2013/09/06

シロホシヒメゾウムシの早漏♂(交尾失敗と体外射精)



2013年7月下旬

林道脇に咲いたオカトラノオの群落で交尾中の小型ゾウムシを見つけました。
周囲の環境はスギの植林地でした。
♂を背負ったまま♀がオカトラノオの白い花の上を歩き回っています。
発見時はマウントしているだけで未だ交尾器を結合していませんでした。
ただでさえ杉林は暗いのに小雨がぱらつき始め、接写の大敵である風も吹き始めました。
風揺れ対策の裏技として、花をナイフでそっと切り落として地面に置いて接写しました。

♀の上にマウントした♂はときどき前脚で♀の肩を優しく叩いています。
これは求愛行動なのでしょうか?
♀に静止を促す合図なのかもしれません。
昆虫の♀の多くは交尾中でも「色気より食い気」で食事を続けることが多いのですが、この♀はじっと静止していました。
やがて♂の腹端から交尾器が伸びてきました。
ところが♂の交尾器が届かず♀の生殖器に挿入できないでいます。
通常は♀>♂なのに、このペアは体長のミスマッチが著しく(♀<♂)上手く交尾できないようです。

驚いたことに、長く伸びた♂交尾器の先端から白い粘液状の精液を放出しました。@3:30
挿入前なのに早撃ちしてしまったようです。
射精後の♂交尾器はそのまま収縮して体内に収納されました。
私の知る限り、甲虫の交尾は直翅目のように体外に分泌した精包を♀に渡す方法ではなかった筈です。
それとも実は既に交尾は済んでおり、♂が凝固性分泌物を塗りつけて♀の交尾器に栓をしようとしているのでしょうか?(浮気防止の交尾プラグ)
虫でこれをやるのはチョウやクモぐらいしか聞いたことがないので※、私の考え過ぎかもしれません。

※ 宮竹貴久『恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書) 』p161によると、

♂が自分の分泌物で♀の生殖器を塞ぐ貞操帯は様々な生物で進化しており、わりと人気の高い浮気防止システムといえる。モルモット、リス、チンパンジー、コウモリ、ネズミ、ヘビ、クモ、チョウ、ハエなど実に様々な分類群で交尾プラグとしての貞操帯が発見されている。


※ 木村一貫『暴走する愛―カタツムリの交尾と恋の矢』を読んでいたら、「♀の生殖器に栓をして再交尾できなくするオサムシ」という短い記述を見つけました。(『貝のストーリー: 「貝的生活」をめぐる7つの謎解き』p14より引用)

オサムシについて私は勉強不足なのですが、ネットで検索すると、♀の生殖器内に渡した精包はライバル♂の邪魔をする交尾栓として機能するのだそうです。(参考サイト




早漏の♂は諦めきれないようで、再び前脚で♀をタッピング。
口吻と触角でも♀に触れています。
どうやらこの行動が交尾器を伸ばす前兆(交尾前行動)のようです。
もしかすると♂の求愛や前戯というよりも、単に♂がマウント姿勢や挿入角度を微調節しようとモゾモゾ動いているだけかもしれません。

♂が再び交尾器を伸長しても依然としてうまく連結できません。
♀が非協力的で密かに交尾拒否しているのでしょうか?
私がオカトラノオ花を切り離した振動のせいで、警戒心の強い♀が擬死状態なのかもしれません。
(実は♂同士である可能性は?)
シロホシヒメゾウムシの交尾で正常例を見ない限り、全ては憶測でしかありません。
関連記事(8年後の撮影:正常な交尾の例)▶ ノギランの花序で交尾するシロホシヒメゾウムシ♀♂

またもや体外で無駄に射精した後(@9:46)、♂交尾器を縮めて体内に収納しました。

見慣れないゾウムシでしたが、美しい模様があります。
ところで、本種の和名は「シロホシヒメゾウムシ」「シラホシヒメゾウムシ」のどちらなのでしょう?
手元にある図鑑『山渓フィールドブックス13:甲虫』p60ではシホシヒメゾウムシとされています。
一方、九大の「昆虫学名和名検索」データベースでは「Baris dispilota シホシヒメゾウムシ」と登録されていて、シロホシはありません。
どちらかが誤表記だと思われます。
Google検索でヒット数を比べてみてもシロホシヒメゾウムシが約 19,000 件、シラホシヒメゾウムシが約 10,600 件となり、かなり混乱している状況(表記の揺らぎ)が伺えます。






赤裸々な早漏シーンを撮り終えた後はペアを採集して持ち帰りました。

♂の方が早死しました。
じっくり接写してみると、2匹の腹面に興味深い違いが認められました。
大型♂の腹面には、♀にマウントするための凹みがありました。
小型♀の腹面にはこの凹みはありません。
同様の性差はオトシブミの図鑑で見たことがあります。
ゾウムシの性別判定法は知りませんが、腹面の凹みという明確な性差があったことから、小型の♂を♀と誤認して交尾しようとしていた可能性は否定できそうです。

図鑑『山渓フィールドブックス13:甲虫』によれば、本種の体長は5〜6mmとあります。
今回採集したペアを方眼紙に乗せて採寸すると、♀6mm、♂7mmでした。
従って、♀が小さ過ぎるのではなく♂が大き過ぎることになります。


♂標本:背面@方眼紙


♂標本:側面@方眼紙

♂標本:腹面(凹あり)

♂標本:腹面(腹端に精液が付着)

♀背面@方眼紙

♀側面@擬死

♀側面@擬死

♀腹面@擬死(腹部腹面に凹無し)

【追記】

甲虫ではありませんが『ハエ学:多様な生活と謎を探る』p238によると、
ヨシノメバエでは体長の差、特に腹部の長さは雌雄の正常な交尾に影響することが実験的に確かめられる。(中略)雌雄の体長差が一定の範囲を超えた場合、明らかに機械的な生殖的隔離が作用する。それは♂が交尾器の接合に手間取る結果、♀が交尾拒否の行動をはじめるからである。



【追記2】
丸山宗利『昆虫はすごい 』(光文社新書)p88~89によれば、

昆虫では陰茎も膣も柔軟性や伸縮性のあまりない外骨格でできているのである。そこで昆虫の場合、♀の交尾器(膣)と♂の交尾器(陰茎)が、それぞれ錠と鍵の関係になっていることが多い。
一方、そのようなしっかりした錠と鍵の関係があると、たとえば栄養状態がよくて大きくなってしまった♂成虫と、栄養状態が悪くて小さく成長した♀成虫が交尾できないという問題が生じる。つまり大きな鍵が小さな鍵穴に挿さらない可能性がある。
(中略)多数のノコギリクワガタで体のあちこちを計測した研究は、体のほかの部分の変異の大きさにくらべ、♂の陰茎の大きさの変異が小さいということがわかっている。



【おまけの動画】
最近のニュースで取り上げられた、夢精するイルカ。
早漏ゾウムシをニュースにするには刺激が強すぎるでしょうか(18禁?)



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