2023/04/12

不自由な右後足をかばって痛々しく跛行するニホンザル♀

 



2022年10月上旬・午後14:00頃・くもり 

山間部の峠道で仲睦まじく相互毛繕いを長々と続けていたニホンザル♀♂(Macaca fuscata fuscata)の観察記録4部作の完結編です。 
私が至近距離(2〜3m)まで近づいても、逃げずに各自で毛繕いしています。 
もしかすると元から人馴れした個体群で過去にヒトから給餌された経験があり、今回も私が食べ物を投げ与えることを期待していたのかもしれません。 
あるいは、「餌付け」に頼らず「ヒト付け」に成功した!と悦に入る私を逆に興味津々で観察していたのかもしれません。

先を急ぐ用事があって焦っていた私は、どうしても猿の横を通り抜けてこの道を下山する必要がありました。 
2頭のニホンザルが居座っている路肩の反対側を私がゆっくり通り過ぎようとしたら、ついに大柄な成獣♂が立ち上がり、私から離れるように歩き始めました。 
舗装された車道を斜めに渡ると、谷側の路肩の車止めブロックの上に乗って座りました。 
車が崖から落ちないように、コンクリートの立方体の塊を点々と等間隔に並べてあるのです。
多雪地帯なので、普通のガードレールを設置すると深く積もった雪の重みで毎年グニャグニャに曲がって交換しないといけなくなります。
一方、小柄な若い♀は、離れて行く♂をちらっと見送っただけで、路上に座ったまま毛繕いを続けています。 
私がカメラをズームアウトすると、♀も渋々立ち上がって♂が居る隣の車止めに並んで座りました。 
このとき車道を横断する♀の歩行に注目して下さい。 
四足歩行しているものの、よく見ると右後趾が不自然な外向きで、それをかばって歩いています。 
車止めに座った♀が正常な左足を使って体の痒い部位を掻いていますが、逆の右足で掻く様子は観察できませんでした。(右足では掻けない?) 

私がニホンザルたちに遠慮して、迂回するように反対側の路肩を通り過ぎようとゆっくり歩き出すと、意図を察したように猿も逆方向に遊動を始めました。 
♂が♀を追い越しながら車止めを渡り歩き、私から離れて行きます。 
♂の後からついて行く♀の歩行が明らかに異常です。 
右後脚を車止めブロックに付かないようにかばってケンケンと跛行していました。 
右足の裏を怪我しているのかと思ったのですが、出血など明らかな外傷は認められません。 
先導する♂が車止めから降りるとノシノシと車道を斜めに横断し始めました。 
後続の♀が舗装路を歩き去る際に、ケンケン跳びを止めてようやく右後脚の足を接地しました。 
ところが右足をやや外向き(ガニ股)に接地し、しかも足の指を浮かせて歩いています。 
不自由な右足をかばって歩くために左右非対称な歩行となり、体全体が左に傾いています。 
正常に歩行する♂は、後足をやや内股気味にして指もペタペタと着地して蹴り出しています。
跛行する♀は棘などをうっかり踏んでしまい刺さった傷が痛いだけなのかと初めは想像したのですが、もしかすると先天性の軽い奇形なのかもしれません。 
やんちゃした若い♀が「猿も木から落ちる」で右足を負傷したのかな?(捻挫・骨折)

先行する♂は舗装された峠道から左脇に外れ、藪に覆われた山側の斜面(法面)を登って行きます。 
慌てて追いかける♀が走るときには四足歩行から跛行(ケンケン跳び)に切り替えました。 
3本足の不自由な歩行でも、なんとか仲間について行けるようです。 
3本足で木登りが可能かどうか確かめたかったのですが、残念ながら見失いました。
同一個体か分かりませんが、右後脚が不自由でヒョコヒョコと跛行する個体は最近トレイルカメラにも写っていました。 
別個体だとすると、ニホンザルの跛行は珍しくないようです。


さて、今回長々と相互毛繕いしていた野生ニホンザルの♀♂ペアはどういう関係なのでしょうか? 
父娘のペアなのかな? 
足の不自由な娘を心配した父親が世話していると擬人化・美談化したくなりますが、ニホンザルの社会は乱婚なので父性の自覚はないはずです。 
周囲に群れの気配(鳴き声など)が全く感じられなかったので、離れザル♂のような気がします。 
右足が不自由なせいで山林を遊動する群れから脱落してしまった♀を見つけた離れザル♂が、将来の交尾相手(候補)として仲良くしているのではないか?と想像を逞しくしました。 
あるいは、気の合う♀♂カップルが群れからこっそり抜け出して逢引を楽しんでいたのでしょうか? 
群れ内で順位の低い♂が特定の♀と仲良くしようとするとα♂(いわゆるボス猿)が怒って邪魔をするらしいので、一時的にこそこそと駆け落ちするしかありません。 
しかし、どう見ても今回の♀は若過ぎますし、♂は成獣とは言え発情していませんでした。 

柳の樹液酒場でスジクワガタ♀に誤認求愛するコクワガタ♂(繁殖干渉の配偶者ガード?)

