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2015/04/29

ヤマドリ♂(野鳥)の頭骨標本作り

2014年10月中旬

▼前回の記事 
カーブミラーに激突したヤマドリ♂(野鳥)の断末魔
死んだヤマドリ♂(野鳥)に集まるミドリキンバエ



山道のカーブミラーに激突して死んだヤマドリ♂(Syrmaticus soemmerringii)を断頭して持ち帰り、頭骨標本作りに挑戦しました。
残りの死骸は山中に放置したものの、翌日には(おそらくタヌキまたはハクビシン、アナグマによって)丸ごと持ち去られてしまいました。
屍肉食性昆虫によって生物分解される様子を定点観察するという目論見は果たせなくなり、残念無念…。
やはり頑丈な檻などを用意しないと無理ですね。

昨年はニホンザルの頭骨標本を作りましたが、鳥類は初めてです。
今思うと、ぶっつけ本番でやらず同じキジ科であるニワトリの頭を肉屋から買ってきて骨取りを練習しておくべきでした。
以下の手順は我流です。

まずは頭部の羽根を毟ります。
箸の先を突き立てて擦ると簡単に羽根を取り除くことができました。



側面に耳の穴が現れました。
鳥はミミズク類などを除いて外耳がありません。(ヒトの耳のように耳殻が無い。)



興味深いことに、食道内に草の種子が緑色のまま4個残されていました。
飛び立つ寸前まで道端の草むらで採食中だったのでしょうか。
ひっつき虫」の一種なので、羽根に付着した実を羽繕いのついでに飲み込んだのかもしれません。
せっかく新鮮な死骸が手に入ったのですから、やはり解剖して胃内容物を調べるべきでしたね。
手元の図鑑『ひっつき虫観察便利帳』で調べると、ヌスビトハギの実(節果)と判明。


俗に「ひっつき虫」と呼ばれる植物の種子散布は、動物散布の中でも付着型散布と呼ばれる方法です。

鳥獣に付着して移動するのは良いとして、動物から離れて地面に落ちなければ発芽することはできないはずです。
一体どうやって「ひっつき虫」の種子は動物の毛皮(または羽毛、衣服)から離脱するのだろう?といつも不思議に思っていました。
羽繕いや毛繕いで落とされるのを待つか、動物が死んで倒れるまでひたすら待つほかありません。
もし仮に今回のヌスビトハギの実がヤマドリの羽毛に付着した後に羽繕いで食べられたのだとすると、付着型散布から被食型散布に切り替わったことになり、興味深く思いました。
しかし、ヌスビトハギの実は液果ではないので、食べられたら最後、種子も消化されてしまうのかな?(未消化のまま糞として排泄されないと被食型種子散布にはなりません。)



もし次回、野鳥の胃内容物を調べるときのために、やり方を書いておきます。

 事故死したヤマシギを解剖し、胃の内容物を調べてみる。胃袋をシャーレに取り出し、ハサミで切り開く。内容物は最初、塊状で何が入っているかがわかりづらい。そこでシャーレにアルコールを少量注ぎ、内容物をほぐし、バラバラになった内容物を紙の上などに並べていく。(盛口満『生き物の描き方』p131-133より引用)


砂嚢(筋胃)を切り開いて胃石を調べるのも面白そうです。(鳥の食性によってどう違うか?)



羽根を毟った後は、肉取りです。
何度も熱湯をかけては霜降り肉になった所を細い箸や虫ピンの先でちまちまと取り除きました。



ようやく頭骨が現れました。
カーブミラーに激突死したヤマドリ♂の頭骨は意外にも折れたりひび割れたりしていませんでした。
首(頚骨)や脳に損傷を受けたのでしょうか?

