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2018/11/04

日没後に塒から飛び去るゴイサギ幼鳥の群れ(野鳥)



2018年8月上旬・午後19:09〜19:19(日の入り時刻は18:45)

ゴイサギNycticorax nycticorax)の群れ(家族群)の昼塒を見つけた同じ日の日没後に現場の池を再訪すると、親鳥はどこかに居なくなっていました。
一方、池の中に突き刺さった落枝には数羽の幼鳥が未だ居残っていました。
静かにしていた昼間とは打って変わり、グェッ、グヮッ♪と盛んに鳴き交わしています。

決して美声ではありませんが、「夜ガラス」と俗に言われる不気味な鳴き声の正体がこれで分かりました。
木に登ったり羽ばたきの練習をしたりと活動的です。
オレンジ色の光は、横の車道を照らす外灯(ナトリウムランプ)です。

夜行性のゴイサギは暗くなると続々と昼塒を離れ、採餌場へと飛び立ちます。
それまで気づかなかったのですが、池の畔の森にもっとたくさんのゴイサギが潜んでいたようです。(集団塒)
てっきり群れの一部は昼塒にしている池に夜も留まって採餌するのでは?と予想していたのですけど、やがてゴイサギは一羽も居なくなりました。

ゴイサギが夜どこで採餌しているのか突き止めたくて、この夏の晩に何度か追跡してみたものの、残念ながら失敗しました。
大群で一団となってねぐらから採餌場へ飛んで行くのではなく、三々五々とバラバラに飛んでいくので、追跡が難しいのです。
川沿いを上流へ向かって調べたり別の溜池に目星をつけて行ってみても、夜の水辺にはカルガモしか見つけられませんでした。
川や池ではなく、夜の水田に散開して採食しているのかな?
ゴイサギにGPSを取り付けて夜通し追跡できたら面白いのになぁ…と夢想します。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
実際の現場はこれより遥かに暗く、私のカメラ(Panasonic FZ-300)の性能の限界ギリギリでした。
薄暗がりでのゴイサギ幼鳥の動きが見えやすいように動画編集で無理やり明るく加工してあります。
私の興味関心は生き物の自然な行動にあるので、強いサーチライトなどは使いたくありません。
このような薄暗い状況でも愛機(Panasonic FZ-300)で上手く撮れる「手持ちカメラ夜景モード」の存在を当時は知らず、いつもの「お任せモード」のままで撮りました。
赤外線の暗視カメラも別に持っているのですけど、赤外線投光機(補助照明)を用いても対岸には届かない距離のため、この状況では暗くて使い物になりません。


ゴイサギ幼鳥(野鳥)群れ@日没後:池畔:落枝

2018/11/03

コナラの樹液酒場に来たオオゾウムシ【暗視映像】



2018年8月中旬・午前4:38

定点観察しているコナラの樹液酒場に日の出前から来てみると、オオゾウムシSipalinus gigas)が居ました。
まずは赤外線の暗視カメラで撮ってみましょう。
泡立つ樹液スポットの直下にいたオオゾウムシが幹を少し登り、静止しました。

次に白色のLEDを点灯しても、特に反応はありませんでした。
コナラの幹に樹液が滴り落ちています。
採寸代わりに左手の人差し指を差し出し、オオゾウムシに軽く触れただけで擬死落下(死んだふり)しました。
保護色のため、林床で見失ってしまいました。

本で読んではいたものの、実際にオオゾウムシが樹液に来るのを観察したのはこれが初めてで、嬉しい収穫でした。
しかし目ぼしい甲虫はこれだけで、ちょっと期待外れでした。
(常連客のアオカナブンの姿もありませんでした。)
夜明け前は客足が途絶える時間帯なのかもしれません。
山林ではもうヒグラシ♂が悲しげに鳴いています。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


夕闇の崖を歩くネコ



2018年8月上旬・午後18:59(日の入り時刻は午後18:44)

日没後、池の畔の崖で1頭のイエネコFelis silvestris catus)が活動していました。
白地に黒い斑紋の猫が薄暗がりの急斜面を忍び足でトラバースしています。
首輪は見えませんが、野良猫なのかな?

水際に下りて池の魚を取ったり岸辺のカルガモなどを襲うなど、何か獲物を捕食するのでは?と期待して(※)対岸から撮ってみました。
しかし、気まぐれな猫は斜面を登り返してしまいました。

※ 池の岸の茂みで鯉の白骨化死体を見つけたことがあり、このネコの仕業ではないかと疑っています。


ネコ@晩:濠沿いの崖+トラバース徘徊

2018/10/31

深夜のコナラ樹液酒場に来たニホンアマガエル



2018年8月中旬・午前4:40頃

里山の林道脇で見つけたコナラの樹液酒場に夜明け前から様子を見に来てみました。
日の出時刻は午前4:51。
すると、樹液酒場のすぐ横の小枝にニホンアマガエルHyla japonica)が居ました。
まず初めは赤外線の暗視カメラで撮ってみます。
幹の方を向いて静止していて、喉も動いていませんでした。
樹液に集まるショウジョウバエなどを待ち伏せて捕食しているのでしょう。
舌を伸ばして捕食する瞬間をいつか動画に撮ってみたいと思いつつ、長期戦になりそうで、いつも諦めてしまいます。(飼育すべきか?)

