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2012/11/21

オオシロフクモバチ♀の営巣(中編)獲物搬入、巣坑閉鎖と寄生ハエ



2012年8月中旬

前編の記事はこちら


クモバチ科の蜂はふつう獲物を狩った後で巣穴を準備します(造巣先行型)。

このオオシロフクモバチ♀(旧名オオシロフベッコウ;Episyron arrogansは巣穴を掘る前に狩ったクモをどこか近くに隠していたようです。
毒針で麻痺させられた獲物は緑色の造網性クモで、後にサツマノミダマシ♀成体(コガネグモ科)と判明。
蜂が獲物を咥えて後ろ向きにイネ科の草葉を登って行きます。
そのまま巣へと滑空するのかと思いきや、違いました。
草葉の二股部分に獲物を挟み込んで、落ちないように保管しています。
掘坑作業中に獲物をアリに奪われないための知恵と思われます。
辺りにアリが多いため、念のため保管場所を変更したのでしょう。
以前、オオモンクロクモバチ♀でも同様の習性を観察しました。

参考記事→「オオモンクロベッコウのアリ対策
帰巣した蜂は、穴掘りを再開。
またすぐにすごい速さで飛び回り、自分で隠した獲物を必死で探し回っています。

(もしかすると、寄生ハエの追跡を振り払おうと逃げ回っているのかもしれません。)
蜂が獲物を取りに戻りました。
クモの歩脚の根元を大顎で咥えて保管場所の草葉から地面に下ろすと、後ろ向きに引きずりながら巣の方へ運び始めました。
と思いきや、再び別の草の茎を登り、すぐ飛び降りました。
天敵のアリ対策で神経質になっているのか、こまめに保管場所を変えるようです。







帰巣していた蜂が巣穴の点検を終えると、地面に置かれた獲物を取りに戻りました。
後ろ向きに引きずって、ようやく獲物を巣に搬入します。
いつの間にか寄生ハエ♀(ヤドリニクバエの仲間)が数匹現れ、巣穴横に置いた一円玉の上で待ち伏せしています。@1:50
蜂が独房に貯食している間に素早く幼虫を産仔(さんし)しました。
寄生ハエは産卵ではなく、体内で孵化した幼虫を産出するのです。
独房内で方向転換した蜂が巣口に顔を出すと、寄生ハエは素早く逃げました。
蜂がいったん外に出て方向転換すると、今度は後ろ向きに入巣しました。
中の様子は見えませんが、獲物のクモの体表に産卵していると思われます。
この隙に寄生ハエ♀が再び現れ、巣口でまんまと幼虫産出。
アリもやって来ましたが、これはオオシロフクモバチ♀が追い払いました。





産卵の次は巣坑の閉鎖です。
斜坑に後ろ向きに入った蜂が(巣口を向いて)土砂を中に掻き入れ始めました。
腹端を上下に高速振動させて巣坑を突き固める独特の整地行動が見られます。

作業の合間に顔や触角を拭い、身繕い。





【寄生ハエについて】
今回、寄生ハエは採集できず、写真に撮っただけです。
数日前に同じ営巣地でジガバチにしつこくつきまとっていた
シロオビギンガクヤドリニクバエ♀と同種と思われます
関連記事はこちら

だとすると、シロオビギンガクヤドリニクバエ幼虫(蛆虫)が食べて育つ餌は鱗翅目の幼虫(ジガバチの貯食物)でもクモ(クモバチの貯食物)でも選り好みしないということになります。
産仔された蛆虫は斜坑内で生き埋めにされても自力で這って獲物まで辿り着くのでしょうか?


前回はジガバチ♀が力仕事の際に発する鳴き声に誘引されて寄生ハエが集まったのではないかという可能性を考えました。
一方、オオシロフクモバチは穴掘り作業中にジージー♪鳴いたりしません。
にも関わらず、寄生ハエが絶妙のタイミングで集まって来ました。
ジガバチの営巣地に張り込みしていたら偶然クモバチが営巣を始めたのでしょうか?
聴覚以外の手がかりで寄主の巣穴に誘引されるのでしょうか?
それとも視覚で直接寄主の蜂を見つけ、営巣地まで追跡するのでしょうか?

