2015/10/11

アリジゴク営巣地で採土するミカドトックリバチ♀



2015年7月下旬

急斜面の杉林でスギの木の根元に数匹のアリジゴク(ウスバカゲロウの仲間の幼虫)が巣穴を構えていました。

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その営巣地の横でミカドトックリバチ♀(Eumenes micado)が泥団子を作っていました。
巣材集めにせっせと通って来ているのです。
トックリバチの採土行動そのものはこれまで何度も観察しているので、物珍しさはありません。
水を吐き戻して土を軟化しながら大顎で地面を掘り、小さな泥玉に丸めて巣に持ち帰ります。

辺りの林床はスギの落ち葉で覆われていて、木の根元以外で土が露出した地面はありません。
巣材集めの場所はこの狭い範囲の中でも毎回微妙に違うようでした。
採土を始めても土質が気に入らなければ何度も場所を変えます。

後半は急斜面に苦労して三脚を立て、初めての試みとしてビデオカメラの動体検知モードで監視してみました。
しかし残念ながら、被写体の蜂が小さ過ぎてセンサーが動体検知してくれませんでした。
仕方がないので、蜂が飛来する度に手動で録画を開始しました。

トックリバチの造巣行動(徳利作り)を私は未だ観察したことがありません。
このミカドトックリバチの営巣地をなんとか突き止めようと、しつこく頑張りました。
泥玉を抱え飛んで帰巣する蜂を毎回追いかけるも、急斜面を登り切った辺りでいつも見失ってしまいます。
撮影はカメラに任せながら蜂の帰路の途中で待ち構えていても、独りで蜂を追跡するのは無理でした。
今回も悲願を果たせず、小型発信機を蜂に装着できれば…といつも思います。

採土の前に蜂は水を飲んでくるはずですが、その水場がどこにあるのかも分かりませんでした。



この個体はかなり臆病というか神経質な印象を受けました。
そっと近づきマクロレンズで接写しようとすると、嫌がって(警戒して)逃げてしまいます。
(※ この接写パートだけ動画編集時に自動色調補正を施してあります。)
逃げた蜂が、横のスギの小枝の下面にしがみつきながら泥玉を丸めていました。
齧り取った樹皮を巣材に混ぜ込んでいるのか?と一瞬興奮しかけたのですが、このとき限りの行動だったので、おそらく一時避難しただけでしょう。
接写は諦めて少し離れた位置から望遠マクロで狙うことにしました。
通りすがりの小さなアリに作業を邪魔されたときも蜂は警戒して一旦採土場から離れ、ほとぼりが冷めてから戻って来ます。



さて、ミカドトックリバチがアリジゴクの巣穴の近くで採土するのを見たのはこれが二度目です。

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果たしてこれは偶然でしょうか?
アリジゴクとトックリバチは、今のところ互いに没交渉…に見えます。
もし好みの土質が同じなら、ドロバチもまずアリジゴクの巣を探すようになるかもしれません。
クレーター状の地形を目印に探しているかもしれません。
あるいはアリの死臭を頼りに探索する可能性も考えられます。
今回は蜂が足を踏み外してアリジゴクの落とし穴にうっかり嵌ることはありませんでした。
アリジゴクがもしミカドトックリバチの脚に噛み付き毒液を注入したらどうなるでしょう?
圧倒的な体格差があっても餌食になることがあるのかな?
それともミカドトックリバチ♀が毒針を使ってアリジゴクを返り討ちにするでしょうか?
そのうちに、獲物としてアリジゴクを狩る新種へと進化しないだろうか?(種分化)と…あらぬ空想に耽りながら眺めていました。(※※追記参照)
アリジゴクが丁寧に篩いにかけ耕したおかげで砂のようにサラサラになった土が豊富にありますから、そのクレーターからサラサラの土を失敬すれば楽に泥団子を作れそうです(一種の労働寄生?)。
しかしミカドトックリバチはそうしないで、小石の横などからわざわざ固い地面をかじり取るのを好むようです。
水分が飛んで乾燥すればカチカチに固まることが保証されている締まった土を選んで巣材としているのでしょうか。
むしろ固い地面をトックリバチがせっせと掘ってくれるおかげで蟻地獄の方が恩恵を受けているのかもしれません。


※ アリジゴクとは無関係の場所から採土するミカドトックリバチは何度も見かけています。
むしろこれまでアリジゴク営巣地での採土は2例しか見ていないので、仮説というには弱く、ただの妄想のようなこじつけかもしれません。

※※ 【追記】
小松貴『フィールドの生物学14:裏山の奇人―野にたゆたう博物学』p122-125によると、筆者はマレーシアの高床式住居の軒下で、ウスバカゲロウの幼虫に寄生するツリアブの一種や、蟻地獄の巣に自ら飛び込んで幼虫を狩るギングチバチの一種(おそらく新種)を目撃しています。



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