▼関連記事(4年前の撮影)
夜のミズナラ樹液酒場に来たニホンアマガエル
夜の樹液酒場に来たモリアオガエル

白色LEDを点灯したら、ニホンアマガエルの体色は緑でした。
迷彩のような黒っぽい斑紋が入っています。
緑色に苔むしたコナラの幹に対して保護色になっていますが、完全な暗闇では関係ないでしょう。
左手の人差し指でカエルに軽く触れると、ピョンと跳んで逃げて前方の幹にしがみつきました。
ジャンプのスローモーションは1/5倍速。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


2018/10/20

三巣並行営巣に失敗したスズバチ♀



2018年7月下旬
▼前回の記事
コンクリートブロックを物色して営巣地を決めたスズバチ♀

駐輪所やゴミ集積場として使われている小屋の軒下に置かれたコンクリートブロック内でスズバチ♀(Oreumenes decoratus)が営巣を始めたので、定点観察に通ってみました。
ところが泥巣を少し作りかけただけで未完のまま放棄してしまったようです。

スズバチ♀の営巣開始を観察したのが7/10。
そのときはコンクリートブロック内に泥巣は全く作られていませんでした。
その3日後(7/13)および10日後(7/20)に作りかけの泥巣を写真に撮りました。
今回は18日後(7/28)の夜です。
暗い穴の底にある泥巣を写真で記録するのはピント合わせが意外と難しいので、今回は赤外線の暗視カメラによる動画で撮ってみました。
ストロボ写真で記録するよりも上手く状況を記録できました。
母蜂の活動する姿を見たのは初日だけです。
コンクリートブロックを採寸してみると、縦×横×高さ=39×19×10cm。
各ブロックに3つある深さ19cmの穴の断面は角が面取りされていて、長径×短径=8×4.5cmの楕円状。

面白いことに、コンクリートブロックに3つ並んでいる穴の奥底で、同じ深さの同じ位置(右下)に泥巣を3つも作りかけていました。
この辺りではスズバチの生息密度が高くないので、複数個体の♀が同じ場所で集団営巣した可能性は低いと考えています。
(集団営巣では3つの穴の同じ位置に泥巣が作られたことを説明できません。)
1匹のスズバチ♀が三巣並行営巣を試みたのでしょう。
実はこのような現象は他の種類の蜂でも結構よくあることです。
私は以前、キアシナガバチの女王蜂を個体識別して二巣並行営巣を証明したことがあります。(私が蜂の観察にのめり込むきっかけとなった忘れがたい事例です)

▼関連記事
二巣並行営巣を始めたキアシナガバチ創設女王
キアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の謎

【参考文献】
1. Kasuya E. Simultaneous maintenance of two nests by a single foundress of the Japanese paper wasp, Polistes chinensis antennalis (Hymenoptera: Vespidae). Applied entomology and zoology. 1980;15(2):188–189.
フタモンアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の報告です。
2. 牧野俊一, 山根正気. ニッポンホオナガスズメバチの創設女王で見られた2巣並行営巣行動の観察. Kontyû. 1979;47(1):78-84.

どうしてこんなことが起こるのでしょう?
複眼と単眼による蜂の視覚系は、ヒトの見ている世界とは異なります。
営巣地を決めた蜂は定位飛行をしながら周囲の風景を記憶しようと努めます。
その視覚記憶に頼りながら巣材を集めに何度も往復して、次第に巣が建造されます。
ヒトが作った人工物をたまたま蜂が気に入ってそこに営巣を始めたとき、その人工物が幾何学的な繰り返し構造になっていると蜂は混乱して正しく位置を記憶できなくなってしまうようです。
自然界には「規則正しい繰り返し構造」などという物は存在しませんから、長い進化の過程でも、そのような本能行動の過ちが修正される機会が無かったのでしょう。
今回の場合は、一つのコンクリートブロックに相同の穴が3つ並んでいたことがスズバチ♀の混乱を招く元となりました。
実はこの軒下には、同型のコンクリートブロックが4つ並べて置いてありました。
スズバチ♀はその中で左端のブロックを選んで記憶することは出来たようですが、そこまでが能力の限界でした。
(残り3つのコンクリートブロック内には泥巣は全く作られておらず、落ち葉やゴミが溜まっていました。)

蜂が選んだブロックの右隣のブロックはなぜか真ん中で真っ二つに割れていたので、蜂の目から見ても他と区別しやすかったのかもしれません。
現代人が団地や集合住宅などの人工的な繰り返し構造から我が家を難なく探し当てる能力があるのは、建物に表札やラベルを書いて目印にしたり、座標の概念を駆使して住所を記憶するからです。(何号棟の何階の何号室)
蜂にはこれが出来ないのです。(フェロモンで匂いの目印を付ければ良いと思うのですが…。)

写真を並べてみると、造巣は7/13以降になると全く進んでいません。
母蜂が何らかの理由で死んでしまったのかもしれません(殺虫剤で駆除されていないことを祈ります)。
あるいは、この「おかしな営巣地」を捨て新天地でやり直すことにしたのでしょう。
幾ら働いても造巣が一向に進まないので「おかしい」と気づいたスズバチ♀が「本能の落とし穴」から自力で抜け出せたのだとすれば、とても興味深いですね。(ファーブルが好きそうな話です)

コンクリートブロックの横に無人カメラを設置してスズバチ♀の行動を全て録画していれば貴重な記録になっていたことでしょう。
蜂の為を思えば、コンクリートブロックの余計な穴を塞いでやれば、造巣に専念できたかもしれません。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


スズバチ営巣地@コンクリートブロック(7/13)
スズバチ未完泥巣a@コンクリートブロック(7/13)
スズバチ未完泥巣b@コンクリートブロック(7/13)
スズバチ未完泥巣c@コンクリートブロック(7/13)
スズバチ営巣地@コンクリートブロック(7/20)
スズバチ未完泥巣a@コンクリートブロック(7/20)
スズバチ未完泥巣b@コンクリートブロック(7/20)ピンぼけ
スズバチ未完泥巣c@コンクリートブロック(7/20)

2018/10/14

夜になると閉じるニセアカシアの葉【暗視映像】



2018年7月下旬

マメ科植物のニセアカシア(別名ハリエンジュ)の木の葉はネムノキと同様に、夜になると葉を閉じて眠ると聞きました。


▼関連記事
ネムノキの葉が夜に閉じる就眠運動【微速度撮影】
ネムノキの開葉運動【微速度撮影】

夜遊びの帰り道、実際に見に行ってみました。
1箇所目は住宅地の道端に生えたニセアカシアの灌木です。
赤外線の暗視カメラで撮ると、確かにニセアカシアの葉は葉柄から垂れ下がった状態でした。
2箇所目は側溝の近くに生えたニセアカシアの幼木です。
夜はストロボ付きのカメラを持ってくるのを忘れてしまい、写真を撮れませんでした。(映像のみ)

