2015/01/17

コガタスズメバチの廃巣で休むキアシナガバチ♂



2014年9月下旬


▼前回の記事
コガタスズメバチの古巣で休むキアシナガバチ♀
コガタスズメバチ巣の定点観察#2014-7

軒下にあるコガタスズメバチVespa analis insuralis)の廃巣に今度はキアシナガバチ♂(Polistes rothneyi)が巣の外被に止まっていました。
コガタスズメバチの巣内に侵入するでもなく、じっと見下ろしています。
スズメバチの古巣にアシナガバチが集まるのは、パルプ製の構造物が安心するのですかね?
新女王との交尾シーンは残念ながら見られませんでした。

辺りをキアシナガバチ♂やキボシアシナガバチ♂などのアシナガバチ類が複数飛び回っていました。
雄蜂が群飛するシーズンですね。


コガタスズメバチ廃巣の採集調査

外被の根元をナイフで削り取り(地上からの高さ239cm)、プラスチック容器で受けて持ち帰りました。
外被を解体して内部を調べてみると、巣盤は1層しか作られておらず、育房数は14室でした。
(一部スズメバチ自身によって取り壊された育房があるかもしれません。)
育房は一辺5mmの正六角形でした。
育房の奥に白いクモの巣のようなゴミが残されていました。
これは蜂の子が育ち羽化した跡なのか、白い繭キャップや前蛹が脱糞した跡なのかな?
初期巣の徳利状の細長い入り口構造はコガタスズメバチ自身によって取り壊されたので、少なくとも1匹のワーカーは羽化したはずです。


採集した巣の下に15cm定規を並べてみる。
外被の底部中央に巣口
小さな巣盤が一層のみ
空の育房
巣盤の裏面(天井部)。中央に切り落とした巣柄の跡

私がこれまでコガタスズメバチのコロニー規模を自力で調べたのは、未だ2例しかありません。

  1. 2008年にコロニー活動を全うし12月中旬に採集した巣では、巣盤が1層、育房数は68室で全て羽化済みでした。(→関連記事
  2. 2010年6月中旬に採集した初期巣では、廃巣の巣盤は1層、育房数は18室で卵と幼虫を確認。(→関連記事

3例目の今回はワーカーが羽化する前の初期巣と同程度の規模しか無く、明らかに異常です。

営巣初期に誰かが殺虫剤で駆除したのであれば、巣ごと破壊されそうなものです。
外被がほぼ無傷で残っていたので、その可能性は一応除外しておきます。
おそらく、この巣を創設した女王蜂の生殖能力に問題があったと思われます。
コガタスズメバチ事典」サイトによると、

秋口になっても1層や2層の小さな巣も見られます.この原因としては女王バチの早期死亡やネジレバネの寄生が考えられます.
スズメバチネジレバネについてはこちらのサイトに詳しい解説があります。

シリーズ完。


巣材を持ち帰るオオフタオビドロバチ♀の定位飛行【ハイスピード動画】



2014年9月下旬

里山の頂上付近でオオフタオビドロバチ♀(Anterhynchium flavomarginatum)が巣材集めにせっせと通っていました。
個体標識していませんが、おそらく同一個体の♀と思われます。
かなり太った(体格の良い)♀個体です。

赤土を掘って泥玉を作り終えると、帰巣します。
泥玉を抱えて飛び立つ瞬間を狙って240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
巣に戻る直前には扇状の定位飛行ではなく、低空飛行でぐるぐる旋回していました。
採土場をピンポイントに記憶する必要がないため、大雑把に全体的な風景を覚えるのでしょう。
あるいは太陽コンパスで巣の方角を見定めているのかもしれません。


▼関連記事(同一個体をHD動画にて撮影)
巣材を採土するオオフタオビドロバチ♀



川底でクルミを拾うハシボソガラス(野鳥)



2014年9月下旬

街中を流れる川にかかる橋で欄干に止まっていたハシボソガラスCorvus corone)にカメラを向けたら飛んで下流へ逃げ、川の浅瀬に着陸しました。
(映像はここから)

カラスは浅瀬の泥からクルミの実らしき物体を拾い上げました。
望遠レンズでもやや遠く、手前に生えた雑草も邪魔でよく見えません。
ただの丸い小石なのかクルミの実なのか、定かではありません。
これまで何度か動画に撮って紹介したように、この辺りのハシボソガラスはクルミの実を食べるためによく舗装路に投げ落として硬い殻を割っています。

