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2018/04/18

ユビナガコウモリの体表に寄生するケブカクモバエ?

2017年9月中旬・午後16:55頃(日の入り時刻は午後17:43)


▼前回の記事
昼塒で休むコウモリの群塊と鳴き声♪【暗視映像】(名前を教えて)

野生コウモリが昼塒として利用しているトンネルの天井で、コウモリ(種名不詳)が群塊を形成して休んでいました。
ストロボを焚いて撮った写真をチェックしてみると、何枚かに奇妙な物が写っていました。


コウモリ2頭が寄生されている
写真の中央部に注目

気になる写真を拡大してみると、3頭のコウモリの体表(毛皮)にオレンジ色(茶褐色)の昆虫が1匹ずつ(計3匹)がっしりと取り付いています。
無翅なのでクモと間違いそうになりますが、脚が6本しか無いので、れっきとした昆虫です。
クモバエ科という特殊な寄生バエの一種でしょう。
コウモリ専門に外部寄生して吸血するらしく、そのために翅は退化したのだそうです。
(コウモリバエ科という有翅の外部寄生虫も別に知られているらしい。)
本で読んで存在は知っていましたが寄生率は低いらしく、私のフィールドで実際に出会えてとても感動しました。
平凡社『日本動物大百科9昆虫II』によれば、

 クモバエ科は世界各地に分布し、コウモリバエと同様にコウモリの体表にのみ寄生し、吸血する。体は扁平で、翅はなく、頭部は胸背にある溝のなかに後ろ向きにたたみ込まれている。あしは非常に長く、爪は強大である。複眼は退化している。(中略)日本では10種が記録されているが、これも調査が進めばさらに多くの種が見いだされると思われる。 (p150より引用)


ちなみに、日本に吸血性コウモリは生息していません。
日本のコウモリは寄生虫から一方的に吸血される(可哀想な)宿主なのです。

また、写真でトンネル天井を注意深く見直すと、コウモリの群塊がぶら下がっている塒の周囲だけに黒くて丸い小さな物体が多数写っていました。


現場では照明の使用を極力控えたので、全く見過ごしていました。(気づいたとしても、コウモリの糞が天井に付着したのかも?と思ったことでしょう。)
おそらく、これはクモバエの蛹でしょう。

【参考1】 船越公威. "ユビナガコウモリに外部寄生するケブカクモバエの生態学的研究: 特に生活史からみた宿主への連合性に関して." 日本生態学会誌 27.2 (1977): 125-140. (ありがたいことにPDFファイルが無料で公開されています。ケブカクモバエ成虫および蛹の細密画が掲載されています。)

【参考2】 動物行動学エッセイ本のシリーズで有名な小林朋道先生の公式ブログ『ほっと行動学』より「山奥の洞窟であったほんとうの話」 (クモバエの蛹の写真あり)

次に入洞する機会があれば、改めてトンネル天井の写真を撮り直し、この蛹を採集して飼育してみるつもりです。

【追記】1年後に写真を撮りました。
野生コウモリを無許可で採集したり飼育するのは法律で禁じられていますが、寄生バエなら誰からも怒られないでしょう。
クモバエは天然記念物に指定されていませんし、レッドデータに登録された絶滅危惧種でもありません。
クモバエ類は宿主特異性が高いそうなので※、飼育下で成虫を羽化させることでクモバエをしっかり同定できれば、宿主であるコウモリの名前も分かりそうです。

※ 【参考】:小林朋道「ユビナガコウモリに外部寄生する ケブカクモバエの宿主識別行動」(PDFファイルが無料で公開されています)
Natural Environmental Science Research Vol.28, 1- 4 (2015)
洞窟の塒では複数種のコウモリが混群(混棲群塊)を形成している場合もあるのだそうです。
コウモリ観察歴の浅い私には未だコウモリの種類を外見から自信を持って識別できないのですが、もし写真同定できる専門家がご覧になりましたら、ぜひ教えて下さい。
今のところ、ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus)とそれに外部寄生するケブカクモバエPenicillidia jenynsii)のセットではないかと素人ながら勝手に予想しています。
ネット上には真っ白なケブカクモバエの写真も見つかりますが()、これは蛹から羽化した直後と思われます。
羽化後に宿主のコウモリから吸血すると黄褐色に変化するらしい。(参考:上記の船越公威によるPDF文献)

コウモリはねぐらで多数の個体が集まって群塊を形成する種類もいれば、単独あるいは散在した粗群で寝るのが好きな種類もいるらしい。
それぞれの習性(寝方)に一長一短があり、群塊を形成するコウモリには寄生虫にとりつかれ易いというデメリット(コスト)があります。

天井からぶら下がりながら痒そうに毛繕いしていたコウモリは、吸血性寄生虫を取り除こうとしていたのかもしれません。
クモバエの死亡率は毛繕い中の宿主による捕食によって高くなるらしい。

余談ですが、洞窟内に生息するコウモリの糞・体毛、洞窟内の生物の死骸が大量に堆積して固まったものをバット・グアノと呼びます。
このトンネルには水が流れているので、塒の下は天然の水洗トイレになっています。
グアノにおける生態系(食物連鎖)も興味深いのですが、残念ながらここでは観察できません。


