2016/01/16

花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)の謎#1

2015年10月上旬

今季色んなクモを撮影してきたなかで最も衝撃を受け興奮した出来事を報告します。

里山を少し登った地点で山道の脇、草や灌木で覆われた斜面にイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)の立派な網を見つけました。
垂直円網の左上に伸びる枠糸を目で辿ると、キイチゴ類?の葉裏に橙色の美しいクモが潜んでいました。
枠糸は他にシダの葉先と別のキイチゴの枝先に固定されていました。


網の中央部(甑)に円形の穴が開いていないのはコガネグモ科らしくない?
垂直円網
営巣地・全景(斜面を見上げる)
隠れ家@キイチゴ?葉裏

2年前にもイシサワオニグモ♀を相手に定点観察しています。
残る撮影テーマとして一番見たいのは造網ですが、その前にとりあえず定番の異物除去行動を観察してみました。



午後14:20〜14:33

たまたま近くに生えていたアメリカセンダングサの花を摘んで、戯れに網へ投げつけてみました。



ところが意外にも隠れ家のクモは無反応でした。
次々に投げつけるも狙いがやや外れ、網の下部に計3個の花が付着しました。
「どうやらこのクモは満腹らしい…?」と諦めかけ油断していたら、クモが隠れ家から網に出てくる瞬間を撮り損ねてしまいました。
イシサワオニグモ♀は隠れ家から甑まで信号糸を素早く伝い降りると歩脚で四方の網を引き締めて揺らし、獲物の付いた位置を突き止めます。
1個のアメリカセンダングサ花に駆けつけると、歩脚の先で触れ調べています。
花の周りの粘着性横糸を少し切ったので網から捨てるのかと思いきや、捕帯でぐるぐる巻きにし始めたのでビックリ仰天。
毒液を注入するために噛み付いたら口触りや味が変だと気づくはずなのに、ラッピングを続けています。
花に長い茎が付いていることや、ざらついたり棘のある感触などが獲物の昆虫っぽくて騙されたのでしょうか?
常識的に考えて、このクモがアメリカセンダングサの花を口にするのは生まれて初めてのはずです。
落ち葉などとは違って自然状態でアメリカセンダングサの花が落下して網に付いてしまうことはないでしょう。

円網はアメリカセンダングサの群落よりもずっと高い所に位置していました。
桜の花が散るのとは異なり、アメリカセンダングサの頭花は自然に落ちたりしません。
つまり私は今回きわめて不自然な異物を給餌したことになります。
クモはラッピングした花を網から外すと第4脚で吊り下げつつ、甑に運びました。
未だ包みに横糸が少し粘着しているのに、構わず運んで引きちぎろうとしています。
途中で糸の抵抗に気づいたのか、振り向いて邪魔な横糸を切り包みを網から完全に外しました。
再び念入りに捕帯で包みます。
甑から左上に伸びる信号糸を伝って隠れ家に包を持ち帰りました。
獲物(花)を糸で固定してから捕食開始。

植物を主食とする唯一のクモとして、熱帯でアリアカシアの栄養体(エライオソーム)を食べるハエトリグモの一種が近年発見されています。(※追記参照)
日本に草食性(ベジタリアン)のクモが居るとは知らず、心底驚きました。
もちろんイシサワオニグモが普段は昆虫などを網で捕らえて食べる肉食性であることは、過去に何度も自分の目で観察しているので、疑う余地はありません。
完全な肉食でもベジタリアンでもなく、雑食性なのでしょうか?

イシサワオニグモ♀が網に付いた枯葉を捨てることを2年前に見ています。

▼関連記事
網に付いた枯葉を取り除くイシサワオニグモ♀(蜘蛛)

『網をはるクモ観察事典』p10によると、

造網性のクモは、網を振動させる行きた獲物だけをえさにします。そのため、小さな枯れ葉やゴミが網にかかっても、獲物とまちがえることはありません。でも、枯れ葉を音叉で振動させると、クモは枯れ葉を獲物とまちがえて糸を巻きはじめます。



映像をご覧の通り、今回アメリカセンダングサの花に音叉で振動は与えていないのにクモは梱包ラッピングしました。


本当に花を好んで食べているのか、他の可能性も考えて色々と実験してみました。
食べ始めたらさすがに「餌じゃない!」と過ちに気づいて花を捨てるだろうと予想したのですが…。

つづく→#2:隠れ家でアメリカセンダングサの花を食べ続けるイシサワオニグモ♀




【追記】
『種子散布―助けあいの進化論〈2〉動物たちがつくる森』という本に収録された総説、大河原恭祐『なぜアリ散布が進化したのか』を読んでいたら、興味深い記述を見つけて驚きました。
北海道の針広混交林の林床で4種のアリ散布植物(カタクリ、エゾエンゴサク、ミヤマスミレ、ツボスミレ)の種子捕食者を調べたところ、エライオソームを食害した節足動物にクモ類が含まれていたそうです。(p126-127より)
原著論文が一般に公開されていないので、そのクモが具体的に同定されているかどうか分かりません。
大河原恭祐. Seed dispersal of some myrmecochorous plant species, with effects of elaiosomes and ground beetles. 1996. PhD Thesis. 北海道大学. 邦題「アリ散布型植物数種における種子散布 : 特にエライオソームと地上歩行性甲虫の影響について」


農道をパトロールするネコ



2015年10月上旬

農村部で脇道(農道)を歩いていると、向こうから1頭のネコFelis silvestris catus)が歩いてきました。
どうやら近所で飼われている猫のようです。
望遠レンズで撮っている私に猫も気づき、立ち止まるとじっとこちらを凝視して警戒しています。
忍び足で更に近づいて来ます。
ときどき何かの物音に怯えて振り返りました。
左目が濁っていますかね?(白内障?)
私が行く手を塞いでいるので、ネコは遂にUターンして歩き去りました。
ときどきこちらを振り返ります。

轍の間で何か獲物(虫?)を見つけたようで草むらを調べています。(@2:50)
再び歩き始める際に軽く腰を屈めて排泄(排尿?)したように見えました。(@3:05)
しかしすぐに座り込んで毛繕いを始めたので、違うかもしれません。(自分の排泄物の上には座らないでしょう。)
股関を舐めています。
飛来したモンシロチョウ?にギクッと驚いたように身構えました。(@3:17)
立ち上がってまた歩き始め、今度は道端のイヌタデ群落を調べています。(@4:20)
虫を捕食しようとしているのかな?
ときどきこちらを振り返りながら、ゆっくりした足取りで奥を横切る車道に合流しました。
車道の手前の草地でごろんと寝そべり、毛繕いを開始。

つづく



2016/01/15

秋桜の花蜜を吸うトラマルハナバチ♀



2015年10月上旬

農村部の家庭菜園の畑に咲いた赤紫色のコスモストラマルハナバチBombus diversus diversus)のワーカー♀が訪花していました。
後脚の花粉籠は空荷でした。

秋風が吹いて秋桜の花が揺れ、撮りにくい条件でした。



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