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2015/02/19

コクサグモ♀(蜘蛛)は卵嚢ガードする?しない?



2014年10月下旬

里山の頂で建物の外壁の隅にコクサグモ♀(Allagelena opulenta)を発見。
背景が白壁なので分かり難いのですが、よく見ると卵嚢に覆い被さるように乗り上を向いてガードしているようです。
南壁と西壁が接する角で高さは地上82cm。
コクサグモの卵嚢は初見です。
クサグモの卵嚢は星形なのに、コクサグモの卵嚢はまるで違うシンプルな円盤形なのですね。

▼関連記事
クサグモの卵嚢と一齢幼体
卵嚢に枯れた松葉や細かなゴミが付着しているのはジョロウグモ♀みたく産卵後に偽装工作(カモフラージュ)したのでしょうか?
どうやって適当なゴミを集めて来るのか興味があります。
それとも単に風で飛ばされて付いたのかな?



卵嚢ガード行動を観察するために、動画に撮りながら枯れ葉で軽くつついたら、短距離ダッシュで下に逃げました。
(※ それほど手荒な真似はしていません。クモの体には触れておらず、産室の網に触れただけです。)
卵嚢を死守して威嚇してくるかと予想していたので、この薄情で臆病な反応はとても意外でした。
すぐに戻るかと思いきや、そのまま壁面に静止してのんびり日光浴。
卵嚢のことなどまるで忘れてしまったかのように、数時間たって私が下山する時も卵嚢に戻りませんでした。
これではとても卵嚢ガードとは呼べない(定義に反する)気がします。
本種は卵で越冬するはずなので、成体♀が越冬用住居に潜んでいたのではなさそうです。
ひょっとして別種・別個体のクモが作った卵嚢にたまたま居ただけ?…などと疑うのも強引ですし。
(春になって卵嚢から幼体が孵化すれば種類は分かりますね。)
ちなみに、6日後に再訪した時にはコクサグモ♀は姿を消していました。
インターネット検索すると、コクサグモ♀が卵嚢に乗っている写真が幾つもヒットします。
クモ生理生態事典 2011』サイトにもコクサグモは卵嚢保護すると解説されています。
しかし母クモを刺激したり闖入者(天敵の虫など)に対して実際に防衛行動するかどうか確かめた例は見つかりませんでした。
卵嚢に乗っているコクサグモを見つけても産卵直後に疲れて休んでいるだけかもしれませんし、母性本能とか母性愛として美化されがちな「卵嚢ガード行動」は過大評価されている可能性もありますね。
たとえば生涯で何個も卵嚢を作るのであれば、危険が迫ったら一つの卵嚢に執着せず一目散に逃げるのが正解でしょう。(命あっての物種)
私の実験もこの一例だけなので自説を強く主張するほどではなく、定説に軽い疑念を抱いただけです。

もちろんクモ♀による卵嚢ガード全般を疑っている訳ではなくて、これまで種々のクモで実際に観察しています。

卵嚢を放棄して逃げた後

2014/11/26

スジアカハシリグモ♀(蜘蛛)による卵嚢保護



2014年8月中旬

山道でアカソ?の葉にスジアカハシリグモ♀(Dolomedes saganus)が乗っていました。
日向ぼっこ(日光浴)しているのでしょうか。
腹面に丸い卵嚢を抱えガードしています。
撮りながら慎重に撮影アングルを変更すると、意外にも逃げません。
振動に反応して歩脚を一瞬動かしただけです。
背側から見ると、左の第二歩脚が根元から欠損(-L2)していました。

採寸代わりに右手の人差し指をクモの横に並べて写し込んでも逃げません。
クモの背後から歩脚に触れると驚いて駆け出し、隣の葉に素早く移動しました。
もう一回触れると葉先へ移動。
更にその葉を揺らすと下の葉に跳び下りました。
逃げるときも卵嚢を持ち歩きます。



2014/11/01

初期巣の外被を作り始めたコガタスズメバチ創設女王



2014年5月中旬

コガタスズメバチ巣の定点観察#2014-1

神社の軒下にコガタスズメバチVespa analis)創設女王が巣作りを始めました。
外被の天井部分を軒下の桟に固定する基礎を作っています。
地上からの高さは240cmで、南に面しています。
この営巣地は庇で上手い具合に隠れた場所で、真下から見上げないと巣の存在に気づかないでしょう。



作業を終えた女王は育房に戻って点検し、身繕い。
新たに増築した部分は未だ巣材のパルプが唾液で湿っていて黒っぽく見えます。
剥き出しの巣盤(一段目)の育房数は6室で、産卵済みでした。
女王蜂は巣柄にしがみつきカールするような抱卵姿勢に入りました。
卵を温めるカーリング行動です。