翌日の昼間(数時間後)に同じ2箇所を再訪して、昼間の葉の様子も映像で記録してみました。
昼間のニセアカシアは葉柄がピンと伸びていて、活発に光合成しています。
丁度この日は接近中の台風の影響で風が強く、枝が激しく揺れていました。
今年の夏は記録的な猛暑でしたが、ニセアカシアの葉が夜に萎れているように見えるのは決して干ばつや水不足のせいではありません。
夜から昼にかけて雨が降った訳でもありません。

この点について今回の映像はあまり説得力がありません。
次回はニセアカシアの就眠運動や開葉運動を連続して撮影(微速度撮影)してみるつもりです。
今季は野外で長時間じっくり撮影できそうな場所を探せませんでした。(怪しまれて職務質問されそうです)
枝葉を採取して室内で撮影できれば簡単ですけど、水差しにした照明下でも運動性は保たれているのかな?
予習しようと思いつつ他のことで忙しく、来年に持ち越しです。

本やインターネットで調べる前に、片手間にでも試しに予備実験してみれば良かったですね。

参考サイト:植物の眠りを分子で解く(研究者インタビュー)


ニセアカシア枝葉a
ニセアカシア灌木a・全景
ニセアカシア枝葉b
ニセアカシア幼木b・全景

2018/09/20

イチョウ並木に塒入りするカワラヒワの群れ(野鳥)



2018年7月上旬・午後18:45〜19:05・気温28℃(日の入り時刻は19:04)

市街地の大通り沿いに植栽されたイチョウの樹冠とすぐ横を走る電線に2羽のカワラヒワCarduelis sinica)が止まっていました。
嘴を足元の電線やイチョウの枝に擦り付けています。
大型トラックが通りかかったせいか、急に飛び立つと左隣に立つ別の街路樹(樹種不明)の梢に移動しました。

日没直後に現場を再訪すると、更に薄暗くなった大通りの電線に止まっていたカワラヒワが、真下にあるイチョウ街路樹の青々と繁った枝葉に飛び込みました。
カワラヒワの塒入りは初見で、本でも読んだことがありません。
ハクセキレイの就塒前集合とは異なり、カワラヒワは鳴き交わしてはいませんでした。(群れと呼ぶには数が少な過ぎるから?)

このイチョウ並木は昨年、ハクセキレイの集団塒でした。
▼関連記事
イチョウ並木に塒入りするハクセキレイの群れ(野鳥)
イチョウの街路樹を塒とするハクセキレイ♀♂の群れ(野鳥)
しかし、今回ハクセキレイの姿はなぜかほとんど見かけませんでした。
数の少ないカワラヒワにお気に入りの塒を追い出されたとは思えないのですが、ハクセキレイの群れは集団塒の位置を変えたのでしょう。


※ 実際はもっと薄暗いのですが、動画編集時に自動色調補正を施しています。


カワラヒワ2(野鳥)@電線/イチョウ樹冠

2018/08/16

夕暮れに線路沿いを散歩する長毛ネコ



2016年7月上旬・午後19:23〜19:25(日の入り時刻は午後19:05)

日没後に長毛のイエネコFelis silvestris catus)が田舎のローカル線(単線)を散歩していました。
野生のタヌキにしては変だな?と焦って撮り始めたら猫でした。

▼関連記事
線路脇に尿で縄張りをマーキングする長毛ネコ

私がそっと近づくと、ネコは線路上に立ち止まり、こちらを見下ろしています。
やがてネコは砂利を盛った土手を降り始め、下の農道に向かいました。
こちらを一瞥してから砂利道を歩き去ります。

向こうから走って来た自転車が猫に気づいて止まってくれました。
ライトを点灯した自転車も恐れない、完全に人馴れした猫でした。
実はこの間、軽トラックも農道を通り過ぎています。(私も横にどいて車を通したので撮影中断)
首輪は見当たりませんけど、近くで誰かに飼われている飼い猫なのでしょう。


長毛ネコ@線路

2018/07/07

室内で冬越し中のオニグモ(蜘蛛)がカーテンレールを徘徊【暗視映像】



2018年3月中旬・午後18:40頃・室温20.6℃
▼前回の記事
室内越冬中のオニグモ(蜘蛛)と寄生蜂の繭

18日ぶりの撮影です。
晩に部屋を点灯してカーテンを閉めようとしたら、室内で越冬中のオニグモAraneus ventricosus)がカーテンレール上を徘徊していました。
オニグモは本来夜行性なので、初めは赤外線の暗視カメラでクモの動きを記録しました。
後半は補助照明の白色LEDを点灯して撮影しました。
赤外線でも白色光でも、角度によってはオニグモの単眼が白く光って見えます。
これはタペータム(輝板)が反射していいるためです。
クモは眩しい白色光を嫌ったのか、最後はカーテンレールに引き返してしまいました。

今思うと、個体識別するためのマーキングを施すべきでしたね。
昼間は換気のためにこの窓を少し開けていたので、新たに別個体が侵入した可能性も否定できません。

シリーズ完。

果たして飼育と言えるのかも分かりませんが、このオニグモの元気な姿を見たのはこれが最後でした。
採寸やステージの確認(亜成体?)などをずるずると先延ばしにしていたら、結局やらずじまいになってしまいました。

再び何日も見失った後に、床で干からびた死骸を見つけました。
個体標識していなかったので確信はもてませんが、おそらく同一個体だと思います。
やはり寒冷な野外よりも遥かに暖かい室内ではかえって体力が消耗してしまい(休眠が妨げられ)、いくらクモの飢餓耐性が強いとは言え、飲まず食わずでは春まで生き残れなかったのでしょう。
冬の室内は乾燥しがちなので、せめてクモの体や不規則網に霧吹きして水分を与えようとしたのですが、その度にクモは驚いて天井から落下するばかりで体力の消耗を早めてしまいました。
夏季のような円網は一度も張らなかったため、生き餌を給餌してやることもできませんでした。
良かれと思って保護しても生き物のためにはならない、というありがちな結果になりました。
クモを思うなら、冷蔵庫に保管するか屋外に追い出すべきだと分かりました。
冬の冷気にしっかり晒した方が無事に休眠越冬できたのでしょう。