鳥は魚や恐竜と同じく眼球を支える薄い骨(強膜骨環)がある筈ですが、きれいに残す術を知らない私は、眼球を丸ごと摘出しました。





組織を粗取りした後は頭部を水煮します。
小鍋をとろ火にかけてコトコト煮ました。
脳が未だ残っているためか、やや腐敗臭がしました。
途中から皿洗い用の洗剤(界面活性剤)を加えました。
タンパク質を変性させ脂質を溶かす以外に、爽やかな香料で悪臭が和らぐ効果もあります。

煮た後は素手の指先で(爪を使って)細かな肉を取り除きました。
まだるっこしいので、ゴム手袋は脱ぎました。
(煮沸消毒した後は素手で触れても大丈夫だろうと判断。)

頸骨を外した穴から頭骨の中に綿棒を突っ込んで、水洗いしながら脳を掻き出しました。
脳は煮る前に掻爬すべきだったかもしれません。
ヤマドリの頭骨は場所によって非常に薄く(透けて見えるほど)繊細であることに気づきました。
脳の掻爬に箸とか金属製の固い道具を使うと、うっかり頭骨を突き破ってしまいそうです。
上下の嘴に被さっているゴムのようなキャップ(表皮?)をひっこ抜いて外しました。
顎の辺りの細い骨の関節が外れてしまいました。(復元する自信がない…。)




舌の肉を削ぎ取ると、尖った骨が現れました。



頭骨にへばり付いて未だ取り切れていない細かな組織を、どう処理するか問題です。
色々な方法があるみたいですけど、今回は薬品で溶かすことにしました。
漂白剤、界面活性剤およびタンパク分解酵素を配合した入れ歯洗浄剤を買ってきました。
中性の類似商品が多いなか、弱アルカリ性の部分入れ歯用ポリデント錠を選びました。


説明書を読んで頭骨を40℃のぬるま湯300ccに浸し、錠剤2個を入れるとすぐにシュワシュワと発泡が始まりました。
爽やかなミントの香りが漂います。
頭骨が水面から少し浮いてしまうのですが、構わずアルミ箔で覆い、浸け置きしました。



ポリデント処理は一晩だけに留めるつもりが、その後急に忙しくなり、4日間も放置してしまいました。
骨を水洗いしながら歯ブラシで軽く擦ります。
長く処理しすぎて、顎関節?が溶け骨が外れてしまいました。
骨格の構造(解剖学)に疎い素人には修復不可能です…。
こんなことなら薬品でタンパク質を溶かすのではなく、ただの水に漬けてバクテリアの力でゆっくり腐らせた方が素人向きだったかもしれません。
眼球を支える膜状の骨(強膜骨環)が残りました。
それにしても、鳥類の頭骨がこれほど華奢で繊細だとは知りませんでした。
空を飛ぶために軽量化を極限まで進めた結果なのでしょう。
前の年にやったニホンザル頭骨の骨取りに比べて難易度が格段に高かったです。

残念ながら今回は失敗しましたけど、何事も経験です。
小動物ほど骨取りが難しいことを実感しました。
数をこなして練習するしかありません。








2015/01/22

チャイロスズメバチの巣を安全に撮影するには?



2014年9月下旬

斜面に営巣したチャイロスズメバチの定点観察#3

▼前回の記事
斜面の巣に出入りするチャイロスズメバチ♀の羽ばたき【ハイスピード動画】

山中で見つけたチャイロスズメバチVespa dybowskii)営巣地の環境は、急な南西斜面のスギ植林地です。
スギは未だ若く、植林後の手入れがされていないためミズナラやコナラなどの灌木が密生して藪になっています。
林道から2〜3m下の崖の途中に穴を掘って営巣しているようです。
斜面の上から見下ろしても全く巣は見えません。
前回は斜面の横から近づこうとするも、警戒した蜂にまとわりつかれ危なくて撮影どころではありませんでした。