引きの絵にすると、隣の桟にもスズメバチ古巣の跡が残されています。

巣の大きさの比較として、営巣基質となった太い垂木?の幅を採寸すると10cm、屋根裏の細い材の幅3cmでした。

巣材集めの活動は見ていませんが、境内は古い木造建築ですし、周囲にはスギが何本もそびえ立っているので、樹皮の調達に苦労しないはずです。


▼つづく
コガタスズメバチの巣口を守る門衛♀

2014/08/07

卵嚢を守り♂を牽制するイエユウレイグモ♀(蜘蛛:微速度撮影)



2014年6月中旬・室温25〜26℃
▼前回の記事
イエユウレイグモ(蜘蛛)の交接から卵嚢ガードの再開まで【10倍速映像】

交接を観察してから11日後の午後。
屋内の天井隅に張られたイエユウレイグモ♀(Pholcus phalangioides)の不規則網に触肢の発達した成体♂がまた訪れていることに気づきました。
前回交接に成功した♂と同一個体なのか別個体なのか分かりません。
また求愛行動が見られるかと期待して、10倍速のタイムラプス動画で録画開始。

今回♂の行動は草食系というか不活発で、どうも求愛行動とは違うようです。(倦怠期のカップル?)
子持ちの♀が次の交接を許してくれるまで(卵嚢から幼体が孵化するまで?)健気にひたすら待っているのでしょうか。
それとも実は交接を済ませており、♀の網にライバル♂が侵入しないように交接後ガードしているのかもしれません。
卵嚢を口に咥えて持ち歩き保護している♀が網から♂を追い出そうとしている意図をなんとなく感じられるものの、激しい闘争は見られませんでした。
冷たくされて♂は♀に近づけませんが、網から出て行こうとしません。
♀は糸を張りながら動き回り不規則網を補修している可能性もありそうです。
しかし背景が白いため、網や糸が全く見えず真相は不明です。

写真や動画では2匹のクモ同士の奥行きを含めた空間的な位置関係を伝え難いです。
3Dカメラが欲しいと初めて思いました。

微速度撮影の途中で脚立に登り、♀♂ペアを接写してみました。
卵塊が白黒斑になっているのは、発生中の胚が透けて見えているのかな?
幼体の孵化が楽しみです。



定点観察を続けていると日によって♂が行方不明になるので、同一個体の♂が通い婚しているのか確認したくなりました。
そこで♀の不規則網に居座る♂に個体識別のマーキングを施すことにしました。
初めは網にぶら下がっている♂に直接マーキングを試みました。
しかし警戒して逃げられたので、仕方なく捕獲作戦に切り替えました。
透明カップで一時捕獲した♂を炭酸ガスで麻酔し、水色の油性ペンで腹背にマーキングしました。
このとき手元が狂い、うっかり歩脚にもインクが付いてしまいました。
麻酔から完全に醒める前に不規則網にそっと戻してやりました。
♀にも別の色で標識すれば良かったのですが、捕獲・麻酔・標識という一連の操作で身の危険を感じた♀が卵嚢を捨てたり網から逃去したりする可能性をおそれて、思いとどまりました。
(案ずるより産むが易しで、♀はそれほど神経質ではなく実はマーキングしても平気なのかもしれません。)





翌朝に様子を見に行くと、マーキングした♂水色が依然として♀の網に同居していました。
卵嚢を咥えた♀が居候♂を追いだそうとしています。
母は強し。
網に獲物がかかったらどちらが捕食するのか、興味があります。

つづく



2014/07/27

イエユウレイグモ(蜘蛛)の交接から卵嚢ガードの再開まで【10倍速映像】



2014年6月上旬・室温23℃
▼前回の記事
卵嚢ガードを中断して♂と交接するイエユウレイグモ♀(蜘蛛)
室内の天井隅に張られた不規則網で交接を始めたイエユウレイグモPholcus phalangioides)の♀♂ペアが別れるまで確実に見届けたいと思いました。
♀が交接中に♂を捕食してしまう性的共食いの有無にも興味があります。
交接がどれぐらい長く続くのか予想できなかったので、長期戦に備えて10倍速の微速度撮影(ジオラマモード)で監視記録しました。
早回し映像にすると♂が外雌器に挿入した触肢を動かしている様子がよく分かります。

