2014/11/22

巣の近くで空中戦を繰り広げるモンスズメバチ♀【ハイスピード動画】



2014年8月中旬

モンスズメバチの巣の定点観察1

里山の雑木林でクヌギの樹洞にモンスズメバチVespa crabro flavofasciata)が営巣していました。
斜面に立つ木の幹に開いた小ぶりな樹洞は北(斜面の上側)に面しています。
樹洞の直径および地上からの高さを測定したいのですが、防護服を着用しないと危なそうで迂闊には近づく気になりません。
しかし前評判とは異なり、モンスズメバチが巣の近くで特に攻撃性が高いという印象は受けませんでした。

実はこの夏ずっと定点観察に通っていたミズナラ樹液酒場のすぐ近くにクヌギは生えていました。
前回(9日前)来た時に、モンスズメバチの巣の活動に気づかなかったとは不覚でした。
単に私の注意力不足かもしれませんが、つい最近ワーカーが羽化したばかりのコロニーかもしれません。
ひょっとすると、手狭になった母巣から樹洞へまさにこの日に引っ越してきたばかりという可能性もあります。
モンスズメバチとキイロスズメバチは、営巣の途中で引っ越しをする性質をもっています。

(モンスズメバチの)女王蜂は地表近くの狭い閉鎖空間などに巣を創設するが、働き蜂が羽化して巣が大きくなり手狭になると、大木の空洞などの広い空間に引っ越しをすることが多い。(『スズメバチの科学』p18より)


どうしてワーカーがこんなに興奮したように忙しなく巣に出入りしているのか、非常に不思議でした。
モンスズメバチの巣を見つけたのは初めてなので、これが普通の状態なのか分かりません。
出巣した蜂がすぐに舞い戻って帰巣する、という謎の行動を繰り返しています。
オオスズメバチなどの外敵に対してコロニー全体が警戒しているのか、発酵した樹液を飲んで酔っ払って騒いでいるのか、よく分かりません。
獲物としてセミをよく狩るらしいのですけど、肉団子を搬入している姿を全く見ていません。
帰巣しても樹洞内に入る個体は滅多に居らず、すぐにまた飛び立ちます(出巣)。

巣の周囲を飛び回る外役ワーカー♀の様子を240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
スローモーションで見ると、帰巣しようとする個体に対して在巣のワーカー(門衛?)がスクランブル(緊急発進)で迎撃しています。
正面からぶつかるように軽い空中戦が行われます。
帰巣直前のワーカー同士で空中戦になることもあります。
もつれ合うように落ちても地上で格闘したり毒針を使った殺し合いには至らずすぐに別れます。
同じコロニーの仲間だと気づいたのでしょう。
何らかの理由でコロニー全体の気が立っていて、巣を守るために接近する仲間に対しても誤認攻撃を繰り返しているのかな?
あるいは、羽化したばかりでこれから外役に就くワーカー♀が巣の位置を記憶するための定位飛行なのかもしれません。
この騒ぎを眺めていると、素人目にはなんとなく互いに空中戦を仕掛ける遊びを楽しんでいるのではないか、という気さえしてきました。
三脚を立てて静かに撮影する私に対してモンスズメバチが攻撃を加えることはありませんでした。

帰巣直前に空中で脱糞する瞬間が偶然撮れていました。@5:37
ホバリング(停空飛翔)しながら白い液体を2滴排泄しました。

つづく→巣に出入りする様子のHD動画


クヌギの枝葉
クヌギの幹。モンスズメバチが営巣する樹洞(右下)の反対側にもう一つ樹洞がある(左上、枝の下)。

ミズナラの樹液を吸いつつ翅紋を誇示するハネフリバエ科Pseudotephritis millepunctata



2014年8月上旬

里山の雑木林で樹液が滲むミズナラの幹に小さなハエが集まっていました。
特徴的な斑紋をもつ翅を動かしながら樹液を舐めています
左右の翅を同時に根元からぐるぐる回し続けています。
これは捕食者を幻惑するための行動なのですかね?
異性にアピールする求愛誇示なのかな?
ただし、この樹液酒場で交尾行動は見ていません。
腹端に黒く細長い筒のようなヘラのような産卵管を持つのが明らかに♀でしょう。
(樹液によく来るのはショウジョウバエ科ですけど、このような産卵管の形状はミバエ科ですかね?)
一方、腹端に産卵管が無い♂と思われる個体も腹部が膨満している体形です。
同種の♂♀なのか、それとも別種なのか、私には分かりません。
樹液酒場では他の昆虫よりも力関係の序列が低いようで、忙しなく動き回っています。