高価な防護服を買わなくても安全に巣を撮影する方法は無いものか、一週間かけて作戦をあれこれ考えました。
なるべく手持ちの機材を組み合わせて工夫します。

  1. ビデオカメラに一脚を取り付けて林道から巣口に差し出せば映像が撮れるか?
  2. 釣り竿でカメラを吊り下げれば映像が撮れるか?(操作が難しそう)
  3. カメラ搭載のラジコンヘリ(ドローン)を巣まで飛ばす?(茂みが邪魔で上手く飛ばせないかも)
  4. 蜂が飛ばない夜なら安全に近づけるか?(赤外線の暗視カメラで撮影)

とりあえず作戦其壱を決行してみます。
日本のスズメバチ類は巣の近くで動く黒い物体に対して攻撃性を示すので、刺激しないようにまず黒い一脚に白いビニール袋を巻いて覆いました。
次にビデオカメラの黒い部分(液晶画面裏側とハンドグリップ)や一脚のクイックシューにも白いビニールテープを貼ってマスキングしました。
これはかなり奏功しました。
どうせならカメラ全体を白いビニール袋で包み、レンズ部分だけ丸い窓を開ければ準備が簡単だったかもしれません。
(私の場合はあくまでも撮影が目的なのですが、巣の様子を「見る」だけなら一脚に鏡を取り付けても良かったかもしれません。)

蜂が素早く一脚を伝って来て手を刺される危険性が怖いので、手袋は白いゴム手袋と軍手を二重に装着しました。
手首の隙間から肌が露出しないように注意します。(ビニールテープを手首に巻いて密着すべき)
安全第一で、いざとなれば咄嗟に機材を投げ捨てる覚悟を決めました。
他の服装についてもスズメバチの本を参考に対策しました。
フルフェイスのヘルメットは大袈裟かもしれませんが、必ず頭髪を覆い隠さないといけません。
暑くても我慢、我慢。



一脚を目一杯伸ばし、林道からビデオカメラを巣まで慎重に下ろして巣のありそうな辺りの崖を山勘で撮ってみます。
カメラをゆっくり引き上げ、撮れた映像を直後に確認。
撮影アングルは試行錯誤するしかありません。
映像の天地が逆転しているので難しいです…。
GoProに代表される今時のアクションカメラがあれば、携帯電話と連動したライブプレビュー機能も搭載されているみたいなので、撮影中の画角を確認するのも容易でしょう。
無い物ねだりしても仕方がないので、手持ちの機材で頑張ります。

かなり緊張したものの、案ずるより産むが易しでなんとか無事に上手く行きました。
やはり撮影を繰り返すとワーカー♀が益々攻撃的になりました。
引き上げるビデオカメラにしがみつく個体もいました。
機材に噛み付くほどではないものの、油断できません。
蜂を手荒に振り落としたりせずに、巣から離れ偵察機材を放っておけば蜂は自然に離れてくれます。

さて苦心して偵察した結果、意外に小さな巣と判明。
崖の木の根の下に営巣しているようです。
地中ではなく外被が剥き出しになっているのが不思議でした。
残念ながら巣はかなり壊されているようで、巣盤も剥き出しになっています。

この撮影法ではもどかしいので意を決して巣に近づき、直接撮影してみることにしました。

つづく→シリーズ#4:破壊された巣に残るチャイロスズメバチ♀



2014/10/26

ムモントックリバチ♀の集団採土場(蜂を個体標識してみる)



2014年8月上旬


▼前回の記事
採土に通うオオフタオビドロバチ♀を個体標識してみる

里山の山頂広場で巣材集めに通って来るオオフタオビドロバチを観察していると、なぜか相前後して小さ目で別種のドロバチも採土に現れました。
ムモントックリバチ♀(Eumenes rubronotatus rubronotatus)です。
採土行動には種による違いは取り立ててありません。
地面を大顎で削り取りながら吐き戻した水とこねて泥玉を作り、泥巣を作る材料とするのです。
本種の巣材集めを撮影するだけなら過去に散々やってきたので、今回は目先の違うことをやってみます。