2018/04/09

イチジクの未熟果を舐める謎の黒い蝿 【名前を教えて】



2017年9月上旬

平地の民家の庭に植栽されたイチジク(無花果)の木に未熟な果実がなっていて、そこから早くも甘い匂いが辺りに漂っていました。

このイチジクの匂いに誘われたのか、黒くて小さな見慣れないハエが1匹、イチジクの青い実の表面を頻りに舐めていました。
その合間に、手足を擦り合わせて身繕い。

最後は少し飛んでイチジクの葉に止まり直しました。

同定のため接写よりも採集を優先したら失敗し、残念ながら飛んで逃げられてしまいました。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。




イチジクと共生して授粉を助けるイチジクコバチの話は蜂好きの教養として知っていました。
しかし日本ではイチジクコバチは生息しておらず、

日本で栽培されているイチジクはほとんどが果実肥大に日本に分布しないイチジクコバチによる受粉を必要としない単為結果性品種である。(wikipediaより引用)



コバチ以外でイチジクの授粉に関与する微小のハエはいなかったっけかな?とうろ覚えの私は気になり、念の為に動画で記録してみたのでした。


私にはこのハエが所属する科も見分けられないので、邪道ですがとりあえず周辺情報からインターネット検索に頼ります。
大森直樹『一年中楽しめるコンテナ果樹の育て方』という栽培マニュアル本の内容がヒットしました。

ヨーロッパではドライフルーツに向く、大玉のスミルナ種といわれる系統の品種が主に栽培されています。この系統の品種はすべて、雄花の授粉がされないと結実しません。雄花の咲く品種群をカプリ系といいますが、この花粉をもったイチジクの受粉のために生きているといっても過言ではないのが、ブラストファーガという極小のハエ。ミルナ種のお尻の小さな穴から侵入し、受粉が行われます。ハエは、一度中に入ったら外には飛び立てず、すぐに死んでしまいます。
このハエはほとんど人の目には見えない大きさなので、食べてもわかりません。また、ドライにする過程で自然殺虫殺菌されているので、体への害はありません。
残念ながら日本国内にこのハエは存在せず、果実を実らせることは不可能です。(p92より引用)

ところが更に調べてみると呆れたことに、ブラストファーガなる昆虫はハエではなく、イチジクコバチ類Blastophaga spp.)の属名でした。
つまり、この書籍の記述は昆虫学的に不正確であることが分かりました。


「イチジク 黒いハエ」のキーワードで検索し直してみると、「イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係を脅かすハエ類」と題した生物学者による興味深い読み物がヒットしました。
沖縄で野生のイヌビワ(イチジク属の植物)の実を調べた結果、

タマバエに寄生される花嚢は種子も作れなければコバチも育ちません。クロツヤバエに寄生される花嚢はコバチが食べられてしまいます。

同じ研究グループによって「イチジクコバチを専食するクロツヤバエがイチジクに与える影響」という研究成果も学会で報告されているようです。

日本生態学会大会講演要旨集 巻:58th ページ:457 発行年:2011年03月08日
残念ながらこの要旨の内容は一般に公開されておらず、未読です。


タマバエは明らかに動画の個体と形態が異なるので除外しました。

クロツヤバエに注目して、もう少し深堀りしてみます。
素人目にはクロツヤバエ類のずんぐりむっくりした体型は、私の動画に登場する個体と似ているような気がします。
しかし私が見た個体は体色が黒いものの、黒光りしているという印象はありませんでした。
曇っていたので光沢(つや)が無かったのですかね?
前述のように、私が出歩くフィールドにイチジクコバチは生息していないはずなので、それを専門に捕食寄生するクロツヤバエも居ないはずです。
ただし、クロツヤバエ科には何種類もいるそうなので、未だ望みはありそうです。


「知られざる双翅目のために」というサイトによると、

クロツヤバエ科(LONCHAEIDAE)は、世界に9属約520種を擁する比較的小さな分類群。幼虫が果実を食害するため、害虫としても扱われる。
日本では2013年時点で7種が記録されているが、まだ数種類の未記載種や未記録種が残っていると推定される。
wikipediaによれば、
(クロツヤバエ科の)幼虫の大部分は植食性で、葉に食害をもたらすことが知られているが、腐食性、捕食性などの種も知られている。
一方、英語版wikipediaを参照すると更に気になる記述がありました。
The black fig-fly Silba adipata McAlpine is a pest of figs.
しかし、イチジクの害虫として知られるこの学名(Silba adipata)のハエは(今のところ)日本に分布していないようです。

私が見た個体はクロツヤバエの一種ではないか?と思ったのは素人の勝手な妄想・願望でしかありません。
もし写真や動画からこのハエの名前が分かる方がいらっしゃいましたら(科だけでも)、ぜひご教示願います。
ここまで長々と書いてきても結局、私が見たハエはクロツヤバエ科ではなかったというオチかも知れません。
たとえ関係なくても、この機会に調べものしたら面白く勉強になったので、ブログに書き残しておきます。

