2017/08/07

キリの花で採餌するクロマルハナバチ♀



2017年5月中旬

春に咲く木の花の中で個人的に大好きなのはジンチョウゲと並んでキリ(桐)です。
個性的な芳香なのにすっきりとしていて甘ったるくなく、たまりません。
桐は500円玉硬貨の図案にも採用されています。
そんな桐の花の送粉者に興味を持って毎年調べているのですが、とにかく高木なので花を観察するのは一苦労です。
長い梯子を持ち歩いたり危険で面倒な木登りをせずに、なんとか観察できないでしょうか?
昨年は山の急斜面を利用して撮影する方法を編み出しました。
今年は別な方法を試みます。
平地の河川にかかるとある橋の下(河川敷)に桐の木が数本植えられていて、橋の上から樹幹に咲いた花をヒトの目線に近い高さで愛でることが出来る絶好のポイントを見つけていたのです。
山地と平地とで桐に訪花する送粉者の種類は変わるでしょうか?
未だ蕾の頃から開花を待ちわびて、足繁く通いました。

この日、満開には早いものの、かなりの数の花が咲いていました。
風が止むと桐の花の甘い芳香が辺りに強く漂います。
ようやく開花していたのに、山地ではメインの送粉者であったクマバチ♀がここでは一匹も来ていなかった点が意外でした。
逆にちょうど一年前の里山ではほんの一瞬しか見れなかったクロマルハナバチ♀(Bombus ignitus)がここでは我が物顔に採餌していました。

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桐の花で採餌するクロマルハナバチ♀

花から花へ飛び回る同一個体を追いかけて動画に撮りました。
クロマルハナバチと言えば盗蜜行動の常習犯ですが、キリは花筒が太いため、正当訪花で安々と潜り込めます。
花筒の中で葯に触れたクロマルハナバチ♀の胸背に白い花粉がべっとりと付着しています。
やがて前年に作られた桐の実の殻に止まって身繕いを始めました。
体毛に付着した花粉を念入りに落とし、それまで空荷だった後脚の花粉籠に移し替えています。
しかし胸背には足が届かず、花粉で汚れたままです。
これは桐の花にとっては好都合で、クロマルハナバチ♀が次の花に潜り込んだ際に胸背が雌しべの先に擦れて受粉が成立するのでしょう。※
お化粧が済むと再び採餌を再開しました。
動画を視聴すると大きな川の流れる音が聞こえると思います。

以上から「川沿いの平地で桐に訪花するメインの送粉者はクロマルハナバチなのだろう」と単純に結論付けるのは早計です。
多分この仮説で正しいと思うのですが、念のために何年も通って観察例を積み重ね、傾向を比べてみないといけません。
というのも、今年の春は虫の発生が非常に遅れている(とにかく野外で昆虫が少ない)という報告が日本各地から寄せられ、私も同じ異状を実感しているからです。
実は今回、橋の上でかなり長時間粘っても、桐を訪花した昆虫はこのクロマルハナバチ♀一匹だけでした。



※ 実際に桐の花を分解して、雌しべ、雄しべと葯の位置を確認してみましょう。
ここは橋の欄干から手を伸ばせば桐の花を摘み取ることも可能なのです。
右半分の花弁をカットしてみます。
マルハナバチが花蜜を吸おうと花筒に潜り込むと、まず雌しべの先に背中が擦れることがよく分かります。
雄しべの葯はその少し奥に並んでいます。
送粉者のハナバチと共進化した結果、キリの花はこのような構造になったのです。



2017/08/06

屋根裏の巣で待つ雛に虫を給餌するムクドリの♀♂つがい(野鳥)



2017年5月中旬

郊外の住宅地で電線に止まっているムクドリ(Sturnus cineraceusを見つけました。
嘴に数匹の幼虫(イモムシ)を咥えています。
雛のために周囲の畑などで捕まえてきたのでしょう。
電線から飛び立ったムクドリの姿を追うと、目の前にある2階建ての民家の軒先に開いた穴に飛び込みました。
奥の屋根裏で営巣しているのでしょう。
耳を澄ますと案の定、穴の奥から雛の鳴き声が賑やかに聞こえてきます。
給餌を済ませた親鳥が巣口から顔を出したものの、辺りを警戒して再び奥に引っ込んでしまいました。
ようやく外に出てきた親鳥は目の前の電線に止まりました。(このときは空荷で出巣)
私を見下ろしてかなり警戒していますが、次の餌を探しに飛び去りました。

そのまま私がしばらく粘って待つと、なんとか親鳥の帰巣シーンを撮ることができました。
直後に巣の中で雛鳥たちが賑やかに餌乞いし、しばらくすると静かになりました。
給餌を済ませた親鳥が出巣する前に、またもや躊躇して引っ込みました。
私が見ているのでひどく警戒しているのか、それとも雛が食後に脱糞するまで待っているのかもしれません。
ようやく出巣した瞬間に、右から別個体の親鳥が飛来しました。
番(つがい)の親鳥が入れ替わるように入巣したのです。
(このときも排糞せず空荷で出巣しています。)
見事なシフトの交代ですね。
巣になるべく親鳥のどちらか片方が残って、大切な雛を守るようにしているのでしょうか。
…と思ったら、後から来た親鳥も給餌後は巣を留守にしました。
食べ盛りの雛を育てるため、親鳥は共稼ぎで虫を捕りに出かけていることが分かりました。

次に帰巣する親鳥を待ち構えて監視していると、今度は営巣地の屋根の右角に着陸しました。
嘴に何か虫を運んでいます。
すぐに飛び降りると屋根裏の巣に入って行きました。
雛に給餌した親鳥はすぐに巣口から顔を出し、辺りを警戒します。
巣から空荷で出てきた親鳥は目の前の電線に一旦止まりました。
少し休むと鳴きながら飛び立ちました。

この屋根裏は何年も繰り返して使われている営巣地だろうと推理しました。
なぜなら、巣穴の空いたベニヤ板だけが他とは違っているからです(この区域だけ多数の孔が空いているタイプの板を使用)。
雛の糞で汚れた区域のベニア板を最近張り替えたのでしょう。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


つづく→排糞行動



タニウツギ蕾の萼を食すイチモンジチョウ終齢幼虫



2017年5月中旬

イチモンジチョウの飼育記録#5


食餌植物として新鮮なタニウツギの小枝を採取してきて与えてやりました。
するとイチモンジチョウLimenitis camilla)終齢幼虫は花のつぼみの基部に5本ある緑色の細長い萼片に口をつけて食べ始めました。
なぜか若葉よりも萼の味が気に入ったようで、やがてほぼ全てのつぼみの萼が丸坊主になってしまいました。
しかし花の蕾自体は決して齧りませんでした。

常識を疑いタニウツギの葉に毒が蓄積されていると仮定すれば、イチモンジチョウ幼虫が葉よりも若い萼片を好むのも納得できますし、前進運動のぎこちなさは中毒による神経症状で説明できるかもしれません。 (追記:緩急をつけたぎこちない前進運動はイチモンジチョウ幼虫に特有なもので、異常な運動障害ではありませんでした。)

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。

つづく→#6:食欲を失ったイチモンジチョウ終齢幼虫の徘徊運動



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