▼関連記事
ムモントックリバチ♀の採土
ムモントックリバチの巣材堀りと定位飛行
採土に通っている蜂は何匹なのか知るために、個体識別のマーキングを施すことにしました。
わざわざ捕獲して麻酔するのも面倒だし母蜂の体にも負担(ストレス)になるので、生きた蜂に直接マーキングします。
穴掘りで夢中になっている蜂に背後から忍び寄り、腹背に白の油性ペンでチョンと標識します。
このぐらいのことでは狩蜂に刺される危険がないことが、これまでの経験で分かっています。(それでも毒針が怖いと思う人は一時捕獲した蜂を炭酸ガスや低温で麻酔することをお勧めします。)
腹背に白点を打つと蜂は驚いて飛び立ち、そのまま泥玉を持って帰巣しました。



2回目に飛来した蜂は顔をこちらに向けて採土するため、腹背のマーキングがよく見えません。

本種の体型は腹部が弓型に曲がっているため、腹背のマーキングが正面からは見えにくいのです。
胸背や翅にマーキングした方が良かったかもしれません。
どうやら無印の別個体がいるようです。
アリに邪魔された蜂が驚いて飛び立ちました。

3回目に飛来した蜂は腹背が白点でマーキングされていました。
採土中に近づいてきたクロアリ(種名不詳)を嫌って飛び立ち、定位飛行してから帰巣。

4回目に飛来した蜂は無印の個体でした。
この蜂にも白以外の色で個体標識すればよかったですね。
同時並行でオオフタオビドロバチの撮影も行っていたので、余力がありませんでした。

5回目に飛来した蜂は、採土終了後の定位飛行でようやく白点を確認できました。
(実は三脚カメラで撮りながらマーキングの有無を見るため、蜂に近づいて確認しています。)

6回目および7回目に飛来した個体は残念ながらマーキングを確認できませんでした。

8回目に飛来したのは白点でマーキングされた個体でした。(このときはハイスピード動画で撮ったので、別の記事として公開予定。)

撮影時刻を映像に記録しておきましたが、私がよそ見をしていたり撮り損ねがあるかもしれません。
観察しているとアリに邪魔されて蜂が採土作業の中断を余儀なくされることが頻発しています。
毎回ムモントックリバチ♀は泥玉を抱えて飛び立つと山桜の梢に向かって行きました。
途中で見失ってしまい、残念ながら巣の位置を突き止められませんでした。
超小型の発信機を蜂に取り付けられたら追跡が捗るのになぁ…と夢想してみる。

個体識別してみた結果、ムモントックリバチ♀は少なくとも2匹が代わる代わる巣材を集めに通ってきていることが判明しました。
以前、エントツドロバチでも同様のマーキング実験によって集団採土所の存在を明らかにしています。

▼関連記事
エントツドロバチ♀の集団採土場(蜂を個体標識してみる)

ムモントックリバチの場合はマーキングする体の位置やインクの色に改善の余地がありそうです。
白点によるマーキングなのか、無印の蜂の体が黒光りしているだけなのか、咄嗟に見分けるのがかなり難しかったです。
他人に見せても説得力のある映像とは言えないかもしれません。
胸部もしくは、思い切って左右どちらかの翅にマーキングした方が紛らわしくなかったでしょう。
翅だと付着したインクを蜂が嫌がったり飛行に支障を来すのではないかと躊躇してしまいました。

▼つづく
採土をアリに邪魔されたムモントックリバチ♀の飛翔【ハイスピード動画】

無印の個体(腹背が黒光り)
マーキング個体

2014/10/23

採土に通うオオフタオビドロバチ♀を個体標識してみる



2014年8月上旬

▼前回の記事
巣材を採土するオオフタオビドロバチ♀

前回の撮影から12日後、里山の山頂広場に再び登ってみると、巣材の泥玉をせっせと集めるオオフタオビドロバチ♀(Anterhynchium flavomarginatum)とまた出会えました。
同一個体の♀なのでしょうか?