巣穴の横の小石で待機




平凡社『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p34に「ベッコウバチ対ヤドリニクバエ」と題したコラムが掲載されています。

  • オオシロフクモバチの巣穴によく来るハエは、巣穴探索タイプで、関西ではヤドリニクバエ亜科のタイワンヤドリニクバエとミナミヤドリニクバエが知られている。
  • ハエの幼虫たちは、獲物のクモはもちろん、クモに産み付けられているベッコウバチの卵も食べてしまう。
  • ハエの存在を感知すると、ベッコウバチはアンテナをぴんと伸ばし、長いときは10分も凍ったように静止する。
  • 穴掘りの早い段階でハエに気づいた場合はあっさり巣を放棄して別の場所で再営巣を試みる。(狩りをしてから営巣するベッコウバチの気楽さ)
  • 穴掘りがかなり進行してからハエに気づいた場合はなぜか巣場所の変更などの寄生回避行動がみられない傾向がある。



後編につづく。

【参考動画】
クモを狩るハチ オオシロフベッコウ(154秒)」


今回見逃した狩りのシーンをNHKが公式に提供する資料映像でご覧下さい。
オオシロフベッコウ(オオシロフクモバチの旧名)♀がジョロウグモおよびナガコガネグモを狙っています。



【参考文献】
無料PDF
遠藤彰. "オオシロフベッコウバチとタイワンヤドリニクバエの寄主-寄生関係." 日本生態学会誌 30.2 (1980): 117-132.



2012/11/17

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#3:再搬入失敗



2012年8月上旬

巣穴の横にある木片の上で寄生ハエ♀が待ち伏せしています。
ジガバチ♀が木片に登ると蝿は逃げて行きました。

茂みに隠しておいた獲物の元に戻った蜂は、大顎で大事そうに咥えます。
麻酔が不完全だったようで、たまに獲物の下半身が激しく蠕動します。@1:53-2:12
それを蜂が不思議そうに見つめていますが、再麻酔手術は行いませんでした。
芋虫の上半身は完全に麻痺しているようです。

ジガバチ♀を個体識別するため、遅まきながら標識することにしました。
蜂を一時捕獲・麻酔せずに隙を見て直接、水色の油性ペンでマーキングしました。(映像なし)
腹背を狙ったつもりが手元が狂い、蜂の翅先および獲物の体表もインクで汚れてしまいました。

隠した獲物を後生大事にガード

個体標識直後(水色)
 しつこい寄生ハエをまいた(ほとぼりが冷めた)と判断したのか、母蜂は再び巣坑を目指して獲物を運び始めました。@2:50
先程埋め戻した巣口まで辿り着くと、獲物を地面に置きました。
横に転がっている松ぼっくりが目印です。
しかしすぐに天敵のアリや寄生ハエが獲物に集って来るため、ジガバチ♀は気の休まる暇がありません。
閉塞石を手早く取り除きます。
前回同様、大きな閉塞石は巣口の横に置き、小さな閉塞石はわざわざ飛んで捨てに行きます。
時間がかかるし、貯食後は埋め戻す作業が残っているのに無駄な行動に思えてしまうのですけど、ジガバチなりに何か理由があるのでしょう。
蜂が作業の手を止めると、2匹の寄生バエが歩いて近寄ってきました。@6:01


再搬入
堪らずジガバチ♀はまたもや獲物を持って逃げ出しました。
何という無間地獄…。
前回の逃走とは方角が違います。
3匹の小さな寄生ハエがピョンピョン飛び跳ねるように早足でその後を追います。
蜂が不在の隙に巣坑に幼虫を産仔しておけば良いのにと思うのですが、寄生ハエの方も確実を期して産みつけるタイミングはジガバチが巣に獲物を搬入した後とプログラムされているようです。(※ 下記の参考動画は必見!)

必死に逃避行する蜂が獲物を地面に置いて再麻酔手術を行いました!@6:52
獲物の背側から跨り、腹部を強く曲げて芋虫の腹面を走る中枢神経系をめがけて毒針を突き刺しました。
その様子を近くで寄生ハエが見守っています。

ここで残念ながらカメラのバッテリーが切れてしまいました。(痛恨のミス…)
ほとぼりが冷めるまで待ったのに、寄生ハエに待ち伏せされて、ジガバチ♀の持久作戦も水の泡でした。

ジガバチvs寄生ハエの知恵比べ、根比べに震撼しました。
息詰まる死闘です。

同定してもらうために、寄生ハエ♀1匹を採集しました。
素人目にはドロバチヤドリニクバエとは別種のような気がします。

いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板にて問い合わせたところ、茨城@市毛さんより次の回答を頂きました。

恐らく,ドロバチヤドリニクバエと同じニクバエ科のヤドリニクバエ亜科の1種だと思います.Fauna of Indiaを見ると,この仲間は交尾器の他に腹部斑紋にも種の特徴が出るようなので,専門家が見ると種まで解るのではないかと思います.
また,額が広いのも特徴的に見え,Kurahashi(1970)に図示されたSphenometopa matsumurai シロオビギンガクヤドリニクバエの♀の頭部と酷似しているように見えます.