撮影後にこの日は1匹だけ採集して帰りました。
(後で思うと、♀♂ペアで採集すべきでした。)
以下は標本写真。



いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂・改」掲示板に投稿して質問したところ、まずアノニモミイアさんより以下の回答を頂きました。
ハネフリバエ科UlidiidaeのOtitinae亜科の1種ではないでしょうか(Otitidaeは現在Ulidiidaeの亜科として扱われています)。
Die Fliegenの翅の図版だけで絵合わせをすれば,Myennis millepunctata Hennig, 1939 にほとんど完全に一致しています。
本種は1927年6月15日にStackelbergによってUssuriのSutschanのSt. Sizaで採集された1雌によって新種として記載されたものです(Die Fliegen, Otitidae, p. 73, Taf. V, Fig. 60)。お尋ねのハエがこの種に一致するかどうかは,写真では原記載と照合できない形質が多々ありますので,わかりません。
本種はThe key to the insects of Russian Far East, Vol.6, part 2, p. 160では,Pseudotephritis属に移され,分布はアムール地方が含まれています。また,ussurica N. Krivosheina et M. Krivosheinaがこの種のシノニムとされています。この種,ussuricaはEnt. Oboz.1997の671-678のRevision of the Palaearctic species of the genus Pseudotephritis(原題はロシア語)で記載されたものでしょう。属が移されたので,学名はPseudotephritis millepunctata (Hennig, 1939)になるでしょう。
日本昆虫目録第8巻双翅目では本亜科には,Ceroxys sp.,Melieria crassipennis (Fabricius)の2種が掲載されています。後者の斑紋はDie Fliegenで見る限りあなたのハエとは翅の斑紋が一致していません。他にもHerina属の種が日本にいますが,これとは異なります。


次に茨城@市毛さんからも次のようにご教示頂きました。
Pseudotephritis millepunctataについては,"Han, Ho-Yeon. 2013. A Checklist of the Families Lonchaeidae, Pallopteridae, Platystomatidae, and Ulidiidae (Insecta: Diptera: Tephritoidea) in Korea with Notes on 12 Species New to Korea. Anim. Syst. Evol. Divers. 29(1):56-69"に生態写真が載っています.
同氏の説明では,"This species is clearly distinguishable from any other species of Ulidiidae by the numerous dark dots on its body."と記されており,しぐまさんの写真にも同様な暗色斑が多数あります.
"A Checklist of the Families Lonchaeidae, Pallopteridae"で検索すると,ネットでPDFが見られます.
ハネフリバエ科というのは本当に初耳でした。
まさに名は体(行動)を表すのですね。
この翅の動きにはどんな意味があるのか、とても興味があります。


【追記】
同じミズナラ樹液酒場で8月中旬、同種♂も採集しました。
以下は♂標本写真。
腹端の形状が♀と異なります。

『日本動物大百科9昆虫II』p106によると、
双翅類(ハエ目)♀の生殖器節は産卵管と称されるが、これは腹節そのものの変形であり、直翅類などの産卵管とはまったく起源を異にしている。




♂右翅脈

♂左翅脈



♂腹背



真夏に日光浴するヒオドシチョウ



2014年8月中旬

山道の脇のちょっとした崖でヒオドシチョウNymphalis xanthomelas japonica)が止まっていました。
翅を開閉しつつ日光浴していました。
全開にするとさすがに暑いのでしょう。
口吻は伸ばしていないので、土を舐めている(ミネラル摂取)のではないと思います。
最後はようやく飛んでくれました。

本種は年一回、初夏の6月頃に羽化した成虫が夏眠し、そのまま越冬するという生活史を送ります。
そのため真夏のこの時期に成虫を見かけるのは珍しく、記憶にありません。
現場は避暑地というほど高山ではなく、身近な里山です。
実はこの直前にもう一頭見かけましたが、林縁に逃げられ撮り損ねました。



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