もしこのハエが私の予想通りクロツヤバエ科でしかも♀なら、もう少し粘って観察すればイチジクの未熟果に産卵したかもしれませんね。

また、このイチジクの木がもし自分の庭に植えられたものなら、実を収穫してハエの幼虫(ウジ虫)が中に居ないかどうか調べてみたいところです。
市販されているイチジクの果実を口にする機会も滅多にありませんが、ハエの幼虫が潜んでいたという記憶はありません。

ウジ虫が中から食害したイチジクの果実は腐ったように変色するらしく、普通はヒトが食べる前に廃棄処分されてしまうのでしょう。


【追記】
調べ物でいつもお世話になっている「みんなで作る双翅目図鑑」サイトの画像一括閲覧ページ を眺めていたら、とてもよく似たハエの写真を見つけました。
Lauxanioideaシマバエ上科,Lauxaniidaeシマバエ科Minettia sp.  画像提供 Mbc様

シマバエ科という分類群は初耳です。
シマバエ科Lauxaniidaeは腐敗植物質、鳥の巣の汚物で繁殖する他、生きた植物に寄生するものも知られる。(wikipediaより引用)

『マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版』によれば、
シマバエ科 Lauxaniidae無脊動 双翅目,環縫亜目,無弁亜区の昆虫の一科.幼虫は葉肉に穿孔する.
Minettia属については英語版wikipediaを参照。
謎のハエが今回イチジクに来ていたのは偶然なのか、それとも何か深い関係があるのか、興味深いところです。
幼虫はイチジクの葉で育つリーフマイナーなのでしょうか?




2018/03/26

オオハンゴンソウの花蜜を吸うクチナガガガンボ?



2016年10月上旬

農道沿いに咲いたオオハンゴンソウの群落でクチナガガガンボの仲間(種名不詳)が訪花していました。
細長い脚を激しく屈伸しながら口吻を差し込んで吸蜜しています。

この動きを擬人化すると、スクワット運動というよりも腕立て伏せと呼ぶべきかもしれません。
少し飛んで隣の花に移動しました。



秋になるとクチナガガガンボが集団で花に群がり屈伸運動しながら吸蜜する光景をよく見かけるのですが、今回は珍しく単独行動でした。


▼関連記事
クチナガガガンボの飲み会@タムラソウ?
クチナガガガンボの集団吸蜜@タムラソウ



【追記】
この植物はハチミツソウではなくてオオハンゴンソウですね。
遅ればせながら訂正しておきます。



2018/03/20

スペアミントの花蜜を吸うスズキハラボソツリアブ?



2017年8月下旬

民家の庭先に咲いたスペアミントの群落でスズキハラボソツリアブSystropus suzukii)またはニトベハラボソツリアブSystropus nitobei)と思われる細長い体のツリアブが訪花していました。
吸蜜シーンをじっくり撮りたかったのですが、軽くホバリングを披露しただけですぐに飛び去ってしまいました。
あまりにも短い動画なので、1/4倍速のスローモーションでリプレイ。
飛翔時には極端に長い後脚をダラリと垂らしています。
これでは空気抵抗が大きくて、あまり速く飛び回れないでしょう。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


2018/03/14

ハチミツソウの花蜜を吸うオオハナアブ♂



2017年8月下旬

道端に咲いたハチミツソウ(別名ハネミギク)の群落でオオハナアブ♂(Phytomia zonata)が訪花していました。
風で揺れる花に止まって花粉や花蜜を舐めています。
顔を正面からじっくり拝めなかったのですが、左右の複眼が接しているので♂だと思います。


▼関連記事
ハチミツソウの花を舐めるオオハナアブ♀



2018/02/22

花壇で獲物を吸汁するアオメアブ



2017年8月下旬

センニチコウ(千日紅)の花が咲き乱れる花壇でムシヒキアブの一種を発見。
他の虫を撮っていた私が知らずに近づいたせいで、ムシヒキアブが少し飛んで花壇の端に生えたイネ科の雑草の葉に避難したのです。
どうやら食事中を邪魔してしまったようです。
正面から顔を見ると、複眼がメタリックな緑色の構造色で美しいですね。

更に少し飛んで移動し、今度はセンニチコウの茎に止まり直しました。
今度は背側を向いて止まってくれました。

複眼の形状から♀と判明。
抱えている獲物には体が黒く透明な翅がありますが、正体不明です。
訪花昆虫を襲って狩り、体液を吸汁するのでしょう。

どうやらアオメアブCophinopoda chinensis)のようです。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


▼関連記事(2年後の撮影)マメコガネを吸汁するアオメアブの飛び立ち【HD動画&ハイスピード動画】



2018/02/09

メマツヨイグサの粘る花粉を舐めるホソヒラタアブ♂



2016年10月下旬

峠道の道端に咲いたメマツヨイグサホソヒラタアブEpisyrphus balteatus)またはその仲間が訪花していました。
左右の複眼が頭頂部で接しているので♂ですね。
花蜜目当てに花の奥へ潜り込むのではなく、夢中で花粉を舐めていました。
食事中は翅を半開きにしています。