▼関連記事
ハシボソガラスのクルミ割り行動:Ⅳ投げ落としと貯蔵【野鳥】
なので、今回の丸い物体もクルミの実ではないかと推測しました。
カラスがどこからクルミの実を採ってくるのか、いつも不思議でした。
上流から漂着したクルミをたまたま見つけたのか、ひょっとすると予めここに隠していた(貯食)のかもしれません。
ところがなぜかクルミの実をその場に残して(埋め戻して)、水際へ歩み寄りました。
今度は川底から泥だらけのクルミ?をもう一つ拾い上げました。
水に漬けて泥を落とすと、岸辺の浅瀬に戻り泥の中に埋め戻しました。
なんとなく、貯食行動のようにも見えます。
こんな場所に食料を隠しても川が増水したら一巻の終わりです。
賢いカラスがそんな馬鹿なことするかな〜?と首をひねりつつ撮影していました。

私にずっと見られていることに気づいてバツが悪くなったのか、ハシボソガラスは貯食を中止してしまいました。
嘴にクルミを一つ咥えて飛び立つと、川岸の住宅地の方へ持ち去りました。
どこか安全な場所で投げ落とし行動に勤しみ、殻を割って仁を食すのでしょう。

私は未経験ですが、我々ヒトがオニグルミの実を食べようとすると、おそろしく手間暇がかかるらしいです。

関連記事(8年後の撮影)▶ オニグルミの落果を採集(クルミ拾い)

先ず必要な工程として、クルミの落果を水に浸したり土に埋めたりして外果(果肉)を腐食させ、同時に灰汁(アク)を抜くそうです。
今回観察したカラスも同じことをしていたのかもしれませんね!
実は縄文時代の日本人はカラスにクルミの食べ方を教えてもらったのでは?などと想像を逞しくしてしまいます。
しかしカラスは頑強で器用な嘴を持っているので、わざわざそんな面倒臭いことしなくても果肉をつついて取り除くぐらい朝飯前のような気もします。(生の果肉に含まれる灰汁が嫌いなのかな?)


【参考動画】
野性を食べよう「オニグルミ」by ktbktshさん



さて、今回撮った映像にタイトルをどのように付けたら良いでしょう?
貯食未遂行動と呼ぶべきか、クルミを拾いに来たカラスの気まぐれな採食行動なのか、川底の泥にクルミの実を埋め果肉が腐食するのを待っていたのか、解釈に悩みます。

断片的で不完全な映像記録ながらも、もしかすると重要なミッシングリンクかもしれない!と密かに興奮しました。


【追記】
2015年5月中旬、ハシボソガラスがクルミの樹の下から実を咥えて飛び去る姿を目撃しました(映像なし)。


【追記2】
水辺に好んで生えるクルミは水流で種子を散布する植物なのだそうです。
てっきり私は動物散布の中でもリスによる貯食散布に頼る戦略なのかと思っていました。
水流散布も水を利用するのは同じだが、こちらは川の流れにのって散布される。クルミがその代表的なもので、こちらの種子の内部にもすき間がある。
(直江将司『わたしの森林研究―鳥のタネまき​に注目して』p28より)

どちらが正しいという訳ではなく、クルミは2つの戦略を併用しているのだと思います。


水辺林の生態学』によれば、
(オニグルミの:しぐま註)核果状の堅果は落下後、齧歯類やリスによって運ばれるほか、流水によっても移動し、分布を拡大する。(p51より引用)


【追記3】
斎藤新一郎『リスやカケスが森をつくる:樹木種子の貯食型散布と樹木の貯食への適応』によると、
オニグルミJuglans ailanthifoliaのタネは、形態的には、多肉の偽果(fleshly false fruit)であり、成熟すれば、そのまま落果する。しかし、恐竜ならともかく、今日では、そのまま飲み込んで、被食型の散布をする動物は見られない。(中略)この多肉偽果は、土埋されれば、外側の果肉部分が腐って、殻果となる。このナッツを食べる動物は、この果肉部分を食い捨てて、殻果にしてから、地下に貯蔵する。(『種子散布―助けあいの進化論〈2〉動物たちがつくる森』p91-92より引用)
ちなみにこの文脈で、北海道でオニグルミの殻果を貯食する動物としては、エゾリスおよびエゾアカネズミを想定しています。 




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