長い交接中に突然、♀が激しく暴れ出しました。(@5:26〜5:41)
それでも♂触肢の連結は外れず、♂には特に動きがありません。
再び♀が暴れ、♂を蹴飛ばして交接が終わりました。(@7:34)
性的共食いは行わず、♂は無事に逃げ延びました。
♂は網に居座って交接後ガード(♀が浮気しないように見張る)をすることもなく、天井の縁を右手の角(南東角)まで移動し、壁を下りて埃だらけの棚の裏へ隠れました。
(♂を一時捕獲して個体識別のマーキングを施したかったのに、残念ながら行方不明になりました。)

交接後に卵嚢を回収する♀
一方、交接後の♀は卵嚢の保管場所にすぐ戻りました。
卵嚢は全く動きませんから、網にかかった獲物のように振動で位置を知るのではなくて、どこに置いたかしっかり記憶していたのでしょう。
あるいは自分が移動中に残した「しおり糸」を辿って卵嚢まで戻るのかもしれません。
もし交接中に卵嚢をこっそり網から外して隠したり移動したりすれば、♀はどうするでしょう?
ダミー(偽物)の卵嚢を幾つも網に置いてやると、自分の卵嚢を正しく選んで回収できるでしょうか?
異変にすぐ気づいて卵嚢を守るために交接を中断しますかね?

▼関連記事
イオウイロハシリグモ♀による卵嚢選択実験

歩脚で抱えた卵嚢に口づけしたのは、不規則網に固定していた糸を噛み切ったのでしょう。
次に♀は身繕いを始めました。
歩脚を一本ずつ舐めて掃除しています。
その間、卵嚢を手の届く位置に(体の下面)に置いています。
歩脚の先で常に卵嚢に触れている…という訳ではないようです。
化粧が済むと卵嚢に何度もキスしてからようやく口に咥えました。(卵嚢ガードの再開)
向きを変えて不規則網を少し移動し、静止したところで撮影終了。

卵嚢をくわえてガード再開

♀の外雌器に交接プラグが残されているかどうか確認したかったのですが、腹面をじっくり接写するには♀を捕獲して麻酔する必要があります。
しかしこれをやるとストレス(身の危険)を感じた♀が卵嚢を捨てたり不規則網から逃去したりする可能性を恐れ、結局やりませんでした。

捕獲したついでに飼育してみる、という発想はこのとき無かったです。

この卵嚢から幼体が孵化するまで定点観察することにしました。

さて、今回の交接が長引いたのは、♂が触肢から移精する前に、♀が前回交接したライバル♂の精子を外雌器から掻き出していた(あるいは押し込んでいた)からのようです(精子間競争)。

そんな面白い話を予め知っていれば、交接中に♂の触肢の動きにもっと注目して接写したのにー。
一方イエユウレイグモ♀も完全に受動的ではなく、♂が気に入らなければ交接を早々に打ち切ることが多いそうです。(♀による密かな配偶者選択)
特に2回目の交接では選り好みが激しくなるのだとか。
実際に今回も交接中に♀が暴れました。
ドイツの研究グループが発表した実験結果によると、欧州産イエユウレイグモ(日本産と同種のPholcus phalangioides)♀が2匹目の♂と交接した持続時間は1.3〜221.7分間(平均30.7分間、中央値5.25分間、標準偏差51.48、サンプル数73)。
今回私が観察したペアは交接の持続時間が約90分間と比較的長い部類に入るようです。

▼参考文献
Schäfer, Martin A., and Gabriele Uhl. "Determinants of paternity success in the spider Pholcus phalangioides (Pholcidae: Araneae): the role of male and female mating behaviour." Behavioral Ecology and Sociobiology 51.4 (2002): 368-377.
検索すれば無料PDFファイルがダウンロードできます。

この文献を読んでみると、イエユウレイグモの配偶行動について以下のことを知りました。

  • 自然環境でイエユウレイグモは一妻多夫の乱婚。
  • 交接中にイエユウレイグモ♂は外雌器に挿入した触肢を捻るようにリズミカルに動かす。このとき前回の交接で蓄えられたライバル♂の精子を掻き出している。
  • 父子関係を調べると、♀と最後に交接した♂の精子が受精・産卵で優先的に使われている。
  • イエユウレイグモ♀の意志で交接の持続時間をコントロールできる。
  • 2回目の交接は初回よりも求愛から交接開始まで時間がかかり、持続時間がずっと短い。
  • 飼育下でイエユウレイグモは2年以上も生存し、室温を20℃に保てば季節を問わず繁殖活動を行う。♀は生涯に2〜6個の卵嚢を産む。(したがって、精子競争や性的対立を研究する実験動物としてなかなか優れている。)