さんごさんからも以下のようにご教示頂きました。
私もSphenometopa matsumurai に1票入れたいと思います.
本種の♀は見たことがないのですが,♂はこれとよく似た腹部の斑紋をしています.ただし♂は腹部の白の部分がもっと純白な感じですが.
ぜひ交尾ペアを採集していただいて,♂の画像を再び投稿してください.たしか本種のホストは未知ではなかったでしょうか(知らないのは私だけ?).もし本種と特定できれば大変貴重な記録ではないかと思います.
♀が歩いてハチを追尾するのですね.何かかわいい感じですね.アナバチヤドリニクバエやシリグロヤドリニクバエの場合は飛行して追尾します.とても面白いものを見させていただきました.どうもありがとうございます.

写真の個体は,頭部が茨城@市毛さんのご指摘のとおり,Kurahashiのレビジョンのシロオビギンガクの♀にドンピシャで,私の持っている同種の♂にも斑紋が酷似していますが,市毛さんがご指摘のように,♀から種の判定まで持ち込むのは専門家でないと厳しいです.

日本には同属は1種のみとされていますが,ときどき本邦から記録がなかった種がみつかったりしますので,現時点でシロオビギンガクとは言い切れないです.産仔の場面に遭遇しても,その時点で種がなかなか確定できないのが,このグループの生態を研究する上でブレーキになっています.
「おそらく」シロオビギンガク♀だろう,という程度と認識していただけたらと思います.
ぜひ♂をゲットしていただいて,その映像(交尾器を含め)をご投稿くださることを願っています.



つづく

胸背


側面

側面

右翅

左翅

腹背

単眼

顔(左右の複眼は離れている)

腹面



【参考動画】by UraniwaKansatsukiさん


サトジガバチがイモムシを巣穴に運びこむ隙に寄生バエが産仔する瞬間が見事に記録されています。



【追記】
『日本動物大百科9昆虫II』p150によると、
ヤドリニクバエ類の♀は、巣づくり中のジガバチやハナバチ類のあとをつけ、巣の入り口に空中から1齢幼虫をばらまいて侵入させる。



2012/10/25

エントツドロバチ♀が泥巣に芋虫を搬入



エントツドロバチの営巣観察@東屋軒下:その3

2012年7月下旬

山道の休憩所で軒下のあちこちにエントツドロバチOrancistrocerus drewseni
)が幾つも泥巣を作っています。
地上からの高さは230cm。

泥巣SSE-Lを監視していると、狩りに出かけていた蜂が帰ってきました。
煙突の入口直前まで木の柱を登ったところで滑落したのか、アプローチをやり直し。

麻酔したイモムシを大顎で咥え脚で抱えて運ぶので、蜂の背側からは獲物がよく見えません。
搬入前に一瞬だけ見えた獲物は褐色の細長いイモムシでした。
なんとか工夫して側面から撮影すればよかったですね。

その後も何度か通ってみたものの、残念ながらこの集団営巣地での定点観察は思い通りにいきませんでした。
営巣基質(材木)と巣材(泥)の接着相性が悪いようで、せっかく巣作りしても泥が乾くと数日後に次々と剥落崩壊してしまうのです。
随時給餌というドロバチにしては珍しい習性を見届けたかったのに残念無念。
蜂を個体識別するため何匹かマーキングしてみたのですが、無駄骨でした。

自然営巣を当てにしていたのでは埒があきません。
やはり竹筒トラップを仕掛けて腰を据えて定点観察するしかなさそうです。

【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p28によれば、
オオカバフドロバチ(=エントツドロバチ)は、竹筒や家の軒下のクマバチの古巣などに営巣し、入り口に泥で煙突をつくり、気まぐれな狩りをする。母バチは、時により幼虫の発育途中で給餌することがあり、育房内での母と子(幼虫)の接触が生じる。日本のドロバチ類では数少ない亜社会性のカリバチである。



ボルトの上下に2つの泥巣が作られている。


2012/06/13

クロヤマアリが集団でコアシダカグモ♀亜成体を運ぶ



2012年5月中旬

山道に座って弁当を広げると、目の前で黒いアリが地面に群がっていました。
邪魔な落ち葉をそっと取り除くと、大きなクモを襲っていました。

蟻はクロヤマアリかな? クロオオアリ?

