2016/01/30

網に付いたアメリカセンダングサの花を食べずに捨てるイシサワオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】


2015年10月上旬・午前00:25・気温12℃

花を食べる造網性クモの謎#6:再現実験


5日前、戯れにアメリカセンダングサの花をイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)の網に投げつけたら食べ始めて驚愕しました。(記事はこちら
意外な結果を受け入れるには何よりも再現性が肝心ですから、同一個体のクモで花給餌実験をもう一度やってみました。

近くで摘んだアメリカセンダングサの頭花を垂直円網に投げつけると、その振動でイシサワオニグモ♀が隠れ家から花に駆け寄りました。(動画はここから)
花の茎が少し長過ぎたかもしれません。
クモは歩脚で花に触れるものの、噛み付こうとしません。
花の回りの糸を噛み切ると、網から外して捨てました。
今回は梱包ラッピングすら行わず、異物として網から取り除きました。
※ 赤外線ビデオカメラの撮影アングルが不安定なのは、AFの奥ピンを改善するために背景が抜けるアングルを探っているためです。

甑に戻ると周囲の糸を歩脚で引き締めて網を揺らし、もう他に異物が網に残っていないか確かめています。
信号糸を伝い、隠れ家に戻りました。
食べ残しの蛾を引き寄せ、捕食を再開。
撮影直後の午前00:25に測定した気温は12℃、湿度100%。

花を食べてくれなかったので再現性に疑問が生じ、意気消沈しました。
とにかくアメリカセンダングサの花の味が好きで好きで堪らない!という訳ではなさそうです。
蛾を食べている最中に花を給餌したのでクモは満ち足りており、わざわざゲテモノを口にする気にならなかったのでしょうか。

クモの空腹状態をコントロールした上で実験するのは飼育しないと無理そうです。
造網性クモは花を梱包ラッピングしてくれないことには食べてくれないので、網に付けた花をクモが取り除こうと触れたときに音叉を使って花に振動を与えてみれば騙されるかもしれません。


つづく→#7:アメリカセンダングサの花を食べなくなったイシサワオニグモ♀(蜘蛛)


巣の外に捨てられたキイロスズメバチ幼虫の謎【子殺し?】



2015年10月上旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#4


キイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)の巣作りを微速度撮影していると、目の前の地面に蜂が幼虫と一緒にボトッと落ちてきました。
幼虫を残して蜂はすぐに飛び去りました。

一瞬の出来事でしたが、巣がオオスズメバチの襲撃を受けている様子はありません。
巣の下の地面をよく調べると、あちこちに幼虫が何匹も散乱していて衝撃を受けました。


オオスズメバチやヒメスズメバチのように他の蜂の巣を襲い幼虫を狩ってきたキイロスズメバチのワーカー♀が、帰巣する前に獲物をうっかり落としてしまったのでしょうか?
それなら肉団子に加工して運搬するはずですし、何匹も幼虫が落ちていることの説明が出来ません。
やはり、軒下の巣から外に捨てられたと考えるのが自然でしょう。
微速度撮影の動画(オリジナルは10倍速映像)を見直しても、蜂が巣口から幼虫を運び出して外に捨てる決定的瞬間を見つけられませんでした。

コロニーの性比を調節するために、例えば雄蜂♂になる幼虫を選んで捨てているのかな?
晩秋で狩場の獲物が乏しくなり、巣内の幼虫を間引いているのでしょうか?(子殺し、口減らし)
それなら幼虫を食べてしまっても良さそうなものです。
せっかく投資したタンパク源をなぜ食べずに巣外に惜しげもなく捨てるのでしょうか?
少なくともコロニーの引っ越しに伴う子殺しではなさそうです。

巣内で病原菌に感染したり病気になった幼虫をワーカー♀が排除して捨てたのかもしれません。
トロイの木馬(寄生者が巣に潜り込んだ)に気づいたワーカー♀が、体内寄生された幼虫を捨てた可能性も考えられます。
実は私は寄生を強く疑っているのですが、詳細は続編のお楽しみ。

落ちた幼虫は丸々と太っており、体液で濡れていました。
落下の衝撃で傷つき出血したのかと初めは思いましたが、おそらく栄養交換液(VAAM)を吐き戻したのだと思います。
その証拠に、捨てられたキイロスズメバチの幼虫の一匹に対してクロヤマアリFormica japonica)のワーカー♀が集っていました。
アリの巣に持ち帰るには重すぎる気がします。
クロヤマアリはキイロスズメバチ幼虫の口元を頻りに舐めて、栄養交換していました。
蟻の巣で共生するシジミチョウの幼虫を連想しました。
この後どうなったか見届けていませんが、巨大なキイロスズメバチ幼虫を家畜としてアリの巣に運んだとしたら愉快ですね。



初めに見つけたキイロスズメバチの遺棄幼虫を指で摘んで採集してみると、初めて触ったその感触があまりにも柔らかく頼りないことに驚きました。
ブヨブヨで全く掴みどころがありません。
体表にクチクラ(外骨格)がほとんど発達していないようです。
丸々と太った蜂の子は、育房の外では自重を支えられないのでしょう。

(健康なキイロスズメバチ幼虫を育房から取り出してみるとまた感触が異なるのかもしれません。)
幼虫の口元に触れて刺激すると栄養交換液を吐き出すことを実演すればよかったですね。
私は未だ蜂の子を食べたことがないのですけど、これを見て美味しそうだと思う人もいるでしょう。