この論文では飼育下でイエユウレイグモ♀一匹に対して2〜6時間という短い間隔で二匹の♂と連続して交接させています。
私が今回観察したような、卵嚢を一時的に手放して交接する事例は書かれていませんでした。


『クモの生物学』第10章「配偶戦略」も改めて読み返してみると非常に勉強になりました。

つづく


【追記】
「クモ蟲画像掲示板」にて、くも子さんより貴重な情報提供を頂きました。(吉倉眞1987『クモの生物学』より)
【卵のうの構造】イエユウレイグモの卵数は少なく20~30ほど。母グモはそれを鋏角でくわえ、蝕肢で支持している。捕虫の時は、卵塊を一時網に吊り下げておき、食事が終わるとまたそれをとり上げる。※

【姿勢の変化】イエユウレイグモの姿勢は温度変化によって変わる。温暖なときは、細長い脚で網糸にぶら下がっている(夏型)。ところが寒くなってくると一種の硬直姿勢をとるようになる(冬型)。広げていた脚を集束し、第一脚、第二脚を揃えて前方へ伸ばす。(この姿勢はクモが網を激しくゆすぶるときの姿勢である。)刺激に対する感受性は低下し、ほとんど体を動かすことがない。実験的に温度を下げて10℃にしたところ、メスの約50%、オスの約30%が冬型の姿勢をとった。これを温室に移してみると、一週間後には夏型に回復した。
※ てっきり卵嚢ガード中の♀は絶食してるのかと思い込んでいたので吃驚。
卵嚢を一時的に手放す行為に♀はさほど抵抗ないのだとすると、私のイメージも大分変わってきます。

2014/07/26

卵嚢ガードを中断して♂と交接するイエユウレイグモ♀(蜘蛛)



2014年6月上旬・室温23℃
▼前回の記事
卵嚢を持つイエユウレイグモ♀(蜘蛛)に求愛する♂

屋内の天井隅でイエユウレイグモPholcus phalangioides)の♂♀ペアが向かい合って牽制するように長い歩脚の先で触れ合っていたのはやはり求愛行動でした。
卵嚢を常にくわえて持ち歩きガードしていた♀が突然、左に向きを変えて♂から離れました。

てっきり争いに負けた♀が退散するのかと思って見ていました。
ところが♀は不規則網の片隅に卵嚢を一旦置くと、待っている♂の所に戻りました。
これは予想外の事態で、卵嚢を手放す決定的瞬間を撮り損ねてしまいました。

♀♂ペアは再び長い歩脚で互いに触れ合い、慎重に接近します。
遂にイエユウレイグモ♀は♂を迎え入れて交接を始めました。
頭を同じ向きに揃え、♂は♀の下面から触肢を外雌器に挿入しています。
計16本の長い歩脚が絡まること無く交接する様子は壮観です。
歩脚で抱き合うことはしません。

交接直前に♀が卵嚢を預けに行く間、♂が追いかけずにじっと待っているのも不思議でした。
「子どもを預けてくるからそこで待ってて♪」という意思疎通がちゃんとできているようにも見えますし、儀式化された手順があるのかもしれません。

野暮は承知の上で脚立に登りマグライトで照らしながら交接シーンを接写してみました。
なかなか撮りにくい体勢なので、触肢の結合状況があまりよく見えません。
以前オオハエトリの交接を飼育下で観察した際と同様に、♂の触肢から基部血嚢と呼ばれる薄い袋が飛び出しているようです。
この袋をリズミカルに膨張・収縮させることで、触肢内に貯えられた精子を外雌器に注入します。
マクロレンズを不用意に近づけると目に見えない不規則網に触れてしまい、その振動でクモを警戒させてしまいます。
眩しい照明もクモは嫌うようなので、接写はそこそこで諦めて遠くから見守ることにしました。

♀があれほど大切に抱えていた卵嚢を一時的に手放して交接するとは意外でした。
幼体が孵化するまで♀は卵嚢ガードを続けて次の交接を頑なに拒否するのかと思っていた私の予想は見事に外れました。
もし♀が卵嚢を保持したままだと、♂との交接に何か支障を来すのでしょうか?