初め引きの絵で背面から撮っていた時は、前脚を擦り合わせる身繕いのように見えたのですが、横から撮り直すと、葯から花粉を前脚で掻き取りながら口吻を伸縮させて食べていました。

マクロレンズで接写してみると、花粉が粘り糸を引いていることがよく分かります。
まるで糸を引く納豆を食べているみたいですね。
マツヨイグサの仲間の花粉は、夜行性のスズメガなど鱗粉の多い送粉者の体に付着して運んでもらうために、粘着性が高いのが特徴です。
皆さんも指で葯に触れると簡単に確かめられます。

▼関連記事
メマツヨイグサの花粉は糸を引いて粘る

気温が低いせいか、私が近づいてもホソヒラタアブ♂はしばらく逃げずにいてくれたのは助かりました。
同定のため採集しようか迷っていたら、飛んで逃げられました。
この花の花粉を全て食べ尽くす前に満腹になったのでしょう。

道端のメマツヨイグサ群落から伸びた茎が一旦側溝(水は流れていない)に落ち込み、底からまた上に伸びた株に咲いたド根性の花でした。



2018/01/26

ハチミツソウの花を舐めるオオハナアブ♀



2017年8月下旬

農業用水路沿いに咲き乱れるハチミツソウ(別名ハネミギク)の群落でオオハナアブ♀(Phytomia zonata)が訪花していました。
口吻を伸縮させて花蜜や花粉を舐めています。
左右の複眼の間隔が開いているので♀ですね。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


オオハナアブ♀@ハチミツソウ訪花食餌
オオハナアブ♀@ハチミツソウ訪花摂食

2018/01/19

チャイロスズメバチの巣に近づく謎の寄生?ハエ【ハイスピード動画】



2016年9月下旬
▼前回の記事 
肉団子や巣材を巣に搬入するチャイロスズメバチ♀【ハイスピード動画】

神社の破風板(南側)の裏に営巣したチャイロスズメバチVespa dybowskii)のワーカー♀が飛んで巣に出入りする様子を240-fpsのハイスピード動画で撮っていたら、ちょっと興味深いシーンが記録されていました。

地味なハエ(種名不詳)が単独で飛来し、破風板に着陸しました。
チャイロスズメバチの巣口へ向かってまっしぐらに、少しずつ歩いて接近したのが思わせぶりです。

もちろん、ただの偶然でハエの気紛れな行動かもしれません。
スズメバチ類の巣に寄生・産卵するアブ(ベッコウハナアブ類)が知られているので、もしかするとこのハエの目的もそうなのか?と期待が高まりました。
ところがハエは巣内には侵入せず、やがて破風板から飛び去りました。
高所で遠い上にハイスピード動画は画質が粗いために、ハエの行動の詳細がよく見えないのは残念です。

もしかすると、破風板に産卵したのかもしれません。
孵化したハエの幼虫(ウジ虫)が自力で寄主の巣に侵入する可能性も考えられます。

(諺で「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言いますが、虎穴に入らなくても寄生ハエは目的を達成できる?)

ただし、今回のハエの見かけは明らかに既知のベッコウハナアブ類ではありませんでした。
たとえば普通のニクバエの仲間だとすると、肉食性であるチャイロスズメバチの巣内から食べ残しなど掃除屋(scavenger)にとって魅力的な屍臭(腐臭)がしたのかもしれません。

ちなみにドロバチ類の巣に寄生・産卵するニクバエ(ドロバチヤドリニクバエ)も知られています。

破風板に多数集結しているチャイロスズメバチの門衛は、このハエに対して特に警戒したり追い払ったり獲物として狩ったりしませんでした。
「ハエなど眼中にない」という感じです。
もし襲いかかってもハエの方が俊敏で、易々と逃げられてしまうでしょう。

最後は1/8倍速のスローモーションから1倍速に戻してリプレイ。(@1:48〜)


つづく→屋根裏の巣に出入りするチャイロスズメバチ♀の羽ばたき【ハイスピード動画】

2018/01/12

ワレモコウの花を舐めるキンバエ♀



2016年10月上旬

墓地の片隅に咲いたワレモコウで、おそらくキンバエ♀(Lucilia caesar)と思われる美しいメタリックグリーンの蝿が訪花していました。
花蜜や花粉を舐めています。
花から花へ飛び立つ直前に前脚を擦り合わせました。
横の車道を大型トラックが通り過ぎてもハエは逃げませんでした。

複数個体(2匹?)を撮影。

似たような見かけの蝿は他にもいるらしいのですが、採集して標本を精査しないとキンバエと確定できません。(参考サイト:キンバエの同定 by 廊下のむしさん)
しかし翅脈の写真から、少なくともイエバエ科のミドリイエバエではなくクロバエ科のキンバエまたはその仲間だろうということは分かりました。(参考サイト:平群庵昆虫写真館


少し角度が変わるだけで青い金属光沢(メタリックブルー)に見えるようになる。

今回、ワレモコウという花を初めて知りました。

2018/01/02

交尾中のルリイロハラナガハナアブの一種♀♂



2017年8月中旬

河畔林から河川敷に伸びてきたフジ(藤)の蔓の葉に乗って交尾中の虻を発見。
これは、以前に観察したことがあるルリイロハラナガハナアブ(またはルリイロナガハナアブ)の一種Xylota sp.)だと思います。