一方、獲物はイオウイロハシリグモ?と思ったのですが「中部蜘蛛懇談会 クモの掲示板」にて問い合わせてみるとコアシダカグモの一種だろうとご教示頂きました。(※)
斑紋は死後変色しているかもしれません。
腹背の後部に白い▽斑紋があり、頭胸部の縁が黒いです。

右の歩脚は既に欠損しています。

クロヤマアリの群れが運搬中

頭胸部の縁が黒い。

顔(左触肢が既に切断されている)

アリは節間膜に次々と噛みついて、大きな獲物もみるみる解体していきます。
歩脚を一本ずつ根元から噛み切ると、せっせと運び始めました。
二匹のアリが歩脚の両端を咥え協力して運んで行きます。

やがてアリが獲物の腹部を頭胸部から切断して巣へ運び始めました。
慌ててアリから一時的に取り上げ、写真に記録しました。
腹面に未成熟な外雌器らしき構造を認めました。
(アリに噛まれた裂傷?)
膨らんでいない触肢と併せて考えると♀亜成体かもしれません。


切断された腹部をアリから取り上げた。腹端に白い▽模様。

腹部腹面に外雌器?

採寸できたのは腹部だけ。

コアシダカグモは既に死んでいるようで、徘徊性のクモなのに全くの無抵抗でした。
脱皮間際で無防備な時にアリに襲われたのでしょうか?
あるいはクモバチに狩られて毒針で麻酔されている可能性はどうでしょう?
腹部腹面に開いた小さな穴(未成熟な外雌器?)は、まさかクモバチの毒針に刺されたものではないと思いますけど、定かではありません。
(クモバチに狩られ麻酔されても肉眼で見えるほどの注射痕が果たして残るだろうか?)
クモバチの中には営巣地を探す間に麻酔した獲物をアリに奪われないように草の葉に引っ掛けておく習性をもつ狩り蜂が知られています。

関連記事→「オオモンクロベッコウのアリ対策

それをクロヤマアリが集団で強奪してきたのかと勝手に想像を逞しくしてみました。
ちなみに図鑑『校庭のクモ』p33にはオオモンクロベッコウ(=オオモンクロクモバチ)に襲われたコアシダカグモの生態写真が掲載されています。


(つづく→アリの運搬・解体ショーの微速度撮影


【追記】
※ nephila氏の助言により、コアシダカグモも近年は分類がややこしいらしく、今回の個体は「コアシダカグモの一種」とさせてもらいます。参考資料



2011/04/01

オオセンチコガネの糞転がし:後編



2006年9月下旬

前編で転がしていた丸ごとの糞は運ぶのを諦めたようです。
続いてオオセンチコガネPhelotrupes auratus)は、小さな糞塊を選びました。
初めは逆立ちして後脚で転がそうとするものの、動かせません。
次に後退しながら前脚で引きずったり転がしたりします。
なぜか途中で放棄して、道端にある枯葉の下に隠れました。
何を考えてるのかさっぱり分かりません...。

【追記】
『ファーブル写真昆虫記5:ふんの玉をころがす虫』p39によると、オオセンチコガネがちぎり取った糞を巣穴まで運ぶ時は後退りして行く


【追記2】

盛口満『昆虫の描き方: 自然観察の技法II』p39によると
おもしろいことに、センチコガネは糞のおかれた地面が穴を掘るのに適していないような場合など、糞の小片を前脚で抱え、後ろ向きに引きずるようにして短距離を移動することがある(そのため、ときに、“日本でフンコロガシを見た…”と勘違いされることがある)。