採土に通っている蜂は何匹なのか知るために、個体識別のマーキングを施すことにしました。
わざわざ捕獲して麻酔するのも面倒だし蜂の体にも負担になるので、穴掘り中の蜂の腹背に直接白の油性ペンで標識します。
肝心のマーキングする瞬間は手元で蜂が隠れてしまいました。
ペン先で触れられた蜂は驚いて飛び立つも、すぐに採土を再開しました。
このぐらいでは狩蜂に刺される危険がないことが経験で私には分かっています。(それでも怖いと思う人は蜂を麻酔することをお勧めします。)
腹背の白点がよく目立ちます。



標識後も同一個体の蜂が1匹だけ定期的に飛来し、採土を繰り返していました。
撮影時刻も映像に記録しておきましたが、私がよそ見をしていたり撮り損ねがあるかもしれません。

一個の泥玉を作るまで何度も場所を変えながら採土しています。
特にこだわりの採土場所が無いのは前回(12日前)の観察と同じでした。
クロアリ(種名不詳)に邪魔されたり追い立てられたりして飛び去ることもありました。

採土が済んで飛び立つと毎回小さく旋回して場所を記憶してから(定位飛行)帰巣します。
飛び去る蜂を追っても毎回見失ってしまい、巣の位置を突き止められませんでした。
採土中に先回りして林縁で待ち伏せしてみたのですが、一人では難しいです。
超小型の発信機を蜂に取り付けられたら捗るのになぁ…と夢想してみる。


標識前
マーキング後

2014/06/20

ヤマトゴキブリの飼育容器にはバターを塗ろう!(成虫♂)



2014年5月下旬

ゴキブリを飼育するなら脱走防止策をしっかり講じる必要があります。
ヤマトゴキブリ♂成虫(Periplaneta japonica)を用いてバター・トラップの原理および作り方を実演します。

▼前回の記事はこちら
ヤマトゴキブリの飼育容器にはバターを塗れ!(終齢幼虫)

ヤマトゴキブリはプラスチック容器の壁面を軽々と登ることができます。
壁面で下向きにも止まれます。
当然、この状態で蓋を開ければ脱出されてしまいます。
実際にこの♂は別の飼育容器の蓋まで登ってスリット状の換気口の細い隙間から脱獄した強者で、再捕獲したところです。
(スリット状の換気口にはセロテープを張ってしっかり塞ぎました。)

さて、バター・トラップの制作です。
プラスチック容器の縁の内側にバターを念入りに塗りつけましょう。
この容器にヤマトゴキブリ♂を戻してやると、バターで爪先が滑って壁面をよじ登れなくなります。
滑落してひっくり返ったゴキブリは諦めて、バターで汚れた触角を掃除し始めました。

こんな簡単な対策をするだけで、蓋を開けた状態で観察・撮影しても脱走の恐れがなくなりました。
ただしバターが古くなると効果が薄れるので、ときどき塗り直す必要があります。
容器内の視認性が悪くなるのは仕方がありません。
ただし成虫の♂は長い翅があるので、飛んで逃げる恐れがあります。
蓋を開けるときは目を離さないようにします。
ヤマトゴキブリは半野生でおっとりした性格(動きが遅い)なので、一度しか♂が飛ぶ姿を見たことがありません。

ちなみにバター・トラップはゴキブリを生け捕りにするための古典的な罠です。
ゴキブリの好む餌を容器内に入れておけば捕獲できるそうですが、私は試していません。
粘着式のゴキブリ・ホイホイが開発されてからは廃れてしまったそうです。

※ バターの代わりにマーガリンでも良いらしい。(古出俊子『ゴキブリを調べる』p12より)


2014/06/09

ヤマトゴキブリの飼育容器にはバターを塗れ!(終齢幼虫)