▼関連記事(5年前の撮影)
ルリイロハラナガハナアブの一種の交尾と連結逃走


背側に続いて側面から撮ると、2匹は互いに逆を向き結合部の腹端を上下に小刻みに揺らしていました。
この行動は5年前の映像にも記録されていたので、精子を送り込む運動なのでしょう。
マクロレンズを装着して、背面から接写してみます。
右の個体は左右の複眼が接しているので♂、左の個体は複眼が離れているので♀と判明。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



撮影後に、ありあわせのビニール袋を素早く被せて、この♀♂ペアを採集しました。
以下は採集した標本の写真。

2017/12/25

苔に産卵するガガンボ♀【名前を教えて】



2016年11月下旬

山麓を流れる用水路でコンクリート上に生えた緑色のコケ(種名不詳)でガガンボの一種が腕立て伏せのような屈伸運動をひたすら繰り返していました。
これは♀の産卵行動なのか?と思いついて興味を持ったものの、背側からのアングルでは腹端の様子が分かりません。

ときどき屈伸運動を一瞬だけ止めて、腹端をコケの中に押し込みました。
スロー再生すると、腹端をコケに突き立てているのがよく分かります。

そっと回り込んで、逆からも撮影しました。
今思うと、どうせなら側面から撮るべきでしたね。
残念ながら、翅に隠れて腹端の様子があまり見えません。

同定するために採集したかったのですけど、逃げられてしまいました。(無念!)
このガガンボと苔の名前が分かる方がいらっしゃいましたら、教えて下さい。
ガガンボには翅に独特の縞斑紋があります。

辺りには雑木林の落ち葉が散乱していて、タヌキの溜め糞がすぐ側にありました。
実はこの溜め糞を撮ろうと私が近づいたら、このガガンボに気づいたのです。

産卵していた苔ごと採集して、卵の状態を接写すればよかったですね。
ガガンボの卵は見たことがありませんが、おそらくかなり微小なのでしょう。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


ガガンボの仲間の産卵行動を観察したのはこれで三回目です。
どれも同定できていないのが残念です。

種類によって産卵場所がそれぞれ異なるのでしょう。

▼関連記事
地面に産卵するガガンボ♀
ミカドガガンボ♀?の打水産卵

翅の模様にピントが合う前に逃げられました。



2017/12/20

ナガボノシロワレモコウの花を舐めるニクバエの一種



2016年9月下旬

風媒花とみなされているヘラオオバコが実は虫媒花でもあるのでは?と疑問を抱くようになり、訪花昆虫を注意して見て回るようになりました。

▼関連記事のまとめ
ヘラオオバコは虫媒花ではないか?:ヘラオオバコを訪花する虫の謎


線路沿いの咲いたナガボノシロワレモコウの群落でニクバエの一種と思われる黒くて毛深いハエが訪花していました。
花粉を舐めているようです。



口吻の動きから、花蜜も分泌していそうに見えませんか?
ヘラオオバコの花が咲く直前の蕾の時期から袋掛けしておいて、虫が来なくても結実するかどうか実験してみたくなります。
袋は風も妨げてしまうので、風通しの良い網を被せて栽培しないといけない気がします。


採集していませんが、映像でこのハエの名前が分かる方は是非教えて下さい。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



【追記】

私は初めこの花をヘラオオバコかと思い込んでいたのですが、訂正しておきます。


2017/12/16

アカジソの花蜜を吸うホソヒラタアブの一種



2016年9月下旬

皆さんはシソの花を見たことがありますか?

天ぷらにすると美味しいですよね。
さて、シソの花の送粉者は誰でしょうか?

山麓の畑の隅に咲いたアカジソ(赤紫蘇)の薄い紫色の花にホソヒラタアブの一種が来ていました。
花蜜や花粉を舐めています。





2017/11/20

ハチに擬態したシロスジナガハナアブ♀は捕獲すると刺す真似をするか?



2017年7月下旬

室内で虫の羽音が聞こえるので振り返ると、窓際をシロスジナガハナアブ♀(Milesia undulata)が飛び回っていました。
いつの間にか室内に侵入したようです。
本種はハチにベイツ型擬態している例として考えられています。
擬態のモデルとなった蜂は、なんとなくコアシナガバチPolistes snelleni)ではないかと個人的には考えています。

とりあえずプラスチック容器で捕獲

ベイツ型擬態のシロスジナガハナアブ:腰に白い部分がありハチの細い腰を彷彿とさせる。一定の場所を占有し、近づく虫や人を駆逐するような行動をとることがある。飛び方や羽音もハチに似て、一瞬たじろぐ。 (wikipedia「擬態」の項目で写真の説明より引用)


7年前に初めてこのアブを撮ったときに、面白い話を教えてもらいました。
▼関連記事
シロスジナガハナアブ♀の身繕い
本種のベーツ擬態は外見だけにとどまらず、捕まえると尾端を押し付けるようにしてまるでハチが刺すような真似をするのだそうです。