オオセンチコガネの糞転がし:前編



2006年9月下旬

オオセンチコガネPhelotrupes auratus)が路上で半ば乾燥した獣の糞を頭で押して運んでいます。
転がり過ぎてときどき見失っています。


(つづく→後編


2011/03/19

アゲハチョウ死骸とアリ集団



2008年5月中旬

林道の湿った轍(わだち)に美しい変死体が二つ転がっていたので急遽、現場検証しました。 
第一被害者:カラスアゲハ♂ 。
第二被害者:初めクロアゲハかと誤認したが、オナガアゲハ♂と専門家から教示あり。 
共に蛹で越冬するので春型(第一化)でしょう。
吸水中に交通事故にでも遭ったのか野鳥に襲われたのか? 
アリ(種名不詳)の集団が早速群がってました。

2011/02/23

ヒメベッコウ♀による獲物運搬と産卵



2008年8月下旬

ヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ)の仲間(種名不詳)♀bを続けて観察しています。
狩りが不調だったようで空荷で帰巣したものの、次に出かけるといつの間にか獲物を草叢で仕留めていました。
クモは毒針による麻酔手術を施され、邪魔な歩脚は全て切り落とされています。
これも無紋フクログモの一種だろうと教えてもらいました。
壁の下のアカソの葉の上で暫く休んでから、クモの糸疣を大顎で咥えて壁を登り始めました。
今回は壁面で迷うことなくスムーズに泥巣bを探し当て、育房内へ二匹目を搬入しました。
自らも育房内に体を入れ、まるでお風呂に入っているようです。
このとき獲物の体表に産卵すると思われます。 

後日、別な個体、別な泥巣で育房の閉鎖作業を観察することができました。

つづく→シリーズ#10


クモ運搬で迷子になったヒメベッコウ・後編



2008年8月下旬
前編からのつづき)

ヒメクモバチ♀(旧名ヒメベッコウ)の仲間の邪魔にならないように接写を止めて少し離れた位置から望遠で狙うようにしたら無事に帰巣・貯食しました。
育房内にクモを上向きに搬入したようです。
蜂が落ち着いてからまた近付いても獲物を再び運び出すことはありませんでした。
クモバチ(ベッコウバチ)の重労働を初めて目の当たりにして感動! 


留守中に手鏡を使うと育房内に貯食したばかりのクモ(無紋フクログモの仲間とのこと)の顔が見えました。
ヒメベッコウの仲間は一括給餌を行い、貯食・産卵後は育房を閉じます。 
しばしの休憩(産卵?)後、♀bは再び狩りに出撃しました。




同一個体の♀bが以前、巣材集めする際も帰巣まで壁面で道に迷っていたので、その理由を幾つか考えてみました。 
  1. 巣の位置をよく覚えていない? 本種は記憶力が悪い?
  2. 蜂の後をしつこく追いかけて動画を撮り続ける人間の存在が気に入らない? 意図的に追跡者(寄生バエなど)を巻こうとしている?
  3. 近くでカメラを構えた私の体が蜂の視界(壁とは反対側の)を塞いでいるため、巣の周りでマクロな目印が分からなくなっている? 

蜂屋のヒゲおやじ氏に相談したところ、上記(3)の可能性が高いそうです。
視覚だけに頼らず、フェロモンで自分の巣の周りに道標を付けたら良いのに(アリ方式)。 


(つづく→シリーズ#9

2011/02/09

キアシナガバチ初期巣に備蓄された蜜滴



2009年5月下旬

軒下で営巣しているキアシナガバチPolistes rothneyi)の定点観察記録。
初期巣はだいぶ大きくなりました(育房数31室)。
ある程度巣を拡張したら幼虫が孵化するまで女王はほとんど外出せず、ひたすら巣の防衛に専念します。
巣の近くを天敵のアリが徘徊していますが、巣柄を中心に巣の表面に塗った蟻避け物質が効いているのか侵入・襲撃はありませんでした。
でも油断できません。


巣内には白い卵以外に透明の粒が見えます。
これは女王が花から集めてきた花蜜を育房内に貯めた蜜滴です。
雨天時など外出できない日の女王の非常食および一齢幼虫に与える食料としても用いられます。
(参考:『アシナガバチ観察事典』偕成社 p16)
爪楊枝などですくって舐めてみようかな?