動画とは別の日に撮影(6日前)@天井

2018/05/28

壊されたヒメスズメバチの巣穴を深夜に覗いてみると…【暗視映像】



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#5


前回の記事#4

2017年9月中旬・午前3:00頃・気温14.5℃、湿度75%

柳の根際の土中に作られたヒメスズメバチVespa ducalis)の巣が掘り返された(崩落した?)形跡があり、残り少なくなった蜂もなんだかよく分からない行動をしていました。

そこで、巣盤の破壊状況を自分の目で直接確認してみることにしました。
しかし、スズメバチ用の防護服は高嶺の花です。
いくらヒメスズメバチが穏健な(攻撃性の低い)種類のスズメバチだとは言え、防護服を持っていない私はなかなか巣に近づけません。

それでもできるだけ安全に巣を調べる作戦を思いつきました。
モンスズメバチと異なり、ヒメスズメバチは昼行性です。
夜になると外役に出ていたワーカー♀も全員巣に帰って寝ていますし、暗闇では目が見えませんから攻撃性も更に低下しているはずです。
暗視ビデオカメラと赤外線投光機を取りに一旦家に戻り、日付が変わった深夜に現場を再訪しました。

明け方に決行したのは、気温が低い方がスズメバチの活動性が下がるからです。(赤外線投光機の充電に手間取ったせいでもあります。)
ナイトビジョンカメラで巣穴の奥の様子をそっと撮ってみました。

約12時間前の昼間には日光浴や謎の定位飛行、扇風行動を繰り返していたのに、真夜中の巣前庭には一匹も蜂は居ませんでした。
巣穴の入り口に、植物の細根が上から暖簾のように垂れ下がっています。
穴の左奥の下に、スノコのような人工物が見えます。
遊歩道が造られてから長年の間に土が堆積し柳の木や藪が育ったせいで分かりにくいのですが、ここは舗装された遊歩道の路肩で、雨水などを排水するための排水溝(暗渠)がスノコの下に流れているようです。

私がビデオカメラを持ってゴソゴソしていたら、巣穴の右奥から寝起きのヒメスズメバチ♀が1匹歩いて来ました。
焦りましたが、すぐに引き返してくれました。
計3匹の蜂が興奮したようにウロウロと歩き回っています。

そのうちの1匹が翅を半開きにした警戒姿勢になったものの大顎を開閉しただけで、カチカチ鳴らす警告音は聞き取れませんでした。(なので私も身の危険は感じませんでした)
蜂は目覚めていて明らかに警戒していましたが、暗闇では決して飛び立ちませんでした。

巣前庭にも出てきませんでした。

空洞になった柳根際の地面に巣の外皮の破片が散乱しています。
ヒトに駆除されたのか天敵に襲われたのか分かりませんが、巣を破壊されたのは間違いありません。

それでも壊された巣で夜を過ごし、巣を守ろうとする蜂が健気です。

巣盤が上から吊り下げられているはずだと予想してビデオカメラを上に向けてみても、空洞が写るだけで巣盤は見つかりませんでした。(もっとじっくり調べるべきだったと後で悔やむことになります)

壊された巣を再建している形跡もありませんでした。
巣穴の奥には更に多くの蜂が休んでいたのかもしれませんが、確かめられませんでした。
防護服が無いおっかなびっくりの調査では、これが限界です。
ファイバースコープのような暗視カメラをそっと差し込んで撮影するのがスマートかもしれません。(これまた高価な機材で、私には手が出ません)

ヒメスズメバチの巣を発見したその日に、未だ壊されていない巣盤の状況をこの方法で夜に調べなかったのが、一番悔やまれます。

つづく→#6







【追記】
松浦誠『社会性ハチの不思議な社会 (自然誌選書)』を読むと、熱帯のインドネシアで調査したエキゾチックな蜂の話が序章から出てきて面白いです。
「豪雨のなか、ヒメスズメバチと格闘する」と題したエピソードが壮絶でした。(p12〜17)
巣に近づいただけで襲われる、その激烈な攻撃性、凶暴性に震撼し、私が知る日本産ヒメスズメバチの穏やかな性質とあまりにも違うので驚きました。
この記述を額面通りに信じていたら、とても恐ろしくて防護服なしでは私もヒメスズメバチの巣に近づこうとは考えもしなかったことでしょう。
本書は1988年に刊行され少し古い(30年前)のです。
このスズメバチは、東南アジアの各地に15亜種にも分化していて、日本にも、本州以南に3亜種が生息している。(p13より引用)
どうもおかしいので読み直すと、
体長3センチを越える大型のスズメバチが、さかんに飛びまわっている。全身、真っ黒で、腹部の中央にオレンジ色の太い帯を一本巻いたそのハチは、スズメバチのなかでもオオスズメバチにつぐ体躯をもった、ヒメスズメバチであった。(p13より引用)
本文には和名だけで学名が記されていないのですが、この特徴から、筆者の松浦先生が記録したインドネシアの蜂の学名はVespa tropicaであり、日本のヒメスズメバチ(Vespa ducalis)とは別種であることに気づきました。
古い図鑑を見ると、確かにかつては日本産ヒメスズメバチの学名はVespa tropica pulchraとされていて、分類上の混乱が生まれたのです。
アシナガバチ類の巣を専門に襲撃して幼虫や蛹を奪い、自分の巣の幼虫の食物とするユニークな生態はV. tropicaV. ducalisで共通らしく、研究の初期には亜種の関係にあると考えられていたのでしょう。
名著でも古い文献を参照する際は、現在の知見と違っている可能性があるので注意が必要です。 




2018/05/14

タケニグサ葉裏の初期巣で抱卵するキボシアシナガバチ創設女王【暗視映像】



2016年6月上旬・午後19:41

7日ぶりの定点観察で夜に様子を見に行きました。

▼前回の記事
夕暮れにタケニグサ葉裏の初期巣を守るキボシアシナガバチ創設女王【暗視映像】

山麓の道端に生えたタケニグサの葉裏に作られたキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の初期巣は意外にもほとんど育っていませんでした。