ずっと気になっていたので、この機会に早速、実験してみました。
捕獲したアブをビニール袋に移してから炭酸ガスで麻酔し、指で翅をつまみました。
本種はハナアブの仲間で吸血性ではありませんから、口器で指を刺される心配はない…はずです。

▼関連記事
シロスジナガハナアブがドクダミに訪花
汗を舐めるシロスジナガハナアブ♀

麻酔から醒めるとアブは逃れようと必死に暴れ始めます。
確かにときどき腹部を屈曲させています。
ハチが腹端の毒針で刺す行動に似ていなくもありません。
しかし意外にも、それほど頻繁にはやりませんでした。

ハンディカムで動画に撮りながらだと片手しか保定に使えないので、苦労しました。(三脚を使えば良かった…。)
翅ではなくてアブの足を摘んだ方が良かったかもしれません。
ときどき胸部の飛翔筋を高速振動させる音がビー♪と響きます。
やがて疲れたのか諦めたのか、あまり暴れなくなりました。

果たしてこれが本当に「行動の擬態」と呼べるのかどうか、疑い深い私は未だ信じきれません。
ハチ類の一部が狩蜂に進化する過程で腹部にくびれが生まれ、そのおかげで♀の腹端にある毒針で刺す動きに自由度が生まれたと考えられています。
シロスジナガハナアブが腹部を深く屈曲させるにはアシナガバチの前伸腹節のような腰のくびれが足りないように思います。

▼関連記事
キアシナガバチの刺針攻撃:♂♀比較
翅をつままれたら脚と腹部ぐらいしか自由に動かせませんから、どんなハナアブでも腹部を繰り返し屈曲しそうな気がします。
比較対象として、蜂に擬態していないハナアブではどうなのか、検討する必要がありますね。
もし蜂にベーツ擬態するアブだけが腹部をハチのように曲げるのなら、確かにハチが毒針で刺す真似をしている行動擬態と言えそうです。
そんなに難しく考えなくても、腹部を少し屈曲することで「刺すハチ」に似た外見と相まって鳥などの天敵や捕食者に恐怖の記憶が蘇ってたじろがせる効果があれば、それで充分なのかもしれません。

例えば、何らかの方法でシロスジナガハナアブの腹部を屈曲できないようにすると鳥に捕食されてしまう率が上がるのか、調べれば良さそうです。(言うは易く行うは難し)
これを実証しようとすると、擬態モデルのハチに刺された経験のある鳥を準備するところから大変そうです。


【参考図書】
上田恵介・有田豊『黄色と黒はハチ模様:ハチに擬態する昆虫類』 (『擬態:だましあいの進化論〈1〉昆虫の擬態』p62-71に収録) によると、

クロスズメバチの巣を好んで襲うハチクマは例外にして、鳥がスズメバチやアシナガバチを食べている場面を見かけることは滅多にない。毒針を持つ蜂を、鳥が避けるのは、一般的な傾向である。とすると、針はないが、ハチの姿をまねることで、鳥に襲われないようにして生存価を高める擬態形質が進化しうる。(p62より引用) 

”虻蜂取らず”はアブの戦略 
針を持たないのにハチの姿をまねている昆虫というと、まず双翅目のアブ類が挙げられる。(p62より) 
こうしたハチ擬態はどのようにして進化してきたのだろう。人が見て”そっくりである”ということと、その昆虫がモデルであるハチに本当に擬態しているのかどうかは別の問題である。これはその擬態種の形態を進化させた淘汰圧がなにかによって異なってくる。(p69より)
ハチ擬態をする昆虫の野外での生態はまだよく調べられていないし、実際にこうした擬態が捕食者にどの程度の効果があるのかもよくわかっていない。(p71より) 


以下は標本の写真。




2017/10/30

セマダラコガネを捕食吸汁するシオヤムシヒキ♂



2017年7月下旬・午前8:17

アベリア(別名ハナツクバネウツギ、ハナゾノツクバネウツギ)の生け垣で、シオヤムシヒキ♂(旧名シオヤアブ;Promachus yesonicus)が葉の上に止まっていました。
腹端に白い毛束があるので♂ですね。
抱えている獲物はセマダラコガネAnomala orientalis)でした。
その胸背(頭部?)から吸汁しているようですが、口器の状態はよく見えませんでした。
シオヤムシヒキ♂は腹部をヒクヒクさせて腹式呼吸しています。
最後は獲物を抱えてどこかに飛び去ってしまいました。

アベリアに訪花していたセマダラコガネを狩ったのでしょうか?
それとも横の芝生で狩ったのかもしれません。
いつか狩りの瞬間を観察してみたいものです。(飼育すれば見れるかな?)



