2017/11/20

ハチに擬態したシロスジナガハナアブ♀は捕獲すると刺す真似をするか?



2017年7月下旬

室内で虫の羽音が聞こえるので振り返ると、窓際をシロスジナガハナアブ♀(Milesia undulata)が飛び回っていました。
いつの間にか室内に侵入したようです。
本種はハチにベイツ型擬態している例として考えられています。
擬態のモデルとなった蜂は、なんとなくコアシナガバチPolistes snelleni)ではないかと個人的には考えています。

とりあえずプラスチック容器で捕獲

ベイツ型擬態のシロスジナガハナアブ:腰に白い部分がありハチの細い腰を彷彿とさせる。一定の場所を占有し、近づく虫や人を駆逐するような行動をとることがある。飛び方や羽音もハチに似て、一瞬たじろぐ。 (wikipedia「擬態」の項目で写真の説明より引用)


7年前に初めてこのアブを撮ったときに、面白い話を教えてもらいました。
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本種のベーツ擬態は外見だけにとどまらず、捕まえると尾端を押し付けるようにしてまるでハチが刺すような真似をするのだそうです。


ずっと気になっていたので、この機会に早速、実験してみました。
捕獲したアブをビニール袋に移してから炭酸ガスで麻酔し、指で翅をつまみました。
本種はハナアブの仲間で吸血性ではありませんから、口器で指を刺される心配はない…はずです。

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汗を舐めるシロスジナガハナアブ♀

麻酔から醒めるとアブは逃れようと必死に暴れ始めます。
確かにときどき腹部を屈曲させています。
ハチが腹端の毒針で刺す行動に似ていなくもありません。
しかし意外にも、それほど頻繁にはやりませんでした。

ハンディカムで動画に撮りながらだと片手しか保定に使えないので、苦労しました。(三脚を使えば良かった…。)
翅ではなくてアブの足を摘んだ方が良かったかもしれません。
ときどき胸部の飛翔筋を高速振動させる音がビー♪と響きます。
やがて疲れたのか諦めたのか、あまり暴れなくなりました。

果たしてこれが本当に「行動の擬態」と呼べるのかどうか、疑い深い私は未だ信じきれません。
ハチ類の一部が狩蜂に進化する過程で腹部にくびれが生まれ、そのおかげで♀の腹端にある毒針で刺す動きに自由度が生まれたと考えられています。
シロスジナガハナアブが腹部を深く屈曲させるにはアシナガバチの前伸腹節のような腰のくびれが足りないように思います。

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翅をつままれたら脚と腹部ぐらいしか自由に動かせませんから、どんなハナアブでも腹部を繰り返し屈曲しそうな気がします。
比較対象として、蜂に擬態していないハナアブではどうなのか、検討する必要がありますね。
もし蜂にベーツ擬態するアブだけが腹部をハチのように曲げるのなら、確かにハチが毒針で刺す真似をしている行動擬態と言えそうです。
そんなに難しく考えなくても、腹部を少し屈曲することで「刺すハチ」に似た外見と相まって鳥などの天敵や捕食者に恐怖の記憶が蘇ってたじろがせる効果があれば、それで充分なのかもしれません。

例えば、何らかの方法でシロスジナガハナアブの腹部を屈曲できないようにすると鳥に捕食されてしまう率が上がるのか、調べれば良さそうです。(言うは易く行うは難し)
これを実証しようとすると、擬態モデルのハチに刺された経験のある鳥を準備するところから大変そうです。


【参考図書】
上田恵介・有田豊『黄色と黒はハチ模様:ハチに擬態する昆虫類』 (『擬態:だましあいの進化論〈1〉昆虫の擬態』p62-71に収録) によると、

クロスズメバチの巣を好んで襲うハチクマは例外にして、鳥がスズメバチやアシナガバチを食べている場面を見かけることは滅多にない。毒針を持つ蜂を、鳥が避けるのは、一般的な傾向である。とすると、針はないが、ハチの姿をまねることで、鳥に襲われないようにして生存価を高める擬態形質が進化しうる。(p62より引用) 

”虻蜂取らず”はアブの戦略 
針を持たないのにハチの姿をまねている昆虫というと、まず双翅目のアブ類が挙げられる。(p62より) 
こうしたハチ擬態はどのようにして進化してきたのだろう。人が見て”そっくりである”ということと、その昆虫がモデルであるハチに本当に擬態しているのかどうかは別の問題である。これはその擬態種の形態を進化させた淘汰圧がなにかによって異なってくる。(p69より)
ハチ擬態をする昆虫の野外での生態はまだよく調べられていないし、実際にこうした擬態が捕食者にどの程度の効果があるのかもよくわかっていない。(p71より) 


以下は標本の写真。




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