この日の観察でも在巣の時間が長いものの、一度女王の帰巣を目撃しました。
たまに外出しているようです。

つづく→シリーズ#3

2011/02/08

竹筒トラップとツツハナバチ



2009年5月上旬

借孔性の蜂を観察するために、見よう見真似で竹筒トラップを作り仕掛けてみました。
ホームセンターで安く買った女竹を一節ごとに切り、穴の向きを揃えて針金でまとめ10本の束にしました。
入り口の内径は4mm~7mmぐらい。
4月末に設置し5日後に見に行ったら嬉しいことに早速ハチの活動が見られました。
竹筒の束10本のうち3本で営巣していました。


腹面が黄色いハチは花粉を運んでいるようです。
外出時の向きは前向き/後ろ向き両方の場合があります。
筒の中で作業中の蜂が何やらジッジッジッジと羽音を立てているのが微かに聞こえます。
退屈なシーンも含まれますが、筒の中にいる時間も大切な情報かもしれないのでなるべく編集せずにお届けします。
全部同じ種類の蜂なのだろうか※。
※ 後日、筒から外出する蜂を一匹一時捕獲して同定用の写真を撮ったところ、ツツハナバチOsmia taurus)であると教えて頂きました。 
後半、中からずっと触角だけ覗いている筒があります。 
竹の穴に髄質が詰まっている場合は予め取り除いてあげないと蜂は営巣してくれないようです。


《参考》
『あっ!ハチがいる!:世界のハチとハチの巣とハチの生活』晶文社出版 p118より抜粋 
「竹筒トラップは借孔性ハチ類の生態を調べる簡単な方法。トラップは人家の軒下や木の幹などに、筒が水平になるように設置します。北側よりも南側がよく、比較的目立つ場所に置くことがポイントです。設置する時期は、ゴールデンウィークの前をお勧めします。トラップの筒のサイズや仕掛ける場所は、それほど神経質に考えなくても構いません。」

2011/01/23

竹筒内のオオフタオビドロバチ前蛹R3acおよび貯食物




2010年8月中旬
(承前)
次の竹筒R3を割ってみると、入口(内径7mm)は閉鎖済みで、泥の隔壁は巣口も含めて6枚。
寄生者対策の空室(EVCおよびEIC)が多く、実質の独房は3室(奥からa-c)でした。 

独房a,cでは蜂の子が貯食物を食べ終え、前蛹になっていました。
前蛹の頭は入口側を向いています。

独房bには貯食された青虫が残されていました。
なぜか蜂の卵や幼虫は見当たりません。
青虫は自ら排泄した糞で汚れています(蜂の子は脱糞しないはず。)
独房bに運び込まれた5匹の青虫のうち一匹が、死んで腐敗しています。
貯食物の異常に気づいた蜂が産卵を諦め、独房を閉鎖したのだろうか。
しかしオオフタオビドロバチ♀は狩猟に先立って独房壁に産卵するはずなので、その可能性はありません。
卵がカビなどに感染して孵化できなかったのだろうか。
独房bに詰め込まれた青虫は互いに軽く癒着していました。
青虫の頭の向きはまちまちです。
残る4匹の青虫は蜂の毒針によって麻痺しているだけで生きており、ピンセットで触れると蠕動します。
緑の青虫に混じって白っぽいイモムシが一匹います。
オオフタオビドロバチAnterhynchium flavomarginatumはメイガやハマキガなどの幼虫を狩るとされていますが、これだけ種類が違うのだろうか。
白っぽい個体は触れても反応が鈍いので、死にかけで変色しているのかも。
このまま飼い続けて麻酔下の寿命を調べようか迷いましたが、夏の高温でカビ感染が拡がる恐れがあるため撮影後に捨てました。
新鮮な獲物を腐らせないで保存するために毒針による麻酔手術を編み出したはずですが、 狩り蜂もたまには失敗することもあるようです。
つづく

ヒメベッコウ:クモの搬入と産卵



2009年6月下旬

泥巣の横で蜂の帰りをひたすら待っていると、獲物を咥えて戻って来たヒメクモバチ♀(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)が隣のススキの葉にいることに気づきました。
ようやく狩りに成功したのだろう。
葉を上り下りして自分の泥巣を探し歩きます。
クモを仰向けにして馬乗りに跨り、糸疣を咥えて引きずるように運びます。
短い距離ならクモを持ったまま飛ぶことができます。
自分の巣がススキの葉の裏だということは覚えているようです。
同じ葉を繰り返し上り下りして迷っています。
ススキの葉の水平部分で一休み。
獲物はフクログモ科のようで、歩脚は左右の第四脚を根元から2本切り落とされています(-L4R4)。
ようやく泥巣に辿り着くと、空の育房へすぐに搬入しました。
まず自分が後ろ向きに育房へ入り、クモを引きずり込みます(クモは顔を入り口に向けた状態)。
外に出て身繕い。
顔を入れて点検すると、次は腹端を差し込んで産卵しました。
産卵後、巣上で少し身繕いするとすぐに離巣。
完全ノーカットでお届けします。
この日は接写の大敵である風が無くて助かりました。
つづく
 


