2022年10月中旬・午後15:15頃・晴れ
山麓の休耕地に座り込んでいたニホンザル♀(Macaca fuscata fuscata)が体の痒い部位を掻いています。
やがて立ち上がると、目の前に生えていたオニノゲシへ近づいて、その横に座り直しました。
歩き去る後ろ姿の尻や股間の様子から♀と分かります。
オニノゲシの株に手を伸ばして引き寄せると、鋭い鋸歯だらけの葉を物ともせずに、太い茎を折って噛み付きました。
そして棘だらけの葉を1枚根元から口でちぎり取って食べたので、見ていた私はビックリ仰天しました。
オニノゲシは草食動物に食べられないように進化しているはずだからです。
まず化学的な防衛策として、植物組織内に苦くて粘性の高い白い乳液(ラテックス)を蓄えていて、植物体を傷つけるとこれを分泌します。
次に物理的な防衛策として、葉縁の鋸歯が鋭くて触ると棘のように痛みを与えます。
このグループの植物で鋸歯のトゲトゲを最大限に(鬼のように荒々しく)強化したのがオニノゲシです。
まるで鉄条網や有刺鉄線を身にまとっているようです。
ニホンザル♀はオニノゲシが備えた二重の防衛策を難なく突破して葉を採食したことになります。
さすが桃太郎の家来として鬼退治に参加しただけありますね。
猿は乳液(ラテックス)の苦味が気にならないのでしょうか?
レタスのようなホロ苦さで逆に美味しいと感じるのかな?
しかし、このニホンザル♀はせっかく採取した葉を1枚味見しただけで残りはその場に捨てたので、結局オニノゲシは猿の食害を最小限に食い止めることに成功したという評価になりそうです。
(瀕死の重傷を負いながらも、オニノゲシ個体の全滅は免れた。)
あるいは、葉そのものではなく、それに付いていた昆虫を見つけて捕食した可能性もありそうです。
関連記事(12年前の撮影)▶ オニノゲシの葉を食すホソバセダカモクメ(蛾)幼虫
もしもイモムシを捕食したいのなら、わざわざ痛みを我慢してオニノゲシの葉に触れなくても、手先の器用なニホンザルならイモムシだけを手で摘みとって食べれば良いはずです。
過去の採食記録を後で調べてみると、オニノゲシがしっかり含まれていました。
三戸幸久. ニホンザル採食植物リスト. Asian paleoprimatology, 2002, 2: 89-113.この文献は全文PDFを無料でダウンロードできるので、参考資料としていつも重宝しています。
ちなみに、ニホンザルの全個体がオニノゲシが好物とは限らないようです。
実はこの直前に近くで撮影した別個体♀は、オニノゲシやアキノノゲシを食べませんでした。(映像は割愛)
私が遠くの被写体を撮る時には、カメラの光学ズームを使うだけで、デジタルズーム機能は画質が劣化するので普段は使いません。
今回は意外な採食メニューをしっかり見極めるために、デジタルズームを駆使して最大にズームインしてみました。
ニホンザル♀が立ち去ってからズームアウトしてみると、左下の家庭菜園には葉菜が栽培されていることに気づきました。
もし私が近くで見ていなければ、猿たちはこれも食害したかな?
しかし電気柵で囲まれていないということは、ニホンザルが好んで食べる作物をこの区画で育てていないのでしょう。