2014年5月中旬

台所で新たにヤマトゴキブリPeriplaneta japonica)終齢幼虫♀bを見つけて捕獲。
3匹目は成虫ペアとは隔離して飼育してみます。
以前とは違って、幼虫もプラスチックの垂直壁面を軽々と登りました。
気温が上がり活動性が増したせいでしょうか。
翅を持たない幼虫の間は飛んで逃げる恐れはないものの、飼育するなら脱走防止策をしっかり講じる必要があります。

飼育容器の内側の縁にバターを塗ると、ゴキブリは脚が滑ってよじ登れなくなります。
これはバター・トラップと呼ばれる古典的なゴキブリ捕獲法の応用です。
こんなかんたんな対策をするだけで、蓋を開けっ放しの状態で観察・撮影しても脱走の恐れがなくなりました。
ただしバターが古くなると効果が薄れるので、塗り直す必要があります。
容器内の視認性が悪くなるのは仕方がありません。
登るのを諦めたゴキブリは足先に付いたバターを舐めています。
動物性脂質の補給にもなり、一石二鳥かもしれません。

ちなみに、この個体は後に羽化して♀と判明。
バターを塗る前後でゴキブリの登攀能力を比べる映像を撮るべきでしたね。
後にヤマトゴキブリの成虫♂を用いてバタートラップの原理および作り方の映像を撮り直しました。

※ バターの代わりにマーガリンでも良いらしい。(『ゴキブリを調べる』p12より)


▼関連記事
ヤマトゴキブリの飼育容器にはバターを塗ろう!(成虫♂)



2014/05/11

魚露目8号レンズのテスト:オオハエトリ♂(蜘蛛)



2014年4月中旬

山中の建物の外壁で見つけたオオハエトリ♂(Marpissa milleri)を魚露目レンズで接写してみました。
撮りながら指で触れると歩き出し、しつこくやると跳んで逃げました。

うーむ、使いこなせるかな〜、これ?
よく考えてみたら、小さな虫と同時に周囲の状況を写し込めるのが魚眼レンズの利点なのに背景の抜けが全くない白壁を撮っても仕方がないですね…。
この時期の里山は未だ雪が多少残っており、じっくり撮影モデルになってくれる虫が少ないのです。


2014/05/09

魚露目8号レンズのテスト:カワゲラの仲間?



2014年4月上旬

魚露目8号という名前の魚眼レンズを買ってみたので、カメラ(Panasonic LUMIX DMC-FZ200)に取り付けて試し撮りしてみました。
被写界深度が深いので小さな虫と同時に背景を写し込める、という触れ込みです。

山裾で残雪の上を活発に歩き回るカワゲラの一種?を接写してみました。
有翅なので、セッケイカワゲラではありません。
映像後半に登場するガードレールに居たのは別個体です。
飛び立つ瞬間を撮り損ねてしまいました。

カメラの目線を雪面まで下げて撮ると、確かに魚眼効果を生かして遠くの背景まで写せました。
ただし、従来のマクロレンズと比べて画質が落ちることと色の滲みが気になります。
カメラの設定をどこかいじったら多少は改善されるのかな?
レンズの着脱が面倒臭いのもネックです。(通常の使い方からレンズフィルターごと外さないといけない)
もっと練習しないと、使い道というか適した被写体がよく分かりません…。
例えば羽ばたいて飛び去る虫のハイスピード動画に使えるかな?と期待しています。




2014/04/27

ニホンザル頭骨の標本作り

2013年10月上旬

ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#22

定点観察に通っていた或る日、害獣駆除の檻が撤去されて猿の死骸2頭が無造作に捨てられていました。
これまで死骸は頑丈な檻の中で守られていましたが、このまま外に放置すると死骸を他の鳥獣に喰い千切られたり持ち去られてしまいます。

もちろん自然界の分解プロセスとしては、むしろそれが普通です。

死んだニホンザルが分解される過程を最後の最後まで見届けられなかったのは残念です。
宮崎学、小原真史『森の探偵―無人カメラがとらえた日本の自然』を読むと、
以前、サルの死体を撮っていたことがあるのですが、死体があった場所には、あとからその形でキノコが生えてきました。 (p156より引用)