2011/01/17

獲物を巣に運ぶコクロアナバチ♀




2009年8月下旬

借孔性蜂の営巣を観察するためにこの春、竹筒トラップを設置してみました。
ツツハナバチの営巣が終わった後も放置していたら最近、穴に枯草が詰め込まれるようになりました。
子供の悪戯かと不審に思っていたら、この日遂に蜂の正体がコクロアナバチIsodontia nigellaと判明。
見慣れない黒い蜂が獲物を竹筒に運び込んでいるところに偶然出くわしました。
毒針で麻酔された獲物は一瞬しか写っておらず種類は不明ですが、産卵管があるのでキリギリスの仲間の♀でしょう。
(必ず♀を選んで狩るらしい。)
コクロアナバチは獲物と一緒に頭から竹筒(内径6mm)に入りました。
中の様子は見れませんけど、しばらく出てきません。
まさに袋の鼠状態なので、試しにこの蜂を捕獲してみることにしました。
つづく
 


2011/01/16

仕留めたイオウイロハシリグモ♀を運ぶオオモンクロクモバチ♀





2009年9月上旬

クモの歩脚の根元を咥えたまま引きずって歩く蜂を発見。
オオモンクロクモバチ(旧名オオモンクロベッコウ;Anoplius samariensis)だと思います。
巣穴まで運ぶ途中のようですが、入り組んだ枯草や根が邪魔であちこちに引っ掛かり、運び難そう。
休憩を挟みながら獲物(イオウイロハシリグモ♀成体Dolomedes sulfueusと後に判明)をその場に置いてあちこち偵察に出掛けては戻って来る、を何度も繰り返します。
巣穴はどこにあるのだろう。
狩りのシーンを見逃したのが残念です。
何故そんな茨の道を進むのか?というぐらい、枯草や根っこにクモが引っ掛かり、全く運搬作業が捗りません。
痺れを切らして蜂を生け捕りにし、獲物と一緒に平らな場所に移すことを考えました。
つづく
 

2011/01/14

クロベッコウの落とし物



2009年9月中旬

水辺のコンクリート護岸にて。
狩ったクモを咥え後ろ向きに引きずって歩く蜂を見つけ、追跡開始。
巣まで運び上げる途中で落としてしまったので、拾って調べてみることにしました。


クモ関係でいつもお世話になっている「闇クモ画像掲示板」にて問い合わせると、獲物はエビチャコモリグモArctosa ebicha)♀成体と教えて頂きました。
蜂はヒメベッコウ(ヒメクモバチ)の仲間かと思いましたが、これまで私が見てきたヒメベッコウの習性とは違っていました。
  • クモの歩脚を全く切り落としていない。 
  • クモの糸疣ではなく歩脚の根元を咥えて運んでいた。 
  • コモリグモ科を狩るのは初見。
  • 獲物の麻痺状態は後に完全回復。
以上の行動面から初めて会う種の予感がします。
蜂は落とした獲物を見失ったような素振りで徘徊するので、目の前にクモを置いてやりました。
ところがなぜかもう興味を示さず、運搬作業を再開することはありませんでした※。
巣の位置を突き止められなかったのも残念。
仕方無く蜂を生け捕りにして持ち帰りました。


外見からの同定は困難ですが、蜂屋の「ヒゲおやじの投稿掲示板」にて質問すると蜂はクロベッコウ(クロクモバチ)の一種かもしれないとご教示頂きました。
つづく

※ 現場ではてっきり見慣れたヒメベッコウの仲間かと思い込んでいたので、蜂の行動を全く誤解してしまいました。
クロベッコウの仲間は狩りの後で巣穴を掘るらしいので、この蜂も単に獲物を一時的に置いていただけなのかもしれません。
となると私は蜂の仕事の邪魔をしてしまったことになります。
 