せっかく貴重な蜂の子を採集したのに帰路で他の虫を採集する必要に迫られ、採集容器が足りなくて悩んだ末に蜂の子を捨ててしまいました。(痛恨の判断ミス)
飼育下で給餌して育てるのは難しそうですが、解剖して体内寄生の有無を確認すべきでした。


映像の最後(@2:39〜)は更に奇妙な事件簿です。
キイロスズメバチが営巣した古い木造家屋の地面に接した基礎部分の材木の割れ目にキイロスズメバチの幼虫がぺったんこに潰れて挟まっていました。
なんでこんな所に幼虫が挟まっているのか、まるで猟奇事件です。
スズメバチの幼虫は脚が退化していて歩行能力が皆無ですから、地面に落ちた幼虫がこんな所に偶然嵌り込むことはあり得ません。
アリが運ぶ途中で挟まったと考えるのも無理がある状況です。
モズの速贄はやにえなど、野鳥による貯食行動の結果ではないかと推理してみました。


つづく→#5:キイロスズメバチ♀の巣作り

【追記】
記事を書き終えてからネット検索してみると、この現象はよくあるようです。
ルイワン氏のブログ「スズメバチの巣から大きな幼虫をくわえた働き蜂が降ってくる謎」では晩秋に飢餓で死んだキイロスズメバチの幼虫を捨てていると、私の寄生説とは全く違う説明がなされていました。

スズメバチの雄成虫や新女王蜂は、幼虫から頻繁に栄養価の高い唾液分泌物を一方的に摂取するだけなので、急速に衰弱して死亡する幼虫が多くなる。
スズメバチの働き蜂は、こうして死んだスズメバチの幼虫を引き抜いて、巣の外に運び出す。そして、それらの幼虫の死骸が巣の直下に散乱することとなる。

松浦誠『社会性ハチの不思議な社会』を読むと、この現象について解説してありました。
スズメバチも、♂や新成虫(原文ママ。新女王のことか?:しぐま註)の羽化後のコロニーでは、アシナガバチと同じように、共食いがおこなわれる。働きバチの給餌の対象は、幼虫から新成虫に切りかわるとともに、卵、幼虫、蛹などの発育段階の個体の死亡が急に目立つようになる。モンスズメバチやキイロスズメバチの秋の巣では、巣の下や、入口付近に、数100頭の幼虫の死骸が重なっていることがあり、育児活動に異変のおこったことを知ることができる。(p79より引用)





【おまけの動画】
北米のスズメバチの習性を紹介した生態動画(スミソニアン博物館の制作)に、幼虫を巣の外に捨てるシーンがありました。(@0:38)
晩秋に食べ物が不足すると、余分なワーカーの幼虫を次々に殺して間引きするのだそうです。
種名は明記されていませんが、日本のモンスズメバチと見た目が似ています。


【追記2】
久志冨士男、水野玲子『虫がいない 鳥がいない:ミツバチの目で見た農薬問題』を読むと、ネオニコチノイド系の農薬(殺虫剤)散布という新たな容疑者が出てきました。

2008年7月@長崎県
家の軒下にはコガタスズメバチが営巣していて、人に馴れていたが、このハチたちも、私が帰ったあとに死んだ幼虫を引き出していたそうである。そのことから彼女(しぐま註:養蜂家)は原因はやはり農薬であると確信したと言っていた。
 幼虫を引き出すのは、幼虫が死ぬか、死にかけたからである。放置したら腐敗し、巣内の衛生が保てないためだ。種類の異なる2つのハチ(しぐま註:ニホンミツバチとコガタスズメバチ)が同時期に幼虫を捨てる――これは病気などでは説明できないことである。(p12より引用)

時期が異なるため私が見た事例とは共通しないかもしれませんが、農薬散布の可能性は全く念頭になかったので、個人的な備忘録として残しておきます。



【追記3】

6年後にほぼ同じ地点で似た事例を観察しました。

巣の幼虫を運んで捨て去るキイロスズメバチ♀【子殺し?育児放棄?】

2016/01/29

網にかかった夜蛾を捕食するイシサワオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】

2015年10月上旬

夜にイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)の営巣地を見に行くと、相変わらず同じ隠れ家(キイチゴ?の葉裏)に潜んでいて一安心。
4日前に給餌したアメリカセンダングサの花は隠れ家に見当たらず、捨てたようです。

夜間観察の目的は、垂直円網の張り替えを記録することです。
古い円網が張られたままで、部分的に壊れていました。


隠れ家のクモ
垂直円網




近くを流れる渓流の水音だけが聞こえてきます。
コオロギやキリギリス類の鳴き声が皆無で、辺りは静まり返って不気味です。
藪蚊が居ないのは助かりました。

寒さと眠気を堪えつつ網の前でじっと見ているのは結構大変です。
日付が変わろうとする真夜中にふと気づくと、クモが網に降りて来ていました。
いつの間にか蛾が網にかかっており、その獲物捕帯で梱包ラッピングしているところでした。
クモが獲物に噛み付くシーンは見逃しました。
私が生き餌を網に給餌したのではなく、自然に網にかかったものです。
残念ながら蛾の種類は分からず仕舞いです。

イシサワオニグモ♀は糸で包んだ獲物を咥え、甑を経由して隠れ家に戻りました。
獲物を糸で固定するとラッピングし直します。
赤外線の暗視カメラでも獲物の複眼が光って見えるのは、夜蛾に特有のタペータムでしょうか?

ちなみに気温の測定結果は
21:53 13.1℃、73%
22:04 11.9℃、83%
22:46 11.3℃、H%
23:52 11.4℃、H%
00:25 12.0℃、H%

つづく→



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