貴重なサンプルが四散する前に急遽、1頭の死骸Rから頭部を採集して頭骨の標本を作ることにしました。
初心者がいきなり全身骨格標本作りに挑むのは荷が重いので、頭骨に的を絞ります。

骨取りの手順は細かい点でいろんな流儀があるようですけど、一番簡単そうな「頭骨標本の簡単なつくり方」(『頭骨コレクション:骨が語る動物の暮らし』p197〜
)を参考にしました。

遺体の頸骨は既に折れていたので、首の周りの毛皮をハサミで切るだけで頭部を切り離すことができました(断頭)。
屍肉食性昆虫による生物分解が不完全ですけど、残りの作業は自分でやるしかありません。
この時点で脳は無くなっていました。
左右の顔の状態が異なるのは、うつ伏せに死んだ際に左頬を地面に接地していたからです。




次にどうして良いか分からず、ハサミで毛を刈ったりしました。
この作業は不要かもしれません。



首元から顔の皮を剥ぎ始めました。
干からびた皮をハサミやカッターで切ったり力任せに剥いだりしました。
下手に力を入れ過ぎると骨を傷つけたり割ったりしてしまいそうな気がして、おっかなびっくり作業しました。
下顎が外れたときは一瞬焦りました。
骨に癒着した頭皮がどうしても取り切れず、頭頂部にかなり残ってしまいました。
気にしなくてもよいとのことで、構わず次の工程に進みます。

当然ながらゴム手袋着用で、死骸には素手で触れないように注意します。


15cm定規を並べる

2013年10月中旬

100円ショップで買ってきた小鍋(ミルクパン)で頭骨を水から煮ました。
割箸で頭骨の上下を裏返しながら弱火で5分ずつ茹でました。
沸騰すると煮汁が真っ黒になり異臭が出るので、皆さんは近所迷惑にならないようにカセットコンロ等を使い野外でやることをお勧めします。
残った頭皮のタンパク質が加熱されたことによりゴムのようにぎゅっと縮み、引っ張ったら頭骨から簡単に剥がれました。
これは気持ちよい瞬間でした。
それでも未だ取り切れていない組織が頭骨のあちこちにへばり付いて残っています。


全体が浸るように途中でひっくり返す。
頭皮を完全に剥いだ後
頭骨および上顎の下面

次に頭骨を新しい水に浸し、残った組織を時間をかけてじっくり腐らせます。
容器は適当に、1Lのペットボトルを切って再利用しました。
臭いが漏れないようビニール袋で何重にも包んでから、室温で放置しました。
秋から春にかけて、水の交換なしにゆっくり腐らせました。

腐ってきたからと水を取り替えてはいけない。腐敗が遅れる。(中略)腐敗するのに、夏場だと1ヶ月くらい、秋から春までだと3〜4ヶ月くらいかかる。(同書p199より)




2014年4月中旬

ちょうど6ヶ月後、汚れた水を捨て、頭骨を歯ブラシで擦りながら水洗いし、乾かしました。
このとき歯や骨の破片を排水口に流してしまわないよう、ザルで漉すと良いそうです。



乾燥させても骨に死臭が微かに残っていますけど、気にならないレベルです。

愛着が勝り、この匂いにはもう慣れてしまいました…。

骨髄から滲みだした脂が骨に沈着して全体が褐色に汚れて見えますけど、自然な風合いで満足。
漂白処理すると骨が脆くなるらしいので、初めての今回は何も施していません。
骨を煮る鍋(¥105)を買った以外は特別な薬品(タンパク質分解酵素など)にお金を一切かけていません。

上顎から抜け落ちてしまった2本の歯(右の第2切歯および犬歯)を歯槽に入れ直し、木工用ボンドで接着しました。
頭骨を持って振るとカラカラと音が鳴るのは、他の歯もグラグラ緩んでいるからです。
歯を紛失したら困るので、一本ずつ引き抜いてから同様に接着剤で固定し直します。
虫歯は無さそうです。