赤外線の暗視動画を撮ると、創設女王は頭部を巣柄に付けて(巣柄を噛んでる?)巣盤に乗った状態でガードしながら寝ていました。
私の気配に気づいて目覚めても巣上で少し身動きしただけで、あまり警戒を示しませんでした。
7室の育房内に白い卵が1個ずつ産み付けられています。
気温の下る夜間は女王蜂が抱卵して自分の体温で少しでも温めようとしているのでしょうか?
しかしアシナガバチの巣はスズメバチの巣とは異なり断熱効果の高い外被構造が無いので、風が少し吹くだけですぐに外気温まで下がってしまいそうです。

サーモグラフィーのカメラを手に入れたらぜひ撮ってみたいテーマの一つです。

蜂の自然な行動をなるべく撹乱しないように、今回は暗視動画のみで、ストロボ写真も撮りませんでした。
夜空には月齢5.0の三日月と一番星が出ていました。

残念ながらこのコロニーを観察できたのは、この日が最後になりました。
私の予想通り、道端の一斉除草作業によりタケニグサはなぎ倒され、この巣も失われてしまいました。(シリーズ完)


2018/05/09

深夜も巣口で外を見張るコガタスズメバチ♀門衛【暗視映像】



枯木に営巣したコガタスズメバチの定点観察#13


前回の記事→#12

2016年8月上旬・午前3:00頃

2日ぶりの定点観察。
草木も眠る丑三つ時に営巣地へ忍び寄り、赤外線の暗視カメラでコガタスズメバチVespa analis insularis)の巣を撮影してみました。
昼夜を問わず活動するモンスズメバチとは異なり、コガタスズメバチは昼行性で夜は巣で寝ています。
外皮上にはワーカー♀が一匹も居ません。
しかし3匹の門衛が巣口から外を見張っていました。
今回はやりませんでしたが、以前に別のコガタスズメバチの巣で闇夜に外被を棒でコンコン叩いても寝ていた蜂は怒って襲ってきたりしないことを確認しています。(日中にヒトが繰り返し巣を壊そうとしたり虐めたりしていれば、話が全く変わってくるでしょう。)

通常のカメラをうっかり持参し忘れたため、ストロボ写真で巣の状態を記録できませんでした。

つづく→#14:コガタスズメバチ♀が巣の内壁を削る音♪


2018/05/04

夕暮れにタケニグサ葉裏の初期巣を守るキボシアシナガバチ創設女王【暗視映像】



2016年6月上旬・18:56〜19:00(日の入り時刻は午後18:58)

山麓の路傍に育つタケニグサの大きな葉の裏面にキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の初期巣を見つけました。
葉裏の主脈に巣柄が固定されています。
創設女王が巣にぶら下がって休んでいました。
このまま夜を過ごすのだと思いますが、典型的な抱卵姿勢ではありませんでした。
もう気温が高いので抱卵は不要なのかな?

赤外線の暗視カメラをそっと近づけると、気配に気づいたキボシアシナガバチ創設女王は翅を半開きにして警戒姿勢になりました。
少なくとも一つの育房内に産卵済みでした。
女王蜂は神経質に育房を点検して回ると、小さな巣盤を抱くように静止しました。
画面が全体的にややピンクっぽいのは残照のように外気温が高い影響です。

すぐ近くの軒下で見つけたキアシナガバチの巣の創設女王(映像公開予定)よりもキボシアシナガバチは警戒心が強い印象を受けました。

後半は補助照明の白色LEDを点灯しました。
それでも女王蜂は私に飛びかかってきたり刺したりというような攻撃性を一切示しませんでした。
アシナガバチのワーカーに比べて創設女王は一般に攻撃性が低いので、観察時にそれほど怖がる必要はありません。
女王蜂は産卵する使命があるので何よりも我が身が大事です。
したがって死物狂いで巣を防衛することはなく、「多少は警戒・威嚇するけれども、いざとなったら逃げるが勝ち(三十六計逃げるに如かず)」という振る舞いをするのです。
例外は、同種の女王蜂同士が初期巣の乗っ取りを企てたり、それに対して自分の巣を守ろうとして激しく戦うことがあります。
本当に危険が迫ると作りかけの巣を見捨てて(逃去)、新たな場所に巣を作り直すことがよくあります。

タケニグサは未だ背が低い株でしたが、これからぐんぐん成長するでしょう。
いつか草刈りされてしまいそうですけど、定点観察に通ってみることにします。

つづく→7日後:タケニグサ葉裏の初期巣で抱卵するキボシアシナガバチ創設女王【暗視映像】


キボシアシナガバチ創設女王@初期巣:タケニグサ葉裏
キボシアシナガバチ創設女王@初期巣:タケニグサ葉裏
キボシアシナガバチ創設女王@初期巣:タケニグサ葉裏・全景

2018/05/02

キャットミントの花で吸蜜ホバリングするホシヒメホウジャク(蛾)



2017年10月上旬・午後17:30〜17:33(日の入り時刻は午後17:19)

日没後、民家の庭に咲いたキャットミントの群落で
ホシヒメホウジャクNeogurelca himachala sangaica )が3頭も訪花していました。
忙しなくホバリング(停空飛翔)しながら花から花へ飛び回っています。
吸蜜中も激しい羽ばたきを止めません。
この花壇をときどき定点観察しているのですけど、明るい昼間に訪花しているホシヒメホウジャクを見たことはありません。
本種は日没を待って薄暗くなると活動を始める習性(好暮性)があるのでしょう。
昼間はどこで寝ているのですかね?