2016/12/17

寄主の巣を探索するエゾクロツリアブ♀の停空飛翔【ハイスピード動画】



2016年8月下旬


▼前回の記事
エゾクロツリアブ♀の産卵飛翔【ハイスピード動画】

同一個体のエゾクロツリアブ♀(Anthrax jezoensis)を追いかけると、産卵地点のすぐ近くで板壁に開いた節穴を物色するかのように、そのすぐ手前でホバリング(停空飛翔)していました。
その様子を240-fpsのハイスピード動画で撮ってみました。
マメコバチなど借坑性の寄主の巣を探索しただけで、産卵してないと思います。






2016/12/09

エゾクロツリアブ♀の産卵飛翔【ハイスピード動画】



2016年8月下旬

雪囲い用の材木を冬まで保管してある軒下の資材置き場でエゾクロツリアブ♀(Anthrax jezoensis)が停空飛翔(ホバリング)していました。
これは産卵行動だ!とピンと来たので、240-fpsのハイスピード動画で撮ってみました。
実はこの直前には、近くの板壁の節穴に興味を示していたのです。(映像公開予定

杉の丸太の切り口に小さな穴のように朽ちた部分があり、エゾクロツリアブ♀は飛びながらその穴を重点的に調べています。
おそらくその穴の奥に寄主のマメコバチ?が営巣しているのでしょう。(蜂の出入りは確認していません。)
背後から撮った映像では、飛んでいるエゾクロツリアブ♀と産卵標的との距離感が分かりにくいですね。
エゾクロツリアブ♀はしばらくホバリングしてから狙いを定め、飛びながら腹端を前方に勢い良く振り出して卵を射出します。
白くて小さな粒が穴の奥に飛んでいくのが一度だけしっかり見えました。(@2:08)
産卵そのものはトンボみたいに何度も連続するのではなく、ひと粒ずつ大事に産むようです。
1回産む度に、産卵の成否を確認しているのかもしれません。
ときどき丸太の断面(産卵地点から少し離れた位置)に着陸して翅を休めています。
私は休息だと解釈したのですが、飛び立つまでに次に産む標的をじっくり調べているのかもしれません。(後述する論文の著者による解釈)

後半は私が横にそっとずれて、側面からの撮影アングルを確保しました。
これで産卵標的とエゾクロツリアブ♀との距離感がはっきり見えるようになりました。
停空飛翔中は後脚を後ろに向けていますね。
後脚を垂らして飛ぶアシナガバチの飛行姿勢とはまるで異なります。
その一方で、前脚は前方に揃えています。
ホバリング中に産卵標的との距離は近づいたり遠ざかったりと、安定しません。

色々と調べていたら興味深い文献を見つけました。

Wijngaard, Wopke. "Control of hovering flight during oviposition by two species of Bombyliidae." Netherlands Entomological Society (2012): 9.(無料公開のPDFファイル
同じツリアブ科で2種の産卵行動を300-fpsのハイスピード動画に撮って詳細に比較した論文です。
エゾクロツリアブと同属の近縁種(Anthrax anthrax)とビロウドツリアブ♀(Bombylius major)が登場します。
今回私が観察したエゾクロツリアブはこの論文に記述されたAnthrax anthraxの産卵行動と同じでした。

この仲間のツリアブは産卵前に、卵がべたつかないように砂粒でコーティングするのだそうです。
そのために腹端を砂やゴミなどに擦り付ける行動をするらしく、「sand chamber」と呼ばれる部位に砂を貯えておくらしい。
今回の映像にその行動は写っていない…ですよね?
欲を言えば産卵行動をマクロレンズで接写したかったです。





2016/10/13

カメラを舐めるオオハナアブ♀



2016年7月中旬

里山の峠道に三脚を立てて別の撮影をしていたらオオハナアブ♀(Phytomia zonata)が飛来して、カメラの本体およびストラップをぺろぺろ舐め始めました。
雨水や私の汗および皮脂が染み込んでいるはずなので、そのミネラル成分を摂取しているのでしょう。
味見してかなり気に入った様子で、軽く追い払ったぐらいではすぐに舞い戻って来ます。
ハンディカムのレンズを近づけても逃げずに、口吻を伸ばして一心不乱に舐めています。

オオハナアブは秋に出会う昆虫だと勝手に思い込んでいたのですけど、今期初見です。





2016/10/05

死んだイモムシに集まるミスジヒメヒロクチバエの翅紋誇示



2016年7月上旬

峠道を法面補強した土留のコンクリート壁面に蔓植物イワガラミが垂れ下がり壁面緑化されています。
その葉陰から覗いている妙な物が気になって葉をめくってみたら、かなり大型のイモムシ(蛾の幼虫)の死骸でした。
死後かなり経過しているようで、腐って全体に黒変しています。
下半身は溶けたように千切れています。
なんとなく、死因は虫カビや寄生などによる病死ではないかと勝手に推測しました。
腐りかけたイモムシの種類を同定するのは無理そうですが、頭楯は真っ黒です。

微小のハエが数匹、死骸に取り付いて身繕いしながら翅紋を誇示していました。
カメラを近づけても逃げない個体を接写してみます。
2匹のハエが死骸の上下に居残っています。
死骸から逃げた個体が近くのイワガラミの葉で前脚を擦り合わせていました。
素人目にはミバエの仲間に見えます。
しかし、死骸を吸汁しに集まるという話は聞いたことがありません。

この日はあまりにも暑くて日射病気味だった私は、マクロレンズを取り出して装着するのも億劫でやりませんでした。
左手で葉をめくりながら右手だけで接写しようとすると、幼虫が絶え間なくブラブラと揺れるので非常に難しいのです。
同定のためにハエだけでも採集すればよかったですね。
もしハエが死骸に産卵したとすれば、芋虫の死骸を採集して飼育すれば次世代が成虫まで育つでしょうか?



いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板でハエの写真鑑定を依頼したところ、茨城@市毛さんよりご教示頂きました。

写真のハエは,ミバエ類ではなく,ヒロクチバエ科のRivellia nigricansミスジヒメヒロクチバエかその近縁種のようです.
また、芋虫の死因についてliriomyzaさんより以下のコメントを頂きました。
おそらく,核多角体病(NPV),ウイルス病かもしれません。死骸の一部をスライドグラスに,一滴の水を垂らして,400倍程度で,六角形の多角体が見えれば核多角体病と思います。
wikipediaの解説によれば、
(バキュロウイルス科に属するNPVに感染した)感染虫は、動きが鈍くなり、変色し、内部が崩れて液状化し死ぬ。表面は黒くなってその後破れ、内部の多角体をまき散らすことになる。


【追記】
成田聡子『したたかな寄生:脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書』によると、マイマイガ幼虫に感染するバキュロウイルスによる行動制御が遺伝子レベルで詳細に調べられているそうです。
私が今回観察した幼虫は芋虫タイプであり、明らかにマイマイガの毛虫とは異なりますが、参考のために引用しておきます。
バキュロウイルスは節足動物に感染し、宿主に対する種特異性が高いことで知られています。つまり、マイマイガに感染しているバキュロウイルスは他の種類の昆虫には感染できません。(中略)通常、ガの幼虫の成長はかなり早く数日に一度は脱皮して大きくなりますが、バキュロウイルスに感染している幼虫はいくら食べても一向に体が大きくなりません。食べたエネルギーはすべてウイルスの増殖に使われているからです。 そして、ウイルスが体内で十分に増殖し、次なる宿主に移動する段階になると、現在の宿主であるマイマイガの行動を操ります。 通常、マイマイガの幼虫は昼間、鳥などの天敵に見つからないように地面に近い場所でじっと身を隠しています。そして、夜になると木の上に登って葉を食べます。しかし、バキュロウイルスに感染した幼虫は、昼も夜も関係なく木や葉の上を目指して登り始めます。そして、葉の一番上に登りきると、動かなくなり、何かを待っているかのようにそこでじっと待機します。このとき、幼虫の体内ではバキュロウイルスが幼虫の体を溶かす大量の酵素を生成して、宿主である幼虫をドロドロに溶かしてしまいます。 そうして、体の形を保てなくなった幼虫は、溶けながら、葉の上から下に流れ落ち、ウイルスを大量にまき散らしていきます。そして、葉の上に落ちたウイルスは新たな宿主に葉と共に食べられることで、また感染を繰り返していくのです。p166-167より引用)

研究者は更に、バキュロウイルスがコードする遺伝子の中で、感染したマイマイガ幼虫を木に登らせるという異常行動を引き起こす原因遺伝子を見事に突き止めています。
延長された表現型」が遺伝子レベルで解明された例としてエレガントな研究です。
新書の中で原著論文も紹介してくれているのは親切ですね。
Hoover, Kelli, et al. "A gene for an extended phenotype." Science 333.6048 (2011): 1401-1401.(検索すれば全文PDFが無料ダウンロード可)
ただし、マイマイガを用いた研究の結果がそのまま別種の蛾の幼虫に当てはまるとは限らないので注意が必要です。
ウイルスと宿主の組み合わせによって、ウイルスによる行動制御の仕組みがそれぞれ異なっていると、現在では考えられています。p169より)



渡部仁『微生物で害虫を防ぐ (ポピュラー・サイエンス)』という昆虫病理学の入門書を読んだら、核多角体病についてしっかり勉強することができました。
りん翅目昆虫(チョウやガの仲間)に核多角体病の発生が多いようです。幼虫が病気になると、体節と体節の間の皮ふがふくれてそこが傷つきやすくなり、体が黄色味を帯びてきます。正常な幼虫の体液は無色か、あるいはやや黄味を帯びていても透き通っていますが、病虫は皮ふの傷口から白く濁った牛乳のような体液を流しながら落ち着きなく歩きまわります。やがて病気の末期になると、不思議なことに、昇天を急ぐかのように高い所へと登って行き、そして、木の枝の先あるいは草の葉の先端にはい登り、腹肢を固定してぶら下がって死にます。やがて、死体はどろどろに溶けてしまうのです。樹木の先端に、時々このような病虫がたくさん集まって大きな塊になることがあります。 (p24-25より引用)

 虫の病死体から飛散した多角体は、広く土の表層に分布し、周辺の植物の葉に付着する機会が多いといわれています。昆虫が植物を食害する際に、たまたま葉に付着していた多角体を一緒に食べると、核多角体病が伝染することになります。つまり、食下された多角体は、虫の消化管の中でアルカリ性の消化液によって溶かされ、中からばらばらになって出てきたウイルスが、消化管壁から体の中へ侵入し、いろいろの組織に感染するのです。(p29より引用) 


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