次に下顎を調べると、右側の第一切歯が乳歯から永久歯に生え変わり中でした。
すぐ隣にある左側の第一切歯もグラグラ緩んでいたので抜き取ると、奥に永久歯が萌出しかけていました。
これはまさに右側の状態と同じでした(写真なし)。
抜き取った乳歯は木工用ボンドで接着し直します。
当たり前ですけど、歯根が歯茎の穴(歯槽)にぴったり収まることにいちいち感動しました。



下顎を上顎に組み合わせると、上下の歯の噛み合わせがしっくりくることに、これまた感動します。


『頭骨コレクション』を読んでニホンザルの歯の作り(歯式)を勉強します。
哺乳類の歯式は、左右片側について切歯(門歯)・犬歯・小臼歯(前臼歯)・大臼歯の順で本数を表します。
ニホンザルとヒトは同じ歯式になります。
ニホンザル成獣の歯式は2・1・2・3。
生後6ヶ月(p63)および8ヶ月(p179)のニホンザル下顎骨の標本写真を見ると、その歯式は2・1・2・0。
子どものころは乳歯で、切歯と小臼歯しか生えていないらしい。(p161より。犬歯は?)

以上の予備知識を得てから手元の頭骨標本を見てみましょう。
歯式は2・1・2・1となり、第一大臼歯が萌出しています。
また、右下顎の第一切歯は乳歯が抜けて永久歯に生え変わっているところでした。
虫歯はありません。
以上の特徴からこの死亡個体の推定年齢は2.5〜3.5才のコドモと判明しました。

好奇心旺盛な世代が罠にかかって死んだのでしょう。
野生動物を罠で捕獲すると、死物狂いで檻から脱出しようと鉄格子に噛み付いて、歯がボロボロになることがあるそうです。
永久歯の萠出による年齢査定法について、参考資料はこちら(PDFファイル)。

0~1.5才:すべて乳歯
1.5~2.5才:第1大臼歯萠出
2.5~3.5才:第1切歯および第2切歯萠出
3.5~4.5才:第2大臼歯萠出
4.5~5.5才:犬歯、第1および第2小臼歯萠出
5.5~6.5才:第3大臼歯萠出
6.5才以上:永久歯完全萠出
東京の野生ニホンザル観察の手引きによると、

年齢の区分けは、0歳をアカンボウ、1ー4歳くらいまでをコドモ、4ー8歳くらいまでをワカモノ、9ー10歳以上をオトナ、18ー19歳以上を年寄りとする場合があります。

性別は不明です。
(成獣であれば犬歯の発達具合で見分けられたはずです。)





頭骨全体の乾燥重量は67.5gでした。そのうち下顎骨は16.9g。
(精密な秤ではないので、目安の計測値です。)


ところで、話の発端に戻りますが、腐敗の進むニホンザル死骸の眼窩や鼻孔に出入りするミツバチを初めて見た時は仰天しました。

▼関連記事▼
ニホンザルの死骸に集まるミツバチの謎

発見当時は全く意味が分からず、ミツバチの分封群が頭蓋骨内部の空洞で営巣を始めるのかと苦し紛れに想像しました。
ところが頭骨標本を作ってから実物を仔細に眺めてみると、脳容積は思いの外小さいことが実感できました。
とてもミツバチが巣を作る余裕は無さそうです。
眼窩の奥には視神経が通る小さな穴が開いていて、頭蓋骨の内部に通じています(動画参照)。
しかしこの穴はミツバチが通り抜けるには狭すぎるようです。
頭骨内部に潜り込みたいのであれば、眼窩ではなく鼻孔や口から出入りする方が楽そうです。
しかし死体の猿が歯を食いしばっていたので、口からは侵入しにくかったのでしょう。
という訳で、解剖学的にも我ながら無理のある仮説だったことが改めて分かりました。

シリーズ完。


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