2011/01/03

トゲアシオオクモバチ♀によるクモ運搬




(つづき)
蜂は獲物のヤマヤチグモ?♀(Tegecoelotes corasides)を後ろ向きに引きずって道端の落ち葉の上を構わず運んで行きます。
運搬時にはクモの歩脚の根元を咥えています。
落ち葉の下にクモを置くと休憩しました。
獲物を残して辺りを偵察して回ります。
そのうちどこかに巣穴を掘って貯食し産卵するのかなと期待して見守りました。
しかし、いくら待っても進展がありません。
それともいつの間にか落ち葉の下で適当な既存坑を探してクモを隠し、素早く産卵を済ませたのだろうか。
さすがに穴掘り行動を見落としたはずはありません。
夕方で薄暗くなってきたので痺れを切らして観察を打ち切り、同定のため蜂を採集して帰りました。
放置されたクモは目を離した隙に落ち葉に紛れてしまい、残念ながらどうしても見つけられませんでした。
今回もクモバチの営巣行動を最後まで追跡できませんでしたが、昨年より少し前進しました♪
蜂類情報交換BBSで写真鑑定してもらうとトゲアシオオクモバチ♀(Priocnemis irritabilis)と教えて頂きました。





落とし物を探すトゲアシオオクモバチ♀




2010年5月中旬

山道を下っていたら目の前を黒い蜂が歩いて横切りました。
何か獲物を運んでいます。
近付いた私に驚いた蜂は獲物を地面に残したまま飛び去ってしまいました。
(映像はここから。)


蜂が戻って来るまでの間に獲物(体長10㎜)をじっくり検分。
腹面に外雌器が認められるので♀成体です。
闇クモ画像掲示板で写真鑑定してもらうと、ヤマヤチグモTegecoelotes corasides)の可能性が高いだろうと教えて頂きました。

蜂に狩られた際に刺された毒針によって完全に麻痺しています。
歩脚は切り落とされていません。
歩脚で隠れてよく見えない頭胸部や眼列の様子をしっかり記録する前に蜂が戻ってきてしまいました。

一方、蜂の方は蜂類情報交換BBSにてトゲアシオオクモバチ♀(Priocnemis irritabilis)と教えてもらいました。
蜂は歩いたり低空飛行したり辺りを必死に探し回りますが、なかなか落し物を見つけられません。
クモのすぐ近くまで来ては何度も素通りしてしまったりと見ていてもどかしいほどでした。
クモのことなどすっかり忘れてしまったのかと心配でした。
動きの無い物を視覚で認識するのは苦手なのだろうか。
クモの傍らに立つ私を警戒していたのかもしれません。
それともクモがあるのは分かっていながら、巣へ運ぶ行き先を偵察していたのかな?
ようやく獲物を再発見(3:45)。
その場でしばらく休息すると、運搬開始(5:05)。
クモの糸疣ではなく歩脚を大顎で咥え、後ろ向きに引きずりながら歩いて運びます。
林道横の落ち葉が積もった場所まで来ました。
つづく

≪追記≫
クモ狩りの行動を再現させる方法の一つとして運搬中の蜂を驚かせて獲物を離させ、戻ってきた蜂の目の前で麻痺した獲物をピンセットなどで動かしてやると蜂は再び毒針で刺すらしいです。
しかし下手に動くと蜂はすぐ逃げてしまうので、今回は我慢して手出しせずに見守りました。

2010/12/31

ハキリバチの花粉貯蔵




2010年6月上旬

山寺で木の柱の節穴(ほぞ穴?)に営巣している蜂を発見。
育房にせっせと花粉を詰め込んでいるようです。
帰巣した蜂は頭を先に巣穴に入れて点検(?)した後、向きを変えて下半身を中に入れます。
次に腹部腹面のスコパ(集粉毛)から黄色の花粉を掻き落とします。
前脚は巣穴の外に出しているので、中脚と後脚を使って掻き落としているのだろう。
頭を巣穴に入れているときにキュッキュと音がするのが興味深い(要ヘッドフォン)。
これは蜂の羽音なのかそれとも満足気に鳴いているのだろうか。
育房の点検ではなく、集めてきた花蜜を吐き戻しているのかもしれない。
作業が終わると蜂はすぐに飛び去ってしまいます。
動画を撮るのに精一杯で、写真は撮る余裕はありませんでした。

蜂類情報交換BBSにて映像を見てもらったところ、「大顎の形状からハキリバチの仲間であるが種名までは分からない」と教えていただきました。


5日後に再訪すると、既に巣穴は泥(または木屑を練った物?)で閉じられていて蜂の姿はありませんでした。

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