 

2022年9月上旬・午後14:00頃・晴れ 

平地を流れる川沿いに生えた柳(種名不詳)から樹液が滲み出していて、その樹液酒場に集まる昆虫を定点観察しています。 
この日はコムラサキApatura metis substituta)が♀♂1頭ずつ来ていました。 
♀♂ペアが仲良く並んで柳の樹液を吸汁しているのに、求愛や交尾などの配偶行動が始まらないのは不思議です。(色気より食い気) 




柳の枝の下面にえぐれたような樹洞があり、その上にコクワガタ♂(Dorcus rectus rectus)が覆い被さるように静止していました。 
口吻を見ると樹液を舐めている訳ではなく、左半身だけ穴の中に差し込んだままじっとしています。 
コクワガタ♂は直下の樹液酒場からコムラサキ♀♂を追い払おうとしませんでした(占有行動なし)。 

撮影を中断して、コクワガタ♂を手掴みで採集しました。 
コムラサキ♂は逃げてしまったものの、♀はずぶとく樹液酒場に居残って吸汁を続けています。 
コクワガタ♂を取り除くまで気づかなかったのですが、柳樹洞の奥に大顎の短いクワガタムシの♀が潜んでいました。 
安全な場所に陣取って樹液を舐めていたのでしょう。 



コクワガタ♂は樹液酒場で配偶者ガードしていたのだと、ようやく腑に落ちました。 
つまり、♀と交尾する機会を狙いつつ、ライバル♂が近づけないように♀を守っていたのです。(交尾前ガードではなく交尾後ガード?) 

関連記事(同所で32日前の撮影)▶ 柳の樹洞に籠城するコクワガタ♀にしつこく求愛する♂

採集したクワガタ♀♂を1匹ずつ透明プラスチックの円筒容器(直径7.5cmの綿棒容器を再利用)に移し、背面と腹面をじっくり観察してみましょう。 
ツルツルした容器壁面をクワガタはよじ登れませんし、仰向けに置くと脚をばたつかせて暴れるものの、足先が滑って自力では起き上がれません。 
♀の方は驚いたことにスジクワガタ♀(Dorcus striatipennis striatipennis)でした。 
鞘翅にうっすらと縦筋があります。 




となると、問題はクワガタ♂の方です。 
大顎の内歯が1歯なのでコクワガタだと思うのですが、鞘翅にうっすらと縦筋があるような気もしてきます。 
コクワガタ♂だとすると、樹洞に籠城するスジクワガタ♀を同種の♀だと誤認求愛し、異種間で配偶者ガードしていたことになります。 




コクワガタとスジクワガタはどのぐらい近縁なのでしょうか? 
ネット検索してみると、この2種が交雑することは無いそうです。 
日本産クワガタムシの分子系統樹がどうなっているのか知りたくて文献検索してみると、次の全文PDFが無料で入手できました。
松岡教理; 細谷忠嗣. 日本産クワガタムシの分子系統学的研究.弘前大学農学生命科学部学術報告 2003.

解析結果の図2を転載させてもらいました。
ただし、これはタンパク質レベルで比較したアロザイム分析なので注意が必要です。 
この結果だけを見れば、コクワガタとスジクワガタは最も近縁ですから、異種間で誤認求愛するのも不思議ではありません。
しかしクワガタ愛好家の知見によれば、コクワガタとオオクワガタはまれに交雑するのに対して、コクワガタとスジクワガタは決して交雑しないのだそうです。
つまり、交雑可能性や生殖隔離という点ではコクワガタに対してスジクワガタよりもオオクワガタの方が近縁種ということになり、上記のアロザイム分析の結果は生物学的種の概念に明らかに反しています。(生殖隔離を説明できない。)
最新のDNA分析ではクワガタの分子系統樹が変わるのか、当然知りたくなります。 
続報として同じ筆者による博士論文がヒットしましたが、要旨(概要)しか閲覧できませんでした。
細谷忠嗣. クワガタ属 (甲虫目クワガタムシ科) とその近縁属の分子系統学的研究. 2004.
たとえ異種間で交尾できたとしても雑種の繁殖可能な子孫F1が残せないとなると、今回のスジクワガタ♀にとってコクワガタ♂のしつこい誤認求愛や配偶者ガードはただただ迷惑なセクハラでしかありません。
スジクワガタ♀の繁殖機会を奪っている訳ですから、コクワガタ♂の振る舞いは繁殖干渉です。
私の個人的な印象では、当地のスジクワガタは山地に偏ってほそぼそと分布しています。
スジクワガタが平地に分布を広げられないのは、どこにでも居る普通種のコクワガタが繁殖干渉(セクハラ)するせいかもしれません。
この仮説が正しければ、逆にスジクワガタ♂がコクワガタ♀に誤認求愛、配偶者ガードすることは無いはずですから、飼育下で検証可能です。