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
薄暮で実際はもっと薄暗かったです。

動画撮影の後は、ストロボを焚いて同定用の写真を撮りました。
(写真に撮れたのは胸背が禿げた1頭だけなので、別種が混じっていた可能性も否定できません。)


ホシヒメホウジャク(蛾)@キャットミント訪花+ホバリング吸蜜
ホシヒメホウジャク(蛾)@キャットミント訪花+ホバリング吸蜜
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2018/04/25

トンネル天井から次々に飛び立つユビナガコウモリ?群塊【暗視映像】



2017年9月中旬・午後17:46〜17:47(日の入り時刻は午後17:43)

野生のコウモリが昼塒として使っているトンネルの探検を続けます。
山形県の某山麓に埋設されたボックスカルバートには浅い水が流れていました。

▼前回の記事
昼塒で休むユビナガコウモリの群塊と鳴き声♪【暗視映像と声紋解析】

トンネルの中ほどで天井からぶら下がる群塊を見つけたものの、鳴き騒いでいるコウモリ群塊の下をくぐって通り過ぎるのは躊躇われました。
寝ていたコウモリの生活をなるべく乱したくなかったからです。
そこで一旦トンネルを引き返し、トンネルの外を回り込んで逆側から入洞し直しました。
群塊を作らず単独で寝ていたコウモリを観察しつつ奥に進むと、天井に最大の群塊を発見しました。(映像はここから)

これは先ほど(約50分前に)トンネルの逆側から観察したのと同じユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus)の群塊なのでしょうか?
だとすれば、このトンネルにコウモリの群塊は一つしか無いことになります。
よく見ると天井で左右2群に別れているように見える点も似ていました。
トンネル内ではGPSも使えないので、チョークで壁や天井に目印を書いておけば良かった、と後で思いました。
(目印としてコンクリートにビニールテープを貼っても、トンネル内の湿気ですぐに剥がれてしまいそうです。)


侵入者(=私)に対する警戒声なのか、群れ内でのコミュニケーション・コール(ソーシャル・コール)なのか分かりませんが、キキキ♪という可聴域の鳴き声が絶え間なく発せられトンネル内に反響しています。(動画再生時に音量ボリュームを上げて下さい。)
私が赤外線の暗視カメラを群塊に向けているだけで、群塊の全個体が次々に飛び去ってしまいました。
コウモリが天井から一斉に飛び降りて軽やかに羽ばたく様子は圧巻でした。

ねぐらから外に出て採餌活動を始める活動時刻(だいたい日没30分後が離塒のピーク)が近づいているため、眠りが浅かったのでしょう。
コウモリを同定するためにストロボを焚いて写真に撮りたいところですが、暗視動画の撮影を優先したために、残念ながら今回はコウモリ群塊の写真はありません。

トンネルの天井にコウモリピット¶のような構造物は設置されていませんでした。
¶(コウモリ保全のために設置される専用の止まり木)
コウモリが群塊を形成していた天井の写真だけでも撮るべきでしたね。
天井はそこだけひどく汚れていますが、コウモリに体外寄生するクモバエの蛹が写っていたかもしれません。

▼関連記事
ユビナガコウモリの体表に寄生するケブカクモバエ?

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


2018/04/23

コウモリの寝起き@トンネル壁面【暗視映像】(名前を教えて)



2017年9月中旬・午後17:33(日の入り時刻は午後17:43)

コウモリが昼塒としているトンネルの探検を続けます。
コンクリート壁面の高い位置にまた1頭のコウモリを発見しました。
ボックスカルバートの面取りされた角のすぐ下に単独でへばりついていて、背中しか見えません。
頭は下向きですが、後脚でぶら下がるだけではなく、壁面を水平に走る割れ目を前脚で掴んでいるようです。
外から飛んで戻って来たコウモリがどうやって塒のトンネルにぶら下がるのか、その様子をいつか観察してみたいものです。

私がそっと近づいてしゃがみ、コウモリの顔を見上げたらようやく覚醒しました。
ブルブル小刻みに震えています。
結局この個体jは飛び立たず、私はその場を離れました。
何というコウモリか、お分かりの方がいらっしゃいましたら、教えて下さい。
山形県の某山麓に埋設されたボックスカルバートには浅い水が流れていました。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。

同じ洞窟やトンネルを複数種のコウモリが塒として利用していることがあるそうです。
しかし、コウモリ観察初心者の私は未だ種類を見分けられません。
自分で同定できれば同じ種類のコウモリを一本の動画にまとめて編集するのですが、1頭ずつ分けて紹介しています。
専門家に種名を教えてもらえる機会があれば随時、書き直します。


2018/04/21

イチョウの街路樹を塒とするハクセキレイ♀♂の群れ(野鳥)



2017年8月中旬・午後18:46〜18:55(日の入り時刻は午後18:30)


▼前回の記事
イチョウ並木に塒入りするハクセキレイの群れ(野鳥)

ほぼ一ヶ月(26日)ぶりの定点観察です。
交通量の多い大通り沿いに植栽されたイチョウ並木にハクセキレイ♂♀(Motacilla alba lugens)が塒入りしていました。
日没後でもう薄暗いため、画質が粗いです。
就塒行動の騒ぎ(塒内での場所取り)は既に収まっていました。
イチョウの青い葉の茂った枝に鈴なりに止まったハクセキレイは、各自おとなしくしています。
背中の黒い♂だけでなく、背中が灰色の♀の姿も見えます。
セグロセキレイも混じっているかと現場では思ったのですが、私の勘違いでした。
この群れは全てハクセキレイでした。

イチョウ並木の中で、前回の観察ではねぐらとして使ったのに今回は一羽もハクセキレイが居ない木がありました。
この群れが毎晩使う集団塒は、特定の木には固執せず、大まかに(臨機応変に)決められているのでしょう。

近くにある某施設の外階段に登るとこのイチョウ並木を見下ろせるので、観察・撮影するには好都合です。
実は車道を挟んで反対側のイチョウや広葉樹(樹種不明)の樹幹にも数羽のハクセキレイが潜んでいたのですが、うまく動画に撮れず割愛。

※ 実際はもっと薄暗いのですが、ハクセキレイの性別を見分けるために動画編集時に自動色調補正を施して明度と彩度を上げています。


ハクセキレイ♀♂群れ@集団塒:イチョウ並木

トンネルの天井から飛んで逃げるコウモリ♂ 【暗視映像】



2017年9月中旬・午後17:49(日の入り時刻は午後17:43)