素人の浅知恵ですけど、♀が卵嚢を口に咥えて保護するのではなく腹端の糸疣に付けて持ち歩くように進化すれば、卵嚢ガードと安全な再交接が両立できそうな気がします。
この卵塊は受精卵であることが後に判明します。

つまり、この♀は撮影時に処女ではなく既交尾♀でした。
一番知りたいのは、イエユウレイグモの♀は同じ♂と繰り返し交接しているのか(一夫一妻)それとも乱婚なのかという点です。(※)
つまりこの♂は♀が守る卵の父親なのか、DNA鑑定で血縁関係を調べてみたいものです。

卵嚢が別の♂の遺伝子を受け継いでいる場合、次に交接を試みる♂が卵嚢を壊したり食べたり強奪して捨てたりする子殺しを行う危険性があるのかもしれません。
♂が下手に子殺ししようとすると怒った♀に返り討ち(性的共食い)に合うリスクが高いのでしょうか? 
しかし♀が卵嚢を口に咥えている限り、毒牙で噛む反撃手段は封じられている気がします。
卵嚢を一時的に手放して交接するという行動が、卵を守りたい♀と何が何でも交接したい♂の双方にとってメリットがあるのでしょう(性的対立の妥協点でwin-win)。

♂は♀が持っていた卵塊の血縁度を認識できるのかな?
今回♂が子殺しをせず紳士的に振る舞ったのは卵が我が子と知っていたから?…なんてね。
やはり父子鑑定してみたくなります。

もし交接中に新たなイエユウレイグモが不規則網に侵入してきた場合、♀は卵嚢を守るために交接を中断し慌てて取りに行くのかどうか、興味があります。
これはやろうと思えば実験可能です。
網に預けている卵嚢を観察者が取り上げようとするだけでも振動で♀は異変に気づくはずです。

それとも交接中の♂の方が先に反応して、侵入したライバル♂または外敵を追い払おうとするかな?

つづく

※ 後日イエユウレイグモ♂に個体識別のマーキングを施した結果、何匹もの♂が入れ替わり立ち代り♀の居る不規則網を訪れては同居?することが判明しました。(ただし、交接を観察できたのはこの一度だけ。)


【追記】
イエユウレイグモ♀は自然環境で一妻多夫と調べが付いているようです。
Female Pholcus phalangioides are polyandrous in natural populations....
(Schäfer, Martin A., and Gabriele Uhl. "Determinants of paternity success in the spider Pholcus phalangioides (Pholcidae: Araneae): the role of male and female mating behaviour." Behavioral Ecology and Sociobiology 51.4 (2002): 368-377.)
検索すれば無料PDFファイルがダウンロードできます。

【追記2】
「クモ蟲画像掲示板」にて、きどばんさんより以下のコメントを頂きました。
卵を守っている、若しくは産卵予定の♀にとって♂の求愛は一種の脅威です。この脅威を回避する方法は大別して2種類あり、「雌雄の体格差が大きい場合は単純に♂を追っ払う、小さい場合は無理に争わず♂の求愛を受け入れる」というのがクモ屋の「一般的常識」となっています。既に産卵している♀に「精子間競争」は無意味のように思えますが、複数回産卵する種にとっては大きな意味を持つのかもしれませんね。また♀は意識的に遺伝的多様性を確保しようとしている可能性もありますし。
確かに今回のペアは目測ではほぼ同サイズでした。



2014/07/25

卵嚢を持つイエユウレイグモ♀(蜘蛛)に求愛する♂



2014年6月上旬・室温22℃

室内の天井隅(北東の角、床からの高さ240cm)に不規則網を張っていたイエユウレイグモPholcus phalangioides)がある朝、2匹で接近戦のような不思議なダンスを踊っていました。
1匹は口に卵嚢(卵塊)を咥えていることから成体♀のようです。
もう1匹は接写してみると触肢が発達した♂成体と判明。
目視では体長に性差は無さそうです。
♂♀ともに8本の歩脚は完全無傷で大きな欠損はありません。
この部屋でイエユウレイグモの存在を意識しなかったので、不規則網の持ち主は誰なのか不明です。
予想ではこの場所に元から居を構えていた♀のもとに♂が交接目当てでやって来たのでしょう。

♀♂ペアが不規則網で互いに向き合い、長い歩脚で優雅に触れ合っています。
網の所有権(縄張り)を巡って「近づくな!」と牽制しているようにも見えますし、♂が糸を弾いて求愛信号を送っているのかもしれません。
果たして♀の琴線に触れるでしょうか?
背景の天井や壁が白いので、不規則網や糸が見えないのは残念です。

いかにもこれから交接しそうな予感がしました。
気になる点として、♀が卵嚢を持ち歩いていることです。
このまま♂を受け入れて交接できるのでしょうか?
それとも、卵嚢ガード中の♀は
幼体が無事に孵化するまで♂を頑なに拒むでしょうか?(「触わらないで!」)
だとすれば、子持ちの♀と交接するためなら♂は子殺し(食卵)も辞さないでしょうか?(※)
♀は卵嚢を咥えている(触肢で保持?)限り、毒牙で噛む反撃は不可能です。
交接中に性的共食いを行うでしょうか?
以上のポイントを念頭に、固唾を呑んで観察を続けます。