素人が背伸びして(先走って)勝手に考察してみましたが、そもそも私は恥ずかしながらクワガタの同定にいまいち自信がありません。
(特に今回の♂がコクワガタかスジクワガタかどうかについて)
もし同定が間違っていたら、ご指摘願います。
たとえば、ヤナギ樹洞の奥に隠れていた個体がスジクワガタ♀ではなくて小型のスジクワガタ♂やコクワガタ♀だとしたら、動画の解釈がまるで頓珍漢ということになり、目も当てられません…。

余談ですが、スジクワガタ♀を採集した後にもコムラサキ♀が樹液酒場に最後まで居座っていました。
ところがフラッシュを焚いて写真に撮ると、右半分の翅表だけに鮮やかな青紫色の光沢がありました(♂の性標)。
自然光下の動画ではてっきり地味な翅色の♀だと思っていたのですが、雌雄モザイクの変異個体なのでしょうか?
だとすれば、隣に居たコムラサキ♂個体と配偶行動が始まらなかった理由も説明できそうです。
それとも、翅を開いた角度の違いで青紫の構造色がストロボ光に反射したりしなかったりしただけかな?

コムラサキ:雌雄モザイク?@柳樹液酒場

テントウムシの研究で有名な鈴木紀之先生が繁殖干渉について「すごい進化ラジオ」で分かりやすくオンライン講義してくれているのでお薦めです。(全9回)


2023/04/11

ニホンアナグマ2頭が交互に通う溜め糞場【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2022年10月上旬 

自動撮影カメラで監視しているスギ林道の溜め糞場sに来るニホンアナグマMeles anakuma)の記録です。 

シーン1:10/2・午前00:55・気温16℃ 
アルビノ?個体が深夜の林道を左から登場しました。 
顔だけでなく足も白っぽい個体です。 
林道上のあちこちにしゃがんで尻の臭腺をスギ落葉や下草に擦り付けて回ります。 
画面の下に消えたものの、すぐに戻って来ました。 
自分たちの溜め糞場を匂いで探り当てると、右を向いて排便しました。(@0:35〜) 
そのまま右へ立ち去りました。 


シーン2:10/4・午前2:02・気温17℃ (@0:50〜) 
2日後に真夜中の林道を右から来た個体は顔にアナグマ特有の黒い模様がありました。 
自分たちの溜め糞場でアルビノ?が2日前に残した大便の匂いを嗅ぐと、自分は横にスクワットマーキングしただけで、林道を右に戻りました。 
右から来て右に帰ったということは、アナグマの巣穴の方向は右にありそうです。 
この溜め糞場はきっとアナグマの縄張りの端に位置しているのでしょう。


シーン3:10/4・午後21:08・気温20℃ (@1:32〜) 
19時間後に正常型のアナグマ(顔に黒い模様あり)が再び林道を右から歩いて来ました。 
同一個体なのかどうか、定かではありません。 
珍しく林道の左端を歩き、溜め糞場sを素通りして左へ行きました。 


この溜め糞場sに通うアナグマは少なくとも2頭いることが分かっています。 

アルビノ?個体と通常個体がつがい関係にあるのではないかと予想しているのですが、タヌキと違ってアナグマは♀♂ペアが連れ立って一緒に溜め糞場に来ることが一度も無いので、確信が持てません。 

赤外線の暗視映像で白っぽく見える個体が本当にアルビノ(または白変種)なのか、体色を可視光でしっかり撮影してみたくなります。 
当地のアナグマは夜行性で昼間には来てくれないので、夜にフラッシュを焚いて写真に撮るか、トレイルカメラの投光器を赤外線ではなく白色光の照明にするか、工夫するしかありません。 
しかしフラッシュやサーチライトに警戒心を抱いた野生動物が溜め糞場に近寄らなくなったら本末転倒なので、悩ましいところです。
モノクロの暗視映像から被写体の色を推定・復元してくれるアルゴリズムが実用化されれば理想的です。



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