コウモリが昼塒としているトンネルの探検を続けます。
山形県の某山麓に埋設されたボックスカルバートには浅い水が流れていました。

天井の繋ぎ目に足の爪を引っかけ単独でぶら下がっているコウモリ(種名不詳)をまた見つけました。
私が近づいたらすぐに飛んで逃げてしまいました。
そろそろ昼塒から外に出て採餌活動を始める時刻なので、眠りが浅くなっているのでしょう。
(離塒のピークは日没の30分後)

動画の後半は飛び立つ瞬間を1/10倍速のスローモーションでリプレイ。
この個体Eは、翼を広げて飛び立つ間際に下腹部に陰茎が見えたので♂ですね。

複数種のコウモリが同じトンネルを塒として利用している可能性があるそうです。
しかし、コウモリ観察初心者の私は未だ種類を見分けられません。
自分で同定できれば同じ種類のコウモリを一本の動画にまとめて編集するのですが、1頭ずつ分けて紹介しています。
専門家に種名を教えてもらえる機会があれば随時、書き直します。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


2018/04/18

ユビナガコウモリの体表に寄生するケブカクモバエ?

2017年9月中旬・午後16:55頃(日の入り時刻は午後17:43)


▼前回の記事
昼塒で休むコウモリの群塊と鳴き声♪【暗視映像】(名前を教えて)

野生コウモリが昼塒として利用しているトンネルの天井で、コウモリ(種名不詳)が群塊を形成して休んでいました。
ストロボを焚いて撮った写真をチェックしてみると、何枚かに奇妙な物が写っていました。


コウモリ2頭が寄生されている
写真の中央部に注目

気になる写真を拡大してみると、3頭のコウモリの体表(毛皮)にオレンジ色(茶褐色)の昆虫が1匹ずつ(計3匹)がっしりと取り付いています。
無翅なのでクモと間違いそうになりますが、脚が6本しか無いので、れっきとした昆虫です。
クモバエ科という特殊な寄生バエの一種でしょう。
コウモリ専門に外部寄生して吸血するらしく、そのために翅は退化したのだそうです。
(コウモリバエ科という有翅の外部寄生虫も別に知られているらしい。)
本で読んで存在は知っていましたが寄生率は低いらしく、私のフィールドで実際に出会えてとても感動しました。
平凡社『日本動物大百科9昆虫II』によれば、

 クモバエ科は世界各地に分布し、コウモリバエと同様にコウモリの体表にのみ寄生し、吸血する。体は扁平で、翅はなく、頭部は胸背にある溝のなかに後ろ向きにたたみ込まれている。あしは非常に長く、爪は強大である。複眼は退化している。(中略)日本では10種が記録されているが、これも調査が進めばさらに多くの種が見いだされると思われる。 (p150より引用)


ちなみに、日本に吸血性コウモリは生息していません。
日本のコウモリは寄生虫から一方的に吸血される(可哀想な)宿主なのです。

また、写真でトンネル天井を注意深く見直すと、コウモリの群塊がぶら下がっている塒の周囲だけに黒くて丸い小さな物体が多数写っていました。


現場では照明の使用を極力控えたので、全く見過ごしていました。(気づいたとしても、コウモリの糞が天井に付着したのかも?と思ったことでしょう。)
おそらく、これはクモバエの蛹でしょう。

【参考1】 船越公威. "ユビナガコウモリに外部寄生するケブカクモバエの生態学的研究: 特に生活史からみた宿主への連合性に関して." 日本生態学会誌 27.2 (1977): 125-140. (ありがたいことにPDFファイルが無料で公開されています。ケブカクモバエ成虫および蛹の細密画が掲載されています。)

【参考2】 動物行動学エッセイ本のシリーズで有名な小林朋道先生の公式ブログ『ほっと行動学』より「山奥の洞窟であったほんとうの話」 (クモバエの蛹の写真あり)

次に入洞する機会があれば、改めてトンネル天井の写真を撮り直し、この蛹を採集して飼育してみるつもりです。

【追記】1年後に写真を撮りました。
野生コウモリを無許可で採集したり飼育するのは法律で禁じられていますが、寄生バエなら誰からも怒られないでしょう。
クモバエは天然記念物に指定されていませんし、レッドデータに登録された絶滅危惧種でもありません。
クモバエ類は宿主特異性が高いそうなので※、飼育下で成虫を羽化させることでクモバエをしっかり同定できれば、宿主であるコウモリの名前も分かりそうです。

※ 【参考】:小林朋道「ユビナガコウモリに外部寄生する ケブカクモバエの宿主識別行動」(PDFファイルが無料で公開されています)
Natural Environmental Science Research Vol.28, 1- 4 (2015)
洞窟の塒では複数種のコウモリが混群(混棲群塊)を形成している場合もあるのだそうです。
コウモリ観察歴の浅い私には未だコウモリの種類を外見から自信を持って識別できないのですが、もし写真同定できる専門家がご覧になりましたら、ぜひ教えて下さい。
今のところ、ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus)とそれに外部寄生するケブカクモバエPenicillidia jenynsii)のセットではないかと素人ながら勝手に予想しています。
ネット上には真っ白なケブカクモバエの写真も見つかりますが()、これは蛹から羽化した直後と思われます。
羽化後に宿主のコウモリから吸血すると黄褐色に変化するらしい。(参考:上記の船越公威によるPDF文献)

コウモリはねぐらで多数の個体が集まって群塊を形成する種類もいれば、単独あるいは散在した粗群で寝るのが好きな種類もいるらしい。
それぞれの習性(寝方)に一長一短があり、群塊を形成するコウモリには寄生虫にとりつかれ易いというデメリット(コスト)があります。

天井からぶら下がりながら痒そうに毛繕いしていたコウモリは、吸血性寄生虫を取り除こうとしていたのかもしれません。
クモバエの死亡率は毛繕い中の宿主による捕食によって高くなるらしい。

