう。 
興奮状態を表しているボディランゲージなのかもしれません。

強気のカモシカが調子に乗ってどんどん私に近づいてくるので、状況が緊迫してきました。
正直に言うと、このまま野生のカモシカに角で小突かれてみたいという密かな願望は少しありました。
しかし怒ったカモシカの鋭い角で本気で突かれたら大怪我しそうです。
これ以上カモシカとチキンレース(度胸試し)を続けるのは危険と判断し、私もカモシカの鼻息威嚇を真似して応戦することにしました。


▼関連記事(6年前の撮影)
野生ニホンカモシカと鼻息で鳴き交わしてみる

カモシカがフシュフシュ♪と鼻息威嚇をしてきたら、そのすぐ直後に私も応戦します。
私がただ鼻息を吐いても大きな音が出ないので、口から気迫を込めた歯舌音でシュッ♪と鋭く発するようにします。
すると効果てきめんで、カモシカはそれ以上近寄らなくなりました。
さっきまでの強気が嘘のように、神経質そうに横を向き(視線を逸らし)がちになりました。
これは弱気のサインです。
戦意喪失したカモシカは遂に完全に体を横に向けると、腹立ち紛れに鼻息威嚇しながら路肩のガードレールをひらりと飛び越えました。
ススキの茂みに隠れながらも、負け惜しみのようにしつこく鼻息を荒げ続けています。
ここでようやく私が立ち上がると、驚いたカモシカは藪に覆われた斜面を慌てて駆け下りて行きました。
この対決を見守っていたカケスがやんややんやと囃し立ててくれました。
幸い車が1台も通りかからず、誰にも邪魔されずに野生動物と1対1の濃厚な遭遇を体験をすることができました。
迫力のある映像が撮れて大満足です。

私の撮影スタイルはカメラの液晶ディスプレイを見るのではなく、カメラを顔の正面に構えてファインダーを覗いているため、カモシカと視線を直接合わせませんでした。
カモシカから見ると私はカメラで顔(目)を隠していたことになります。
野生動物をじっと直視(凝視)するのは敵意の現れと解釈されるので、例えばニホンザルを相手にするときなどは特に注意が必要です。
今回のカモシカが私を恐れず(舐めてかかり)近づいてくれた理由として、視線を隠し低姿勢だったことの他に考えられるのは、私が全身迷彩服を着ていたことです。
アスファルトの路上に居たので周囲に溶け込む迷彩効果はありませんが、見慣れない模様にカモシカは戸惑った(興味を持った)のかもしれません。

一触即発のにらみ合いになっても長年の経験と知識を活かして我ながら冷静に対処できました。
もしかすると結構危ない状況だったのかもしれません。
しかし私には切れるカードがあともう2枚ありました。
カモシカが迫ってきても逃げずに急に立ち上がりカメラで隠していた顔を見せて睨みつければ、私はカモシカよりも身長が高いので怯むはずです。
もしそれでもカモシカの突進が止まらなければ、最終手段として、クマも撃退できる強力な催涙スプレーを噴射するつもりでした。
(夏山に入る時は必ず熊よけスプレーを腰のホルスターに携帯するようにしています。)
以上ノウハウみたいなことを書いてみましたが、カモシカの気性には個体差がありそうですから、これを読んだ人が真似して襲われても私は責任を負えません。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



つづく→再会篇


ニホンカモシカ:顔@車道+対峙
ニホンカモシカ@車道+対峙
ニホンカモシカ@車道+対峙
ニホンカモシカ@車道+駆け寄り威嚇

 

↑【おまけの動画】 
"Utah mountain goat wants to fight!"  by Kevin Slider
北米の氷河を登山中に好戦的なシロイワヤギに絡まれたときの対処方とは?

セイヨウタンポポの花蜜を吸うイチモンジセセリ



2018年9月下旬

川原の堤防に咲いたセイヨウタンポポの群落でイチモンジセセリParnara guttata)が訪花していました。
普通種同士ですが、意外にもこの組み合わせは初見でした。

翅がかなり擦れた個体です。
その翅を半開きにして吸蜜しています。
ようやく翅を閉じてくれたときに、翅裏の紋様が一直線に並んでいるのを確認できました。
閉じた翅を小刻みに震わせているのは、いつでも飛び立てるように準備運動しているのでしょう。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



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