脚立に登り白色LEDのマグライトで照らしながら接写してみると、先ず♀が抱えている卵嚢の大きさに驚かされます。
直径は体長の半分ぐらいでしょうか?
少なくとも、♀頭胸部よりも卵嚢の方が大きいです。
この卵塊は受精卵であることが後に判明します。
眩しい照明を嫌ったのか、♀は横を向いてしまいました。
次に♂を接写すると、触肢が発達しています。
♂が精網を作っている様子は見ていないので、既に触肢への移精が済んでいるのでしょう。
接写するとカメラがうっかり網に触れてしまいますし、照明がクモの配偶行動を邪魔してしまうようです。
離れた位置からの撮影に戻すとクモは落ち着いてくれました。

イエユウレイグモ♀の方が積極的になるときもあり♂は及び腰に見えますが、「押して駄目なら引いてみな」という恋の駆け引きかもしれません。
やがて♂が熱烈な求愛アタックを再開しました。
かなり接近したものの、未だ交接には成功していないようです。
一旦離れました。

つづく

クモ生理生態事典 2011』サイトを参照すると、イエユウレイグモの

産卵期は6~8月,卵は糸で薄く包んで口にくわえて保護する。
ごくありふれた普通種なのに誰も調べていないのか、配偶行動に関する記述はありませんでした。


英語版wikipediaでは「♀は20〜30個の卵を触肢で抱える」という表現をしています。

卵嚢の持ち方は一体どちらが正しいのでしょう?
卵嚢ガード中のイエユウレイグモ♀を捕獲して麻酔下で卵嚢をピンセットでそっと取り上げてみればきっと分かるでしょう。


※【追記】
子殺し」というショッキングな現象は動物行動学において重要なテーマの一つです。
ハヌマラングールという猿やライオンの♂がハーレムを乗っ取った後に♀の連れ子を次々に殺す例が有名です。
昆虫ではタガメの♂が守る卵塊を♀が襲って卵を壊してから♂と交尾する子殺しが日本で初めて発見されました。

クモで見られる子殺しの例として
クモの一種Stegodyphus lineatusである。このクモのオスはメスの巣に侵入して卵包を捨てる。メスは生涯で一つのクラッチしか持たないためにこれは繁殖成功を著しく減少させる。そのため怪我や死もまれではない激しい闘争が起きる。(wikipediaより)



卵嚢をくわえガードする♀成体
♂成体の触肢
♂成体の触肢

2013/05/03

樹上の巣に座るハシボソガラス(野鳥)



2013年4月中旬

川の堤防に立つ大木(樹種不明)に止まった一羽のハシボソガラスCorvus corone)がしばらく辺りを見回してから、樹冠に作られた巣に戻りました。
抱卵しているのでしょうか?
こうした状況でもラジコンヘリにカメラを搭載したら巣の様子を安全に空撮できるかな〜?と夢想してみる。


2011/03/20

ツバメ(野鳥)の屋内営巣



2008年6月上旬

使われなくなった倉庫の天井でツバメHirundo rustica)が営巣していました。
蛍光灯の上に泥の巣が出来ていました。
普通に見られる軒下の巣よりも遥かに安全な環境なのでしょう(天敵のカラス対策)。
親は一羽しか見ませんでしたが抱卵中なのでしょうか。
割れた窓から自由に出入りしている模様。
巣の近くから撮っている間は警戒しているのか、ぐるぐる旋回するだけで決して帰巣しませんでした。

2011/03/06

スジアカハシリグモ♀(蜘蛛)の卵嚢保護



2008年7月下旬

林道に出来た万年水たまりの岸に生えた笹の葉でスジアカハシリグモ♀(Dolomedes saganus)が日光浴してました。
卵嚢を触肢と上顎でしっかり抱え込んでいます。
母グモは卵嚢を常に持ち歩いて保護し、胚発生に最適な温度・湿度の管理に気を配っているようです。
カメラが近付くと威嚇する素振りを見せるものの、敵わないと見るや遁走しました。
初見の成体はとても立派でした。