余談ですが、洞窟内に生息するコウモリの糞・体毛、洞窟内の生物の死骸が大量に堆積して固まったものをバット・グアノと呼びます。
このトンネルには水が流れているので、塒の下は天然の水洗トイレになっています。
グアノにおける生態系(食物連鎖)も興味深いのですが、残念ながらここでは観察できません。


昼塒で休むユビナガコウモリの群塊と鳴き声♪【暗視映像と声紋解析】



2017年9月中旬・午後16:55頃(日の入り時刻は午後17:43)

コウモリが昼塒としているトンネルの探検を続けます。
山麓に埋設されたボックスカルバート@山形県には水が浅く流れていました。
入口近くでは一匹ずつバラバラに天井や壁からぶら下がっていました。
群れで互いに身を寄せ合わせたくても、コンクリートの天井からぶら下がるための足掛かりとなる裂け目が足りないのだろうか?と想像したりしました。
コウモリ保全のためのコウモリピットが天井に設置されているようには見えません。(†追記参照)


しかし真っ暗なトンネルの中ほどまで進むと、ようやくコウモリの群塊を見つけました。
侵入者に驚いて飛び回っている個体もいます。

天井の中央部から数十頭のコウモリがぶら下がっています。
私がそっと近づくとコウモリ達は覚醒しており、毛繕いしている個体もいました。
キュキュキュ♪、キキキキ♪、もしくはキャキャキャ♪という鳴き声をひっきり無しに発しています。
昼塒に侵入した私に対する警戒声なのでしょう。
トンネル内でずっと反響していた謎の鳴き声の正体がようやく分かりました。
コウモリの鳴き声といえば超音波なのに、どうして私の耳に聞こえるのか不思議でした。
音響学について私は勉強不足なのですが、まさか超音波が閉鎖空間で反響すると周波数が下がってヒトの耳に聞こえるようになるのですかね? (そんな馬鹿な)
コウモリ幼獣の鳴き声は声変わりしていない可聴域なのか?と無知な私は妄想したりしました。
しかしコウモリの子育てが終わる時期を見計らって入洞したので、はっきりと幼獣と分かるコウモリの姿は見つかりませんでした。(無事に乳離れした?)

大沢夕志、大沢啓子『身近で観察するコウモリの世界―町を飛ぶ不思議な野生動物 (子供の科学★サイエンスブックス)』という本によると、コウモリが超音波を発するのは飛びながら獲物を捕るためのエコロケーションのためだけではないそうです。

ほかの動物と同じように、コウモリどうしのおしゃべり、親子で確認し合ったり、おこったり、プロポーズしたり、にも使う。
この時は、わりと低い声を使うので、例えばアブラコウモリでも人間の耳に聞こえることがある。 (p71より引用)

『コウモリ識別ハンドブック』の解説編にもう少し専門的なことが書いてありました、


 コウモリが発する音声は、障害物や餌の認識以外にも利用される。その中でも重要な役割が個体同士のコミュニケーションで、その際に発せられる声はソーシャル・コールコミュニケーション・コールといわれる。日本産のコウモリでは研究がほとんど進んでいないが、これらの音声は、餌を探索する際のものとは異なるパルスタイプを持ち、バリエーションもさまざまである。アブラコウモリの場合、少なくとも9タイプのコミュニケーション・コールを発し、中にはわれわれの可聴域の超音波の声も確認されている。 (p79より引用)

最後に赤色LED懐中電灯を点灯し、ハンディカムの暗視モードではなく通常のHD動画で撮影してみました。
(赤色の照明はコウモリの目にはあまり見えないとされています。)


こちらのカメラの方が内蔵マイクが高音質のようで、コウモリの鳴き声が明瞭に録音されていました。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



赤色LEDで照らしながら撮った短い(6秒間)動画から音声をWAVファイルに抽出し、スペクトログラムを描いてみました。
カメラの仕様により16kHz以上の高音(および超音波)は録音されていませんが、可聴域に明らかに声紋が認められました。

トンネル内の気温を測るべきでしたね。
おそらく外気温よりも安定していて湿度も高いはずです。


昼塒で寝ていた野生コウモリをなるべく驚かさないように、ここまでかなり気を使って探検してきました。(赤外線の暗視カメラや赤色LED懐中電灯の使用など)
ここで初めてストロボを焚いて群塊の写真を撮ってみました。
私には未だコウモリの種類を自信を持って見分けられないのですが、写真同定できる方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えて下さい。
ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus)ですかね? (あまり自信がありません)
洞窟の塒では複数種のコウモリが混群(混棲群塊)を形成している場合もあるのだそうです。

鳴き騒いでいるコウモリの群塊の下をくぐってトンネルをそのまま通り抜けるのは躊躇われたため、何枚か必要最低限の写真を撮ってからトンネルを引き返すことにしました。


群塊の奥には離れ離れでぶら下がる個体も写っている。

コウモリ群塊の写真を拡大すると、とても興味深いものが写っていました。

つづく→ユビナガコウモリの体表に寄生するクモバエの一種 (名前を教えて)



†【追記】
谷本雄治『コウモリたちのひっこし大計画 (地球ふしぎはっけんシリーズ)』によると、

山形県のトンネル式用水路では、山をくり抜いただけの穴がコンクリート製に変わり、ユビナガコウモリやモモジロコウモリがぶら下がれない恐れが出てきた。
 向山さんはそこで、モモジロコウモリのために50cm四方のバットボックスを考えた。(中略)ユビナガコウモリ用にはすきまのない、浅い箱型のバットボックスを用意した。うれしいことに、約30匹のモモジロコウモリがすぐさま利用を始めた。
(p77-78より引用)

国交省のサイトで公開している『計画段階を含むコウモリ類の保全対策事例』というPDF文書に事例8「コウモリピットによるコウモリの保全の試み」と題した写真を見つけました。
山形県の導水路内に設置され、保全対象種はユビナガコウモリとモモジロコウモリ。




↑【おまけの映像】
“How artificial intelligence is helping scientists talk to animals - BBC News”

コウモリが超音波で鳴き交わす音声データとそれに伴う行動の映像を大量に機械学習させて、AIに鳴き声の意味を翻訳させる研究が進んでいるそうです。

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