2011/01/29

キザハシオニグモ♀(蜘蛛)の卵嚢ガードと威嚇



2009年6月中旬

前回の観察から11日後に再訪すると、驚いたことにキザハシオニグモ♀(Gibbaranea abscissa)が未だ同じ場所で卵嚢保護を続けていました。
今回は新しく蝿の死骸(食べ残し)が残されているので、捕食したのでしょう。
卵嚢ガード中の♀クモは捕食しない(絶食する)のが普通とされているので、珍しく思いました。
指や草で歩脚に触れると健気に威嚇攻撃してきました(母は強し)。
しつこくちょっかいをかけると一転して身を縮めますが、それでも卵を捨てて逃げ出すことはありませんでした。






2011/01/27

イオウイロハシリグモ♀(蜘蛛)による卵嚢選択実験



2009年6月下旬

飼育中のイオウイロハシリグモ♀(Dolomedes sulfueus)が卵嚢を作ってから5日後。
無精卵なのに卵嚢を肌身離さず抱えて歩き、絶食状態で保護しています。
母性本能の実体を調べるために、『ファーブル昆虫記』で読んだ実験を真似て卵嚢を取り上げてみることにしました。
しかし卵嚢に触ろうとするだけで当然逃げ回ります。
無理やり奪うと怒った母クモに噛まれるかもしれません。
安全のためクモを一時捕獲し炭酸ガスで全身麻酔しました。



仰向けにされても卵嚢は手離しません。
ピンセットで卵嚢を取り上げると簡単に外れました。
偽物の卵嚢を用意しました(脱脂綿玉4個、トイレットペーパーの紙玉2個)。
♀を容器に戻し、麻酔から醒めるのを待ちます。
周囲に偽卵嚢を等間隔に並べ、本物の卵嚢も紛れ込ませておきます。
覚醒した♀は卵嚢が無いことにすぐ気づいた様子。
容器内を一回りすると、自分の卵嚢を迷うことなく選び、抱え込みました。
偽卵嚢の全てには触れておらず、視覚のみで選択できたようです。
臭いがあるのかもしれない。
実物の卵嚢は表面が汚れ、意外に固く締まっていました。
偽卵嚢として固い素材(コルク片やスポンジなど)も試すべきだったかもしれません。
ファーブルの記述したナルボンヌコモリグモの実験結果(とにかく手近にある丸い物体を取り返せば満足する)とは全く異なり、興味深いです。
(飼育記録の続きはこちら。)

《参考》
集英社文庫 『ファーブル昆虫記 第4巻:攻撃するカマキリ』 p51~




『ハチの家族と社会―カースト社会の母と娘』 中公新書 p7より
日本では、ファーブルを愛する人は彼以後の発展に留意せず、昆虫の研究者はめったにファーブルに言及しない。残念なことである。



【追記】
『観察の本4:クモの親と子』p62〜65によれば
ウズキコモリグモの母グモから卵嚢を取り上げてから代用物を差し出すと(大豆、木片、消しゴム、チョーク、紙玉など)、クモは形や重さなどほとんどお構いなしに、お尻につけるらしい。(代用実験)

イオウイロハシリグモ♀(蜘蛛)の卵嚢保護



2009年6月下旬

飼育中のイオウイロハシリグモ♀(Dolomedes sulfueus)が卵嚢ガードを続けています。
餌を全く捕らなくなりました。
容器に投入した虫が近付いても無視したり嫌がって逃げたり追い払うだけです。
水場周辺がお気に入りなのですけど、この日は常に抱えていた卵嚢を手放し、水に浮かべたまま身繕いしている珍しい光景に出会いました。
この卵嚢は無精卵(未受精卵)なので、♀の絶食および卵嚢保護が何時まで続くか興味深く見守っています。
つづく


2011/01/25

コハナグモ♀(蜘蛛)による卵嚢保護



2009年7月上旬

小さなちまき状に巻かれたススキの葉の上でコハナグモ♀(Diaea subdola)がガードしていました。
左右の第一脚を大きく広げて威嚇します。
偶然居合わせただけかと一瞬思いましたけど、中を観察するため産室を注意深く切り開こうとするとナイフに噛み付きました(映像無し)。
切り取った葉ごと地面に置いて卵の写真を撮っていると徘徊中の働きアリ(種名不詳)に見つかりました。
卵嚢に近付くアリを母クモは必死に追い払いました。
母は強し。
激しく噛み付かれたアリも蟻酸を分泌して反撃したのか、命からがら退散しました。
露わになった卵嚢を隠すようにコハナグモ♀は糸で綴り始めました。
葉巻と♀を一緒に採集して持ち帰ると、その間に葉巻の修繕は完了していました。
幼体が出嚢するまで飼育してみます。
つづく
 


2011/01/22

卵嚢を保護するアズマキシダグモ♀(蜘蛛)



2009年7月下旬

ヨモギの葉裏で見つけたアズマキシダグモ♀(Pisaura lama)。
卵嚢を口に咥えて持ち歩き、常にガードしています。
歩脚を2本欠損(-L1R4)しているように見えます(死角になっているだけ?)。
幼体の孵化が近付くと、草叢に簡単な住居網を張って卵嚢を吊るして出嚢まで見張るのだそうです。
 


2011/01/19

産室内で卵嚢を守るカバキコマチグモ♀

2009年8月上旬

林道横に生えた葦/ススキの葉を粽状に巻いて作られた産室を採集して持ち帰りました。


ナイフで切り開くと、やはり中でカバキコマチグモChiracanthium japonicum)の♀が白い卵嚢をしっかりと保護していました。
実はこの状態を実際に観察するのは初めて。
ピンセットで刺激しても♀は卵嚢の傍を決して離れません。
日本産のクモには珍しく危険なクモとして知られるので、鋭い毒牙で噛まれないように同定用の写真撮影は炭酸ガスで麻酔してから行ないました。


体長は11mmで、腹面の外雌器も写真に記録しました。
8本の歩脚は全て揃っていました。




麻酔から醒めた♀を葉巻と一緒にすると大人しく産室に戻り、糸で修復を始めました。
映像の後半は三倍速再生。
この個体は噂で聞くより穏やかな性質で、特に攻撃性は示しませんでした。
このまま飼育してみます。(つづく) 

2011/01/17

イオウイロハシリグモ♀(蜘蛛):食卵した卵嚢の保護・放棄



2009年9月上旬

飼育中のイオウイロハシリグモ♀(Dolomedes sulfueus)は3個目の卵嚢を完成直後に自ら噛み裂き食卵してしまいました。
卵嚢は噛み裂かれた跡があり、空の袋になっています。
それでも一応、卵嚢の残りを2日間ほど惰性で持ち歩いていました。
やがて壁面に卵嚢を放棄して床に下りました。
産卵から卵嚢放棄までの期間が回を追うごとにどんどん短くなっている点も興味深く思いました。
♂と交接していないので無精卵を産み続けることになり、すっかり投げ遣りになっているのだろうか。
それとも老化なのだろうか。

2011/01/05

ワラジムシ♀の抱卵と幼虫




2010年5月上旬

最近ワラジムシPorcellio scaber)の飼育容器に白くて小さな幼虫がたくさん出てきました。
交尾行動などは見逃したのですが、いつのまにか孵化したようです。
幼虫は乾燥に弱いのか土の中に潜るのが好きみたいです。
よく見ると成虫の中に腹面に卵塊を収めた袋(育房)を抱えている♀がいます。
ダンゴムシの本で読んだのと似ています。
この袋を破って幼虫が産まれるのだそうです。
 


2011/01/04

ホオナガスズメバチ初期巣の定点観察




2010年5月中旬

巣盤をすっぽり覆う外被の建設が進んでいます。(二層目?)
この日は気温が低く、女王は余り外出しませんでした。
寒い日はなるべく抱卵に専念しているのだろうか。
女王が帰巣したり中で動いたりすると巣が激しく揺れます。
スズメバチの本によると、樹上に営巣することの多いホオナガスズメバチ類の巣は耐震構造に優れた工夫が凝らされているそうです。
巣盤を支える巣柄が単純な円柱状ではなく、紙製の吊り手が三角形の板状でしかも螺旋状に捻って作られるために、スプリングのように巣の振動をうまく吸収してくれるらしい。
コロニーが解散したら巣を採集して、この目で確かめてみたいものです。
つづく) 



≪参考≫
『スズメバチはなぜ刺すか』 p185(北海道大学図書刊行会)
『蜂は職人・デザイナー』 p40, 58(INAX出版)

ホオナガスズメバチ女王の抱卵




2010年5月上旬

ホオナガスズメバチの一種の女王は巣に居る間、ときどき見回りしたり姿勢を変えるものの、ほとんどの時間は抱卵姿勢(カーリング行動)で卵を温めて過ごしていました。
初期巣の卵を積極的に温めて発生を早めたり保温のための外被を作ったりする点がスズメバチのアシナガバチとは決定的に違うところです。


昆虫は一般に変温動物と思われがちですが、抱卵する女王蜂は胸部の飛翔筋を活発に収縮させて(羽そのものは動かさず)発熱しているそうです。
激しく呼吸する腹部の収縮が見えます。
つづく

≪参考≫
『熱血昆虫記:虫たちの生き残り戦略』 どうぶつ社
『スズメバチはなぜ刺すか』 北海道大学